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東京、まいける、蝉。

(今回の内容、ギターは全く関係無いです)
(実際のセミの写真が出てくるので、苦手な方はそーっとブラウザバックしましょう)

7月になってから、ヤバめの暑さにHPを削られている方も多いかと思います。夏といえばセミですね。セミの鳴き声を答えなさい、という問いに対して、ほぼすべての日本人が「ミンミン」あるいは「ミーンミーン」と答えるでしょう。日本の夏といえばミンミン、ミンミンといえば日本の夏なわけです。

一方で、実際にこの鳴き声を耳にした経験がある人は、実はそう多くないと私は思っています。アイコニックなこの鳴き声はミンミンゼミ(Hyalessa maculaticollis)が発しているわけですが、ミンミンゼミの分布はかなりいびつです。

上の画像は環境省生物環境局生物多様性センターによる調査結果(https://www.biodic.go.jp/reports/5-2/n018.html#:~:text=%E3%80%90%E5%88%86%E5%B8%83%E3%81%A8%E7%94%9F%E6%85%8B%E3%80%91%20%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%EF%BD%9E,%E3%82%84%E3%82%B1%E3%83%A4%E3%82%AD%E3%82%92%E5%A5%BD%E3%81%BF%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82)の一部であり、赤い点は、ミンミンゼミの幼虫の抜け殻が発見されたポイント(n=1,832)を示しています。分布は関東一帯に集中しており、その他の地域では散発的です。一部地域では抜け殻は全く発見されていません。

またウェザーニュースの調査によると、聞こえてくるセミの鳴き声には地域差があります。ミンミンゼミは関東〜東北の太平洋側で支配的ですが、その他の地域ではクマゼミまたはアブラゼミが支配的です。(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF232HI0T20C21A5000000/

こうした事実を踏まえると、関西、中国四国、九州沖縄には「そういえばミンミンって聞いたことねえわ」という人が一定数存在していると思うんですよね。

かくいう私もその一人で「会いてえなあ、ミンミンゼミによオ」と思いながら悶々とした幼年期および少年期を過ごしました。成人してしばらくしたある日に、旅行で東京を訪れ、初めて耳にするミンミンゼミの鳴き声にいたく感動したことをよく覚えています。

その数年後、私は地元から上京しました。夏の酷暑に命を散らして産まれる危険物、通称「セミ爆弾」を人々は忌み嫌いますが、東京の自宅アパートに迷い込んできたミンミンゼミ爆弾を見つけた私は、思わずスマホで写真を撮ってしまったのです。写真で見るミンミンゼミはずんぐりむっくりしていますが、実際には小柄な体格だったので、そのギャップもまた私の脳裏に焼きついています。

人・物・金がひっきりなしに行き交う街の東京において、私は人的・物質的な豊かさと共に生命の豊かさに触れたのです。森鴎外は「舞姫」の冒頭で、以下の様な文を書き記しています。

このセイゴンの港まで来し頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新ならぬはなく、筆に任せて書き記しつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけむ…

「洋行の官命」に尽力せんとする太田豊太郎の心意気と、私のちっぽけな上京体験など比べられようはずもありませんが、根底にある気持ちはきっと同じなのでしょう。

東京、良い街です。



次回予告、「東京、まいける、墓地。」

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