斜里寿司

斜里寿司

    最近の記事

    神々の声

     ミシリ、と音が聞こえた。  船を漕いていたノブはぎょっとして、音のした方を大きな目で見た。 「おい、聞こえたか今の…」   隣りにいたコノワを叩き起こして尋ねると、彼は煤けた顔をごしごし擦って 「気の所為…じゃないよなぁ」溜息を付いた。  「いやぁ、悪い」  「勘弁してくれよ、こんな所で」  「でもどうにもならないし」  音の主、カバノは力なく笑って首を竦めた。  「いや、まぁ、俺らも長いしさ、しょうがない」  音を聞きつけた仲間達が続々集まってきた。  「そうか、

      • 【デッド・オン・タイム・リーヴ・オン・タイム #1(改訂版)】

        1 ネオサイタマ市警本部の片隅、もっとも小さな部署の小さなビルディングの前には古びた掲示板が立っている。重金属酸性雨に打たれ、今にも朽ち落ちそうな木製の看板は、前日交通事故に遭った人間の数を掲示するため設置されている。心ある市民は毎朝ここにやってきて、「ケガ・死亡 0人 オツカレサマドスエ」と書かれたショドーを見る。そして平和なネオサイタマを讃えながら自分のビジネスへ帰っていく。 しかし、ネオサイタマ市警は実際のところ、交通事故なぞマトモに取り扱っていないのである。毎日数え切

        • 核強打拳、今日も征く

          203X年、世界は核の炎に包まれた。 大国同士の核アポカリプスは回避された。しかし人々の軋轢は破壊力を求めた。あらゆる諸問題の解法を個々人は核に求めた。 拳サイズ超小型核兵器、2029年の発明は一瞬にして世界を地獄へ変えたのだった。 ----- ---- ----- 独り、さまよう男があった。 誰かの核パンチで焼き払われた広野を、フラフラと歩く男がいた。 黒い雨に打たれてボロボロになったコートを羽織り、色あせたジーンズは穴だらけ、革のジャケットは放射線に灼かれて干か

          • 違法寿司

            神崎は狼狽えた。社会人2年目の彼にはとても重すぎる瑕疵であった。 彼が前任者から引き継いだ取引先は、令和のご時世にあるまじきいい加減さを顧みもしなかった。卸売業者に勤める神崎は食品加工業の仕事なぞ当然理解していない。故に付け込まれたか、取引先の太田原食品は出荷する食品のあらゆる基準を守っていなかった。栄養素も適当、衛生性もいい加減、流石に異物混入は取り除いたらしいが、卸売業者諸共に信用を失墜させるに充分な大ポカを山と積み上げていた。それも、何年も前から。 哀れにも、このい

            ドブヶ丘図書館司書の日誌

            7月8日 ㈪ 今日も誰かを恨みたい。 あー、クソ。本当にクソだ。誰も来やしないってのに、給料に釣られて図書館の司書になんかなるんじゃなかった。 やっぱりあの機械を入れたのは失敗だった。テキトー扱いて拒否ればよかったな。蔵書検索機なんて、こんなドブまみれの図書館でクソも役立つはずないのに。 おかげで図書検索用の人員が一人減らされてアタイ独りになっちまった。せっかくイジメてやれる相手がいたのに。 そもそもこんなクサレ図書館で、マトモに読める本が一冊でもあるってなら見せてほしいわ。

            虚無寿司

            ある日、路地裏にてーーー なんだ、見ない顔だな。 今どき隣街からこっちに来る人間なんてまずいないんだが。 俺はここらの人間ならみんな知ってる。俺が知らねえってことは余所者だ。 アンタ、どこから来た? …ははぁ、その調子だと、最近「起きた」人間だな?冷凍保存(コールドスリープ)されてたんだろう。未だに寝てる奴がいるとは思わなかったがね。 『中京』って言ったか?あそこは裕福な地域だったって聞いてるが、そうか、とうとう資源が尽きたか。 アンタもびっくりしたろう、起こされてみれば

            【ティル・ザ・ムーン・ライジス】

            「GROWL!」ベアハンターは爪の一振りでナイトウィンドを弾き飛ばし、片腕を奪った。 眼の前にはなお敵ニンジャ。赤い装束の女ニンジャはおそらく手練、しかも異様なニンジャの匂いがする。おそらく「リアルニンジャ」という奴であろう。双頭の巨体ニンジャといい、レジスタンスもよくここまでバケモノを集めたものだ。ベアハンターは柄になく感心していた。 「G…GRRRRR!」ベアハンターは月を見上げて吠えた。力がさらに漲ってくる。裂創が癒えていく。そして敵への殺意がこの上なく湧いてくる。

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】分割版 #3-2(最終回)

            (#3-1の続き) そろそろ買い物を終え、飛行機に乗る時間が迫っていた。タケルは何かしら買うべき土産を決めなければならない。「レロイ・ブラウン=サン。僕、このユノミを買うよ」タケルが差し出したのは、先程指さしたレロイ・ブラウンが描いたなんちゃって伝統柄のユノミだった。実際カネを出すのはタケルの両親だが、値札が付いていないのが少し不安だった。「お目が高いぜご客人。だが…コイツは売れないな」レロイ・ブラウンは首を振ってユノミを手に取った。「えっ、売り物じゃなかったの」「そうさ。

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】 分割版 #3-1

            3 タケルは不思議といつも通りに両親よりも早く目を覚ました。昨晩はあんなに夜更かししたのに、ちっとも疲れていなかった。その割には、荷造りする手は遅々として進まないのだった。 今日はオキナワ第1国際空港でショッピングを楽しんだ後、ネオサイタマに帰る算段になっている。学校にお土産を買って帰ることはできないが、せめて思い出の品を持ち帰ろうと旅行前に決めていたことだった。タケルには何が思い出の品たりえるか、想像もできなかったが、きっと大きなショッピングモールだから何かしらはあるだろ

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】 分割版 #2-2

            (#2-1の続き) 二人は小さな扉からホテルに侵入した。ネコ用の勝手口は、タケルには十分大きかったが、レロイ・ブラウンには小さすぎるように思われた。しかし不思議と、彼はするすると通り抜けた。 二人が入ったのは食料庫であり、無人であった。辺り一面に果物の甘い香りと、脱穀していないコメの香ばしい薫りが漂い、タケルはそれだけで少しクラクラした。「これだけの豪華食材に比べたら、こんな餌なんて小遣いだよな、タケル=サン?」レロイ・ブラウンがヤマネコ用の餌皿を足で小突いて笑った。オーガ

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】 分割版 #2-1

            2 タケルは日が昇っても目を覚まさなかった。ネオサイタマでは滅多に見られない朝の日差しを受けて尚、彼の眠りは深いままであった。彼の両親は訝しんだが、慣れない長距離移動で疲れたのだろうと思って深く詮索しなかった。 タケルは、昨晩の出来事を思い返していた。レロイ・ブラウンという大男とヤシジュースを飲んで、ヤシの実を食べて、タケルはオキナワの風景を堪能した。レロイ・ブラウンはその後タケルを抱きかかえて、この部屋に連れ戻した——屋上からジャンプして、元の部屋にタケルと共に飛び込んだ

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】 分割版 #1

            Epilogue 相も変わらず降りしきる重金属酸性雨の靄の向こうに、小学校の校舎がハッキリと見えた。簡易武装スクールバスの中から窓の外を眺めるタケルは、何度もリフレインする先週の思い出からようやく目を覚ました。登校はたった10日ぶりでしかないのに、最後に登校したのが随分大昔に思えて、タケルは複雑な気分だった。色々考え込んでいる彼の姿は、いつもよりボンヤリしているように見えた。 周りの児童も、心ここにあらずという風で、いつもより間の抜けた印象を受ける。私語などを取りしまる生活委

            【バッド・ボーイ、レロイ・ブラウン】

            Epilogue 相も変わらず降りしきる重金属酸性雨の靄の向こうに、小学校の校舎がハッキリと見えた。簡易武装スクールバスの中から窓の外を眺めるタケルは、何度もリフレインする先週の思い出からようやく目を覚ました。登校はたった10日ぶりでしかないのに、最後に登校したのが随分大昔に思えて、タケルは複雑な気分だった。色々考え込んでいる彼の姿は、いつもよりボンヤリしているように見えた。 周りの児童も、心ここにあらずという風で、いつもより間の抜けた印象を受ける。私語などを取りしまる生活委

            編集後記

            今朝はトルティーヤ工場でゾンビ共をなぎ倒す夢を見たぜ。ベイブはいなかったが俺はそれこそ真の男だった、キマったぜ。 やぁ、創刊号だってのに1000ページにもしちまって悪いな。編集のSだ。 聡一郎の奴、企画通ったら印刷と装丁を丸投げしやがって、おかげで俺達はここ3日コロナしか飲んでねえ。まぁいいさ、アイツには読ませる文章をみっちり書かせてやる。楽しみにしてくれよ。 こんなに書いてくれるとは思わなかったんで正直驚いた。まずは感謝させてほしい。そしてお前達のワールド…宇宙、相撲

            酔っ払った男の尻に辛子を捻り込むこと

            つまりだ、俺達は3人で飲んでて、和弘がいまそこでくたばってる。で、お前は何お湯沸かしてんだ。「今なら煮え湯を飲んでも分かりゃしない」って?天才だな。煮え湯飲んだら腹立つ、でも気付かなきゃ腹立たねぇかも、試してみるか。 なんだ和弘鼻息がうるせえぞ。そういやこいつ先月仕事場で怪我してたな、塩塗り込んでやろうぜ。傷口に塩、よく言うだろ?でも気付かなきゃ怒らねえかも。試してみるか。 なんだお湯だけじゃなく水も持ってんのか。寝耳に水だぁ?ハッ!いいねぇ試してみるか。 おっと思いつ

            勝海舟幕末航海記 ~文久の書 第2章・流浪~

            「こんなものでしょう」と彼は飄々と言ったんだ。鮮烈に覚えている。その時の彼の顔、ギラリと光る白刃、千切れ飛ぶ浪士の四肢までも。 竜馬君をあんなに疑ったのは後にも先にもあれくらいだ。気前で腕の立つ用心棒が聞いて呆れる。確かに私は当時既に浪士連中から目の敵にされていたし、実際襲われたわけだけど、それでも、その…分かるだろ?お近づきになりたくないという人種だよ、彼は。え、政治家にあるまじき…?いいだろ、彼は本当に怖いんだ。 それにな、彼の師匠とは一応対立してた私の警護だってのに