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足利市の陣屋門保存問題から、所有者不在の文化財の保存活用を考える ~稼ぐ文化財ニュース(2022/2/3)

稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。
※トップ画像は産経新聞社より引用

◆今日のトピック

戸田氏の陣屋門 初調査/市民から保存求める声/個人所有、傷み激しく/足利市教委(下野新聞 2022.01.29)

【記事概要】
【足利】市教委は28日、旭町に残る旧足利藩主戸田氏の屋敷にあった「陣屋門」(表御門)を初めて調査した。個人の所有で文化財の指定は受けておらず、近年は管理されていない状態とみられる。傷みが激しく、市民からは「戸田氏とのゆかりを伝える唯一と言っていい貴重な建造物。市が移築して保存に努めるべきだ」との声が高まっていた。ただ市教委は「調査は現況の確認と記録保存が目的。移築、保存は難しい」としている。

【背景・経緯】
昨年7月、旧足利藩主の陣屋門(築150年以上)が倒壊の危機にあり、市当局が調査に乗り出したという記事が報道されていました。
今回の報道はその結果報告にあたります。
記事詳細によると、市の担当者は「現状の制度の中では保存や移築は難しい。まずは記録を残したい」というコメントをしているようです。


【ポイント】
市は以前、この建物を文化財指定に向けて協議を行ったことがあり、その際に課題となったのが、財政面に加えて所有者の同意が得られるか不透明なことでした。
担当者の「制度面で難しい」というコメントから推察するに、所有者の同意が得られなかった、または所有者(相続人含め)が見当たらなかったという可能性が高いのではないでしょうか。

相続人不明の空き家については、適切な管理が行われず老朽化して危険な場合に限り、所有者の同意がなくても自治体が所有者に代わって解体できるよう、国は2015年度に「空家等対策の推進に関する特別措置法」を立法しました。
それに基づき、各自治体が危険な空き家を解体する事例も出てきています。

しかしながら、その空き家に文化財的な価値がある場合、所有者に代わって保存・活用することまでは認められていません。

【今後に向けて】
所有者不明の文化財について、どこまで行政が介入できるのかは不透明です。

現状では、その建物がいかに歴史的価値があろうとも、所有者の同意がなければ無断で手を入れることはできません。
たとえその建物が老朽化し、倒壊の危険があったとしても、所有者の同意なしに第三者が勝手に改修したり、移築することは、法律上認められていないのです。

今後、所有者がわからない歴史的建物の老朽化は、全国的にも増えていくことでしょう。

それらの建物は危険になるまで放置され、危なくなったら行政代執行で取り壊す選択しかないのでしょうか。
私たちは、地域の歴史を物語る建物を、自分たちの力で守ることすら許されていないのでしょうか。
私たちに許されるのは、取り壊されるまでのつかの間のあいだだけ、外から眺めることだけなのでしょうか。

お金だけの問題なら、解決策を見つけることはできるはず。
だけど法律の問題は、個人や地域の思いだけではどうにもなりません。

身近な歴史的建物の保存にまつわる制度的課題について、早晩、議論が深まっていくことを願っています。

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http://www.chibanippo.co.jp/news/local/896682


「哲学の建築家」 白井晟一の名作 残したい 安中 旧松井田町役場 県内建築家ら 老朽化進み、存続は不透明(東京新聞 2022.1.28)

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