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Now Loadingを探して

Now Loadingは和製英語

職業柄、英語を日本語訳したり、逆に日本語の英訳を考えたりすることがあります。ITエンジニアなので。実際のところ英語は苦手なんですが、だましだましなんとかやって生きています。

英語を使うときに気をつけるポイントの一つとして「非英語圏で広まった誤用」があります。たとえば、プログラムを書くときに頻出する「register」がしばしば「regist」と誤用されるのは有名な話です。英語では「regist」という単語は存在しませんが、非英語圏(日本とか)で誤用が広まってしまい、そういう単語があるかのように錯覚してしまうことがあります。普段使ってない言語だから、誤用に気がつくのって難しいですよね。こういった単語は、和製英語とも揶揄されます。

誤用に気がつくためにはいくつか方法があると思うのですが、わたしはわりとよくインターネットの英英辞書を引いたりします。英語圏の人のための辞書ですしね。「regist」なんかも英英辞書で引けば使われていない単語ということがわかるわけです(registについては誤用が有名なのでググればすぐでますが)。

で、前置きが長かったですが本題に入ると、みなさんは「Now Loading」をご存知でしょうか。多分知っていると思うのですが、ゲームやコンピュータソフトウェアのロード画面でよく表示されるメッセージです。日本語訳すれば「現在読込中です」というところでしょうか。某インターネットの英和辞書でもそんな感じの事が書いてあります。

しかし、ぐぐれどもぐぐれども英語圏のサイトがあまり引っかかりません。あっても日本のゲームの話だったりとか。そんな中、「Why do Japanese games say “Now Loading” instead of “Loading”?」という記事が見つかりました。ざっくり要約すると下記のような感じです。

「なんで日本のゲームはわざわざ Now Loadingって表示するんだってばよ?英語圏のゲームはたいがい Loadingじゃん?」
「それはたぶん、和製英語やな。最初に誰かが Now Loadingって書いたのを、他の人が真似したんやろな。日本人ってやつは昔っから誤用を真似した和製英語生み出すのが大好きおじさんやからな」

なるほど。言われてみると海外産のゲームやソフトウェアのローディング画面を思い起こしてみると、「Loading」が多い気がします。海外でも、日本のゲームなどの影響で「Now Loading」表示がないわけではないと思いますが。

他に同様の指摘がされている文献は見当たらなかったのですが、誰も何も言わないだけで、改めて言われてみるとたしかに和製英語のような気がしてきます。

誰が言い始めたのか

さて、そうなると一体どこの誰が「Now Loading」を言い始めたのかが気になるところです。みなさんも気になり始めましたね?

とりあえずゲーム最初期のスペースインベーダーとかギャラガとかの動画を漁って見るわけですが、これらには「Now Loading」どころか「Loading」の文字は見られません(動画外のどこかである可能性はありますが)。昔のゲームって、そもそもゲーム中にロードという概念がなかったのでしょうね。画面がぱぱっと切り替わりますし。

じゃあもう少し後の方の世代から追ってみると、1994年9月発売の「ネオジオCD」がまず引っかかりました。ネオジオCDは読み込みが長いことで有名で、長時間「Now Loading」の文字列をプレイヤーに見せつけていて、その記憶が今でも残っている人は多いようです。画像検索してみた限りでは当時のネオジオのゲームは「Now Loading」の表記が一般的だったようです(要調査)。

ネオジオCDのすぐ後には、PlayStationやセガサターンも発売され、ゲームにはローディングがつきものというのはこの頃から当たり前になってきたとは思います。この頃のゲームもやっぱり「Now Loading」が多かったかなと筆者は記憶しています(要調査)。この頃に多感な思春期を過ごされた皆様はとくに「Now Loading」がポピュラーな英語なのだと植え付けられたのではないでしょうか。私とか。

多くのプレイヤーに「Now Loading」を植え付けたのはネオジオCDやPlayStation、セガサターンの頃からかもしれません。が、その頃には「Now Loading」は当たり前になっていたようなので、もう少し前のゲーム機の歴史をたどっていく必要がありそうです。次に目についたのが1986年2月発売の「ファミリーコンピューター ディスクシステム」です。このディスクシステムの読み込み画面でも、やはり「Now Loading」の表示だったようです。約400万台ほど売れたらしいディスクシステムはファミコンの販売台数(6100万台)と比較すると劣るものの、当時一世を風靡したファミコンの周辺機器としてそれなりに知名度があったのではないでしょうか。やはりファミコンディスクシステムでの「Now Loading」表記も、後世のゲーム機に影響を与えたことでしょう。

ではファミコンディスクシステム以前の「Now Loading」はどうだったのかというと、たしかにその表記は存在していたようです。が、資料に乏しく明確に大きな影響を与えたものが何だったのか、いまいち私にはわかりませんでした。わたしも生まれてもいない時代のことですし。また特にファミコン前後はゲーム機やマイコンが大量に生まれていた時代でした。ゲームというものが急成長を遂げていた時代だったはずで、明確に何が何に影響を与えていたかというのを特定するはより難しそうです。

少なくとも、1981〜1983年ぐらいの間に広まっていたマイコンであるNEC製のPC-8001系や富士通製のFM-7向けに作られていたゲームでも、どうやら「Now Loading」表記のあるゲームが存在していたようです(明確な資料が少ない)。また、それらより数年前のApple Ⅱ あたりでは「Now Loading」表記のものは見当たりませんでした(見つからなかっただけかもですが)。おそらくこの時代の何らかのプログラムで「Now Loading」が最初に使われ、徐々に浸透していったのではないでしょうか。当時のマイコンブームに詳しい人や、マイコン雑誌が手元にある人の情報お待ちしております。

まとめ

結局の所、「Now Loading」の起源にまでは至らなかったのですが、今回調べた限り下記のことが言えそうです。

・「Now Loading」は(おそらく)和製英語
・和製臭さを消したいなら簡潔に「Loading」がよい
・「Now Loading」は1980年代前半のマイコンブームぐらいの時代から使われ、ゲームの発展とともに徐々に広まっていった

なんだかまだスッキリできないので「Now Loading」という言葉について、より詳しい情報をお持ちの方がいましたら、ぜひ教えて下さい。

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