2023年9月1週目 36/52週目

月曜日(どうにもならない自分をひきずって)

転んでできた 傷のいたみにみあう何かを 求めたなら幻

Wind Climbing〜風にあそばれて〜 奥井亜紀

概ね劣等生な人生を歩んできた。幼少期から冬生まれで体が小さく鈍臭い。体操教室では毎回駆けっこが遅く、ゴールした後に先生が手の甲にマジックで書いてくれるナンバーが一桁になることは一回もなかった。

中学受験に失敗し公立に行き、高校受験を経て同じ学力の人と並んだ結果「塾に行っているので多少勉強ができる変なやつ」から「勉強のできない変なやつ」になり落ちこぼれ、滑り止めで受かった大学では入学1か月で原付で事故って入院、復帰後友達もできず「このキャンパスで俺一人だけ居場所がない」と黄昏たものだった。

新卒で入った会社では怒られすぎてそれがその日の午前中に怒られたのか昨日怒られたのかが分かんないような日々が続き、ようやっと仕事ができるようになったかと思うと、慢心や油断ではなく端的に積み上がってきた物の考え方のズレから他部署から鬼怒られしたりする。それは転職後も変わらず、何か悪いことしようとしたり、能力不足とかいう問題ではなく、「考えかた自体が全然違くて、何も意識せんと大惨事」みたいなことになっていた。ラノベでいう「俺なんかやっちゃいました?」の「良いことではなく端的にマジでやらかしちゃっている」人生であった。

当然のように同期より出世も遅く、できることも少ない。若いころは「もう少し時間があればできるようになる」とか「できないことがある分強い部分もあるはず」と思っていたが、最近思う。そんなものはない。

時間があってもできないことはある。会社における一直線上の成長レースでも自分はやっぱり後ろの番号なのだ。じゃあその一直線上以外に何か特筆すべきものがあるかと言えば、それもない。もし他人から見て仮に何か自分に「ここはとだっちちょっとだけすごいよ」と言ってくれるところがあっても、それは何か自分の能力の不足を補うようにあるわけでも、何かの能力不足と表裏一体で伸びてるわけでもなく、たまたまそれがあるだけなのだ。その強みを持ちつつ欠けもない人だって世の中には当然いて、その観点から見たら劣等生であることは変わらない。

しかし、能力の不足と強みに因果がないなら、弱さに代わる強みはない。もうそのまま持っていくしかないのだ。強みを生かすといっても弱みもひきずって行くしかない。どうにもならないのだ。もうそれでいいと思っている。

人生の苦しいとき、柔道に、深夜ラジオを聞くことに、地域の人に、根気強く指導してくれた上司に、深夜ラジオにネタを書くことに、助けられてきた。その中でも助けてくれた人の信頼を裏切ってしまったことももちろんある。これからもあるだろう。「何も意図せず大惨事」。考え方自体の過ちに気づけないから。

能力は五角形じゃない。パワーがあるからスピードが伸びにくいとか、テクニックが犠牲になるとかじゃない。アメーバみたいなグニャグニャな自分を時に無理矢理型に押し込んだり、ちぎれた部分が軋轢を起こしたり、足りなさが気になったり。それらを踏まえてひきずっていく。

でも、どうせ転んじゃうから今を大切にしたいと思っている。そこにある期待には、希望には、偶然には、しっかり応えていきたい次第だ。

どうにもならない 今日はせめて笑い話にかえられますように 君と生きてく 明日だから這いあがるくらいで ちょうどいい

Wind Climbing〜風にあそばれて〜 奥井亜紀

火曜日(思ったより見られているし思ったより気にされていない)


出先での慣れない仕事で疲れていたが、帰社する必要があり会社方面の電車に乗った。帰宅ラッシュだったが運よく端っこの席を確保。皆もうご帰宅でしょ?いいよなー。俺はまだこれから仕事なんだ。座らせてくれい。

最初は本を読んでいたのだが、思っていたより疲れており、道中で寝てしまった。起きると目的地はまだ数駅先、寝過ごさない為には起きておきたいので再度本を開くが、まだ眠く全然頭に入ってこない。本を脇の下に差し込み微睡む。目の前にはスマホを操作する若い女性が立っている。いつから乗ってきたのだろう、寝てるとき口開いてるの見られなかったかな、そんなん気にもしないか。座りたいかな。ダラダラ寝てて怒っているだろうか、座るにしても知らんおっさんが寝てた座席とかキモいかな、ごめんな・・・・。意識は枕木のリズムに溶けていった。

起きたら降車駅だった。やべ!降りなきゃ!慌てて鞄をひっつかみ出口方面のドアの方まで車内をかき分けて降りる。ホームに降りると出口は全然反対だった。わざわざ遠回りしただけの変なおじさんになった。せかせかとホームを歩いていると、今の電車に乗ろうとしている人が「本、忘れてますよ?」と声をかけてくれた。「え!?」社内を見るとさっき前に立っていた若い女性が本を持ってドア付近まで出てきてくれていた。脇に挟んで寝ていて座席に忘れてしまっていたらしい。「すいません!ありがとうございます。」本を受け取る。女性は笑っていた。すいません、テンパりじじぃに気を遣わせて。でも優しい人だった。ありがとうございます。

「しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである」を鞄に仕舞い改札に向かった。

嘘。「NHK「100分de名著」ラッセル 幸福論: 競争、疲れ、ねたみから解き放たれるために」を鞄に仕舞う。

人の優しさに触れ妬みからは少し遠のきつつ、多少疲れが和らいだ体で改札を通り抜け、今日あと少しだけ、競争の場に向かった。

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