#2 デノボ脂肪酸に影響を与える5つの管理
乳脂肪組成は季節、泌乳期、遺伝など多くの要因に影響されますが、最も大きな影響を受けるのは飼料組成と飼養管理です。
乳FA組成に影響を与える給餌および農場管理の要因を調査した2つの研究を紹介します。
デノボ脂肪酸を高める管理5つ
1.FSの飼養密度
フリーストール牛舎において飼養密度(1ストールに対しての牛の数)が110%以下であると、高デノボ農場の傾向にありました。
ストール数が少ないと、以下のような変化が起こり、結果として牛がSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)になる可能性があり、乳脂肪率が減少することがある。
横臥時の反芻時間の短縮し
飼槽へ行くときの攻撃性の増加
摂食行動が変化(固め喰い)
2.FSのエサ押し頻度と給与回数
1日5回以上エサ押しをしている農場の方が、デノボ脂肪酸濃度が有意に低かった。
高デノボ農場では新鮮な飼料を1日2回与える傾向にありました。
3.飼料中の油脂
デノボ脂肪酸が高い農場では低い農場と比べて、飼料中の油脂が少ないことが分かりました(Woolpert et al., 2016. 2017)。TMR サンプルの分析では、飼料のDM、CP、NDF、デンプンなどについて、両者で違いはありませんでした。
さらに、飼料が乳牛の乳脂肪合成を阻害する原因として、微生物の水素添加による乳脂肪減少(MFD:Milk Fat Depression)が挙げられます。
油脂が多い飼料は、MFDを引き起こす原因と考えられます。
水素添加によるMFDは、リノール酸(C18:2)をルーメンで水素化して得られる中間体のCLA(Conjugated Linoleic Acid)が乳腺におけるデノボ脂肪酸生成を直接低下させ、その結果、乳脂肪収量が減少すると考えられています。
CLA(Conjugated Linoleic Acid) はリノール酸の幾何異性体および位置異性体であり、共役ジエン結合を有するものの総称です。理論的に4個の幾何異性体と8個の位置異性体が存在します。
そのうち、3つのCLAがMFDを引き起こすと研究で示されています。
Trans-10, cis-12 CLA(最も強力な阻害物質)
Cis-10, trans-12 CLA
Trans-9, cis-11 CLA
2000年の研究では、最も強力な阻害物質であるTrans-10, cis-12 CLAがアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のmRNA量を40-60%低下させ、乳脂肪収量を43%低下させたと報告しています(Piperova et al., 2000)。
微生物の水素化によるMFD(乳脂肪減少)では、ルーメンと乳中の脂肪酸に中間体のCLAが増加し、その中でもC18:1 trans-10が最も観察されます。
通常の経路(黒色 )ではC18:1 trans-11が生成されますが、多価不飽和脂肪酸の過剰、穀物過多、繊維不足などで代替経路(赤色)に変化し、代替経路では、最も強力な阻害物質であるTrans-10, cis-12 CLAとC18:1 trans-10が生成されます(Koch et al., 2018)。
MFD(乳脂肪減少)の原因としてLF(低粗飼料)食と、MO(高不飽和脂肪酸)食が挙げられますが、他にも様々な原因があり、飼料だけでは適切なリスク評価は行えません。
その他の原因としては、
ルーメンアシドーシス
飼養管理
などが影響してくるものと思われます。
4.餌槽幅
餌槽幅が46cm以上であると、高デノボを示す傾向にありました。
5.peNDF
peNDFは物理的有効繊維のことで、反芻を刺激する粗繊維のことです。PSPSでは上段・中段・下段に残った試料のNDF(中性デタージェント繊維)の割合です。
高デノボ農場で有意に高い結果となりました(Woolpert et al., 2017)。
さらに、飼料分析に用いるPSPSで、一番下の受け皿に残った割合を見ると、低デノボ農場では38.2%と有意に高い結果となりました。peNDFが少ないことから、反芻刺激が少なく唾液量が減り、また細かすぎる飼料がルーメンでの発酵を早め、ルーメンpHが低下したと考えられます。
参考文献
Bauman, D. E., and C. L. Davis. 1974. Biosynthesis of milk fat. Pages 31–75 in Lactation: A Comprehensive Treatise. B. L. Larson and V. R. Smith, ed. Academic Press, New York, NY.
Glasser, F., M. Doreau, A. Ferlay, J. Loor, and Y. Chilliard. Milk fatty acid: Milk synthesis could limit transfer from duodenum in cows. 2007. Eur. J. Lipid Sci. Technol. 109:817–827.
Glasser, F., A. Ferlay, M. Doreau, P. Schmidely, D. Sauvant, and Y. Chilliard. Long-chain fatty acid metabolism in dairy cows: A meta analysis of milk fatty acid yield in relation to duodenal flows and de novo synthesis. 2008. J. Dairy Sci. 91:2771–2785.
Griinari, J. M., and D. E. Bauman. Biosynthesis of conju- gated linoleic acid and its incorporation into meat and milk in ruminants. 1999. In: M. P . Y urawecz, M. M. Mossoba, J. K. G. Kramer, M. W. Pariza, and G. J. Nelson (Ed.) Advances in Conjugated Linoleic Acid Research, Vol. 1. pp 180-200. AOCS Press, Champaign, IL.
Koch LE and Lascano GJ. 2018. Milk Fat Depression: Etiology, Theories, and Soluble Carbohydrate Interactions
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