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#2 デノボ脂肪酸に影響を与える5つの管理

乳脂肪組成は季節、泌乳期、遺伝など多くの要因に影響されますが、最も大きな影響を受けるのは飼料組成と飼養管理です。

乳FA組成に影響を与える給餌および農場管理の要因を調査した2つの研究を紹介します。

・Woolpertらの2つの研究(20162017)からデノボ脂肪酸を高める管理が5つ示されました。
・研究は2014年の3月と4月(44農場)と、2015年の4月と5月(33農場)にアメリカのバーモント州とニューヨーク北東部の酪農場で実施されました。

デノボ脂肪酸を高める管理5つ

1.FSの飼養密度

  • フリーストール牛舎において飼養密度(1ストールに対しての牛の数)が110%以下であると、高デノボ農場の傾向にありました。

Woolpert et al., 2017

ストール数が少ないと、以下のような変化が起こり、結果として牛がSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)になる可能性があり、乳脂肪率が減少することがある。

  • 横臥時の反芻時間の短縮し

  • 飼槽へ行くときの攻撃性の増加

  • 摂食行動が変化(固め喰い)

2.FSのエサ押し頻度と給与回数

  • 1日5回以上エサ押しをしている農場の方が、デノボ脂肪酸濃度が有意に低かった

  • 高デノボ農場では新鮮な飼料を1日2回与える傾向にありました。

Woolpert et al., 2017

3.飼料中の油脂

  • デノボ脂肪酸が高い農場では低い農場と比べて、飼料中の油脂が少ないことが分かりました(Woolpert et al., 2016. 2017)。TMR サンプルの分析では、飼料のDM、CP、NDF、デンプンなどについて、両者で違いはありませんでした。

Woolpert et al., 2017

牛の飼料中には不飽和脂肪酸が多く含まれています。C18:0およびその他のC18の脂肪酸の十二指腸内流量が増加すると、C4~16の乳脂肪酸(デノボ脂肪酸、ミックス脂肪酸)が直線的に減少することが研究で分かっています(Glasser et al., 2007, 2008)。また血漿中の長鎖脂肪酸はde novo合成を阻害するので、デノボ脂肪酸が減少します(Bauman and Davis, 1974)。

さらに、飼料が乳牛の乳脂肪合成を阻害する原因として、微生物の水素添加による乳脂肪減少(MFD:Milk Fat Depression)が挙げられます。
油脂が多い飼料は、MFDを引き起こす原因と考えられます。

ルーメン内微生物にとって、不飽和脂肪酸は”抗菌剤”である(Maia et al.,2007)という表現もされるように、不飽和脂肪は微生物の活動を阻害します。そのため、脂肪酸の二重結合に水素を添加すると考えられています。水素は微生物が繊維を分解するときに発生します。発生した水素の一部はメタンとして放出します。

水素添加によるMFDは、リノール酸(C18:2)をルーメンで水素化して得られる中間体のCLA(Conjugated Linoleic Acid)が乳腺におけるデノボ脂肪酸生成を直接低下させ、その結果、乳脂肪収量が減少すると考えられています。

CLAは1970年代に炒めた牛挽肉から発見され、人の健康上の利点が期待できることから、乳製品中のCLA含有量を増やすことに注目が集まりました。これらの研究が、牛の乳脂肪減少に関連する多くのヒントを与えました。
・c-9, t-11CLAなどはインスリン抵抗性の改善作用やアテローム性動脈硬化症や炎症性腸疾患(IBD)の予防作用が報告
・t-10,c-12CLAは体脂肪量を減少させる抗肥満作用や抗がん作用が報告

CLA(Conjugated Linoleic Acid) はリノール酸の幾何異性体および位置異性体であり、共役ジエン結合を有するものの総称です。理論的に4個の幾何異性体と8個の位置異性体が存在します。

そのうち、3つのCLAがMFDを引き起こすと研究で示されています。

  • Trans-10, cis-12 CLA(最も強力な阻害物質)

  • Cis-10, trans-12 CLA

  • Trans-9, cis-11 CLA

2000年の研究では、最も強力な阻害物質であるTrans-10, cis-12 CLAがアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のmRNA量を40-60%低下させ、乳脂肪収量を43%低下させたと報告しています(Piperova et al., 2000)。

フォスジャパン 牛乳中のFAO(脂肪酸組成)について
  • 微生物の水素化によるMFD(乳脂肪減少)では、ルーメンと乳中の脂肪酸に中間体のCLAが増加し、その中でもC18:1 trans-10が最も観察されます。

  • 通常の経路(黒色 )ではC18:1 trans-11が生成されますが、多価不飽和脂肪酸の過剰、穀物過多、繊維不足などで代替経路(赤色)に変化し、代替経路では、最も強力な阻害物質であるTrans-10, cis-12 CLAC18:1 trans-10が生成されます(Koch et al., 2018)。

Koch et al., 2018

MFD(乳脂肪減少の原因としてLF(低粗飼料)食と、MO(高不飽和脂肪酸)食が挙げられますが、他にも様々な原因があり、飼料だけでは適切なリスク評価は行えません。
その他の原因としては、

  • ルーメンアシドーシス

  • 飼養管理

などが影響してくるものと思われます。


4.餌槽幅

餌槽幅が46cm以上であると、高デノボを示す傾向にありました。

Woolpert et al., 2017

5.peNDF

peNDFは物理的有効繊維のことで、反芻を刺激する粗繊維のことです。PSPSでは上段・中段・下段に残った試料のNDF(中性デタージェント繊維)の割合です。

高デノボ農場で有意に高い結果となりました(Woolpert et al., 2017)。

さらに、飼料分析に用いるPSPSで、一番下の受け皿に残った割合を見ると、低デノボ農場では38.2%と有意に高い結果となりました。peNDFが少ないことから、反芻刺激が少なく唾液量が減り、また細かすぎる飼料がルーメンでの発酵を早め、ルーメンpHが低下したと考えられます。

Woolpert et al., 2017



参考文献

  1. Bauman, D. E., and C. L. Davis. 1974. Biosynthesis of milk fat. Pages 31–75 in Lactation: A Comprehensive Treatise. B. L. Larson and V. R. Smith, ed. Academic Press, New York, NY.

  2. Glasser, F., M. Doreau, A. Ferlay, J. Loor, and Y. Chilliard. Milk fatty acid: Milk synthesis could limit transfer from duodenum in cows. 2007. Eur. J. Lipid Sci. Technol. 109:817–827.

  3. Glasser, F., A. Ferlay, M. Doreau, P. Schmidely, D. Sauvant, and Y. Chilliard. Long-chain fatty acid metabolism in dairy cows: A meta analysis of milk fatty acid yield in relation to duodenal flows and de novo synthesis. 2008. J. Dairy Sci. 91:2771–2785.

  4. Griinari, J. M., and D. E. Bauman. Biosynthesis of conju- gated linoleic acid and its incorporation into meat and milk in ruminants. 1999. In: M. P . Y urawecz, M. M. Mossoba, J. K. G. Kramer, M. W. Pariza, and G. J. Nelson (Ed.) Advances in Conjugated Linoleic Acid Research, Vol. 1. pp 180-200. AOCS Press, Champaign, IL.􏰂􏰃􏰄􏰅 􏰇􏰈􏰉

  5. Koch LE and Lascano GJ. 2018. Milk Fat Depression: Etiology, Theories, and Soluble Carbohydrate Interactions

  6. 􏰞􏰐􏰉􏰋􏰍􏰈􏰟M. E. Woolpert, H. M. Dann, K. W. Cotanch, C. Melilli, L. E. Chase, R. J. Grant, and D. M. Barbano. 2016. Management, nutrition, and lactation performance are related to bulk tank milk de novo fatty acid concentration on northeastern US dairy farms

  7. M. E. Woolpert, H. M. Dann, K. W. Cotanch, C. Melilli, L. E. Chase, R. J. Grant, and D. M. Barbano. 2017. Management practices, physically effective fiber, and ether extract are related to bulk tank milk de novo fatty acid concentration on Holstein dairy farms

  8. Piperova LS, Teter BB, Bruckental I, Sam- pugna J, Mills SE, et al. Mammary lipogenic enzyme activity, trans fatty acids and conjugated linoleic acids are al- tered in lactating dairy cows fed a milk fat depressing diet. 2000. J. Nutr. 130:2658–74




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