ノイズ

一番言いたいこと

 「白色スペクトルではない定常ノイズ (たとえば明らかにピンクノイズに近似した自然音) のこともホワイトノイズって言われてるの嫌だ!」


 以下、間違ってたら教えてください。


ホワイトノイズとは

 音にかぎって言えば「可聴領域ほぼ全体においてパワースペクトルがほぼ均一な強度になっているもの」を指す。
 聴こえる全帯域が、偏り無く出ている。これは視覚的な波 = 可視光で言うならば全ての色が偏り無く出ている状態、すなわち白色になる。ゆえに、ホワイトと呼んでいる。

 実際に聴いてみると高域成分がうるさく、なかなか耳に痛いタイプのノイズだとわかる。


カラードノイズとは

 では、帯域に偏りがあるとしたらどうだろう? 周波数の高い音があまり鳴ってない、耳に優しいノイズがあるとする。これを色で示すなら、白から周波数の高い青を減らしていくので、ピンクとか赤になるだろう。
 このように、「可聴領域ほぼ全体においてパワースペクトルがほぼ均一な強度になっている」わけではないノイズは、それに対応する色で言い示すことができる。レッドノイズ、ブルーノイズなどと言う。

 ピンクノイズもそうで、高域成分の少ないノイズを指す。ただちょっと定義が細かくて、「周波数fのパワーが1/fである」。つまり、100Hz成分のパワーに対して、1,000Hz成分のパワーは0.1倍。20,000Hzは0.02倍。これも、高域になるにつれてパワーが弱くなっているタイプのノイズだ。


環境音の持つ1/fゆらぎ

 そして、世の中で「自然の中にあるホワイトノイズで癒やしの効果」みたく言われるとき、それはほぼピンクノイズである。1/fゆらぎは自然現象の中に多く見いだせる (と言われている) ため、実際に環境音などがピンクノイズと近似している例はある。
 それに比べるとホワイトノイズは高域が強すぎて痛く、小音量で聴いてもなかなか癒やしとは結びつきにくい。好みに個人差があるとしても、一般性はあまり見いだせない。

 YouTubeとかでホワイトノイズとピンクノイズの検索結果の差を見てみてほしい。ピンクのほうが比較的技術的な結果が多いんじゃないか? ピンクで検索してもホワイトが出てきたりもする。
 一方で、Official髭男dismの『ホワイトノイズ』が多すぎて判断つかなかったらごめん。

 ピンクノイズと言うべきところでピンクノイズと言われないのは、単にことばの知名度に拠るところが大きいのではないか。ホワイトノイズの定義を知らない人々が無意識に拡大解釈した結果だと思っている。あるいは、正確な語義を知っていたとしても「嘘でもホワイトノイズって言ったほうがみんなの目に留まるかな」と考えて言ってる人もいるかもしれない。


色とか知らんがな

 では、拡大解釈を即座に「全て誤りだ」としてしまえば平和になるのか、というとひとつ懸念がある。

 つねにピンクノイズという語が可換なわけではない。つまり、なぜそもそもホワイトノイズと言ってしまうかというと、パワースペクトルのことなんて知らないし気にしていないからだ。「これはおおよそピンクなスペクトルだからピンクノイズなのだ」というジャッジを下せないし興味もない場面では、カラードノイズとして表現すること自体が不適である。「これはピンクというよりレッドじゃないか?」とか言われてもどうでもいいわけだ。

 なので、色を冠すること自体やめるべき。ただ、そこで「ノイズ」とだけ言われるともっとややこしいことになる。ノイズにはもっと沢山の種類があるからだ。


非定常ノイズ

 まず例えば、クリックノイズ、ポップノイズといった、時間方向に一瞬だけのノイズがある。マイクになんかぶつけたときのカツッとか、なんかの電源スイッチに触っちゃった時のボツッとか。
 これらは瞬間的にイヤな音がすることを指してノイズなので、パワースペクトルは (見られるっちゃ見られるけど) 何色だろうがあんまりどうでもいい。定常的な性質よりも、時間方向の性質が大事だ。

 またもっと広く言うなら「求める信号のことをシグナル、それ以外に混入する雑音をノイズ」という。時間方向の性質がどうみたいなことは区別せず、「シグナル以外全部ノイズ」といえる。

 なので、ホワイトノイズから色の観念を捨てた、"拡大解釈"下にあるノイズ……つまりノイズの中でも「時間方向に特性が変化しない」「パワーに偏りはあれど、概ね可聴帯域全域を埋めるような分布をしている」の両方を満たすノイズをイメージする時、これを一言で言い表すことが難しい。
 「ポップノイズと違ってずっと鳴ってる、そしてピッチ感も無くとにかくサーッとしてるノイズ……」を特に言うことばが無いのだ。定常ノイズとか言うこともあるけど、pitched, resonatedなものを除外できない。

 そんな時に、「ホワイトノイズ (ただし白色性は無視)」と言えてしまえば意思疎通上はたしかにラクで有意義である (でも無視しないでほしい。。。)


以下おまけ

他に音楽周りで見かけることのあるノイズ

各項目は排他カテゴリではありません

ヒスノイズ

 定義のゆるい「高域成分のある定常ノイズ」ぐらいの意味だが、運用的には録音などでのS/Nの悪さからくるバックグラウンドノイズのことを指すことが多い。テープに録った時の後ろのサーとか。

 ノイズゲートというエフェクタで対策することもある。後ろのサー程度なら音量は比較的ちいさいはずなので、「ある基準より小さい音しか鳴ってない時は、無音にしちゃいます」という処理をする。そうすると、楽器や声が鳴っている時はそのままで (サー混じりではあるけど)、鳴らし終わったら無音になってくれる。


ハムノイズ

 電源のせいでブーとかムーとかいうやつ。交流電源由来なので、50/60Hzの低域 (と気持ち程度の整数倍音) にあらわれる。50 or 60 が 東日本 / 西日本に対応する。
 欧州は50だが北米は60、中国・インドは50だけど韓国・フィリピンは60など、世界でも割れている。


グランドループノイズ

 グランドループによって引き起こされる、ハムやバズやその他のノイズ。「シンセをオーディオインターフェースにつないで録ろうとして、USBもつないでみた瞬間にミーーって言い出すアレ」はグランドループの可能性あるかも。
 サクッとその場でできる対策は、電源なりUSBの取り口を変えるくらいしかないかも。


クリックノイズ

 カチッとかプチッとか、そういういらない (意図しない) 音全般。ピアノにマイク立てて録ってたら、スタジオの照明がカツンと鳴っちゃって……とか意外とあるんですよ。iZotope RXで除去しましょうね。

 デジタルの領域でも、音の鳴らし始め/鳴らし終わりでプツッと言ったりする。サンプルをブツ切りにしたときや、シンセのADSRのAとRが0のときなど。サンプルなら音量にごく短いフェードイン・アウトをかいてあげると回避できる。シンセならAとRをごくわずかにゆるめてあげればよい。


クリッピングノイズ

 クリッピング……つまり音デカすぎてメーターが赤ついちゃったとき、歪んで嫌な音が出たらそれがクリッピングノイズ、らしい。今までのノイズが「本来ほしい音 (シグナル) にプラスで乗っかる要らない音」だったのに対して、このノイズはシグナルそのものが変化して生まれる。さっき言った「シグナル以外がノイズ」の原則から外れる。 

 つまり「赤ついちゃった時の歪んだ音」と、「赤つかなかったときのセーフティ」の差が、好意的な音色変化ではなくイヤで余分な要素だと感じられるとき、それをクリッピングノイズと呼ぶのだろうか。


ポップノイズ

 (「Popular Noise略してPop Noise」だったらちょっと面白いが、) popcornとかのpop。
 さっき書いたように、スピーカーやミキサーの電源を切る前に先にシンセの電源落とした時にボツッと言うやつとか、あるいはマイクの前でパピプペポを発音した時の「吹かれ」のこともいう。


タッチノイズ

 有線イヤホンなどを装着してる時に、ケーブルが服に擦れたりしてガサゴソ鳴るノイズ。電気信号的なノイズではなく、物理的な振動が耳元に伝わっている。糸電話とか聴診器に近い。

 ケーブルやシールドの先を触ってブーとか言わすのはホットタッチという。これは意図しないノイズというよりは、あえて触って通電確認するときによく言う (だから呼び名にノイズとつかない)。


外来ノイズ

 ここまで出てきたノイズの多くがこれ。つまり、意図してないのに環境のせいで、外から混じってきてしまういらないノイズのことをまとめてそう言う。突発的なものより、環境において定常的なもののことをよく言うかな。

 ここまで言ってないやつだと、音響機器とキッチンとかが近いと、家電の出す電磁波が音声ケーブルに乗ってきちゃうこともある。
 対策としてはシールドケーブル (金属被膜で守られたケーブル。だいたいそう) やバランスケーブル (逆相処理によってノイズをある程度消すしくみを持っている) などを使う。


量子化ノイズ

 おもに、デジタルデータのビット深度を下げてコンバートする時に、ごくごく音が小さいところ (音や残響の消え際ギリギリとか) で音のなめらかさをうまくキープできず、ビジビジした音が発生してしまう。

 対策としては、あえて別の定常ノイズ (ホワイトノイズか、そこにEQ的な重み付けをしたノイズ) を足してからダウンコンバートすることで目立たなくできる。これをディザという。理屈はこのわかりやすい計測&説明を読んでみて。

 みんなおまじないのようにディザやってると思うけど、おれはドラムサンプル単発のマスタリングしてる時にディザの大事さを痛感した。リリースにはっきり影響あった。
 まあ、2mixとか作る上では気にならない程度の可能性はあるけど。


折返しノイズ

 デジタルでディストーションとかFMを過剰にかけてると現れる、変なピッチの音色。

 デジタル処理では扱える高い音には限りがある (= 標本化定理)。DAWのサンプルレートが48kHzなら、扱える音の上限は24kHz。
 それより高い、たとえば30kHzの音をエフェクターとかで作ろうとしちゃうと、6kも上限突破してるので、逆に上限から6k引いた18kHz (折り返したところ) に何故か意図しない音が現れてしまう。

 ディストーションやFMは倍音を簡単に盛り盛りできるので、24kHzを越える音も割とすぐ出てくる。折り返してきた音のピッチって元のピッチと不協和なことが多いので、出さないほうがキレイ。
 YAMAHA DX7なんかにはKeyboard Scalingってパラメータがあり、たとえば「高いノートにはFMをかけすぎず、倍音を盛りすぎないことで折返しを回避する」テクがある。DX7の音色は玄人の仕事。

 ほかの回避法としては、たとえばDAWのサンプルレート設定を96kHzにすれば、出せる音の上限は48kHz。48kHzを越えたら越えた分だけ折り返すわけだけど、人の耳で聴こえるのは20kHzあたりから。つまり単純計算で76kHzよりも高い音がようやくノイズとして聞こえる。これはかなりセーフティだ。

 あと、SkrillexがNative Instruments FM8でギャンギャンバリバリのワブルベースで一時代を築いたように、不協和な折返しノイズって見ようによっては格好良い非整数倍音成分ともいえる。


ノイズミュージック

 音楽ジャンル。「ジョン・ケージとかよりずっと前にルイージ・ルッソロがいて……」とか「インダストリアルなりハーシュノイズなりサブジャンルがあり……」とかについて、おれの知識はwikipedia未満であるので語らないとして、「演奏/生聴取体験としてのそれの領域が大きくはあれど、記録音源としても愛されている音楽である」ことは忘れずにいたい。


David Vorhausバンド こと White Noise

 おれの一番好きなホワイトノイズ。

 この1st album (1969) が出た時は、Delia DerbyshireらBBC Radiophonic Workshopの面々もメンバーで、2ndからはVorhausのソロになる。以降も楽しく聴けるアンビエントやシンセシーケンスの作品が出ているが、やっぱ具体音多めのキッチュな刺激にどうしても反応してしまう。この曲は1stの中でもとびきりわかりやすく変だが…… プログレ文脈は知らないので触りません。


ヒゲダン、東リベの『ホワイトノイズ

 知らなかったので聴いた。歌詞にホワイトノイズって出てこないけどなんでこのタイトルにされたんだろう。ファンのblogを拾い読みするに、バイクの排気音に重ねているのではとか、ホワイトノイズのマスキング特性をストーリーの情景に重ねているのではとか出てきた。

 ちなみにホワイトノイズのマスキング効果は、特定マスキーに対しては大してよくない。当然だが、等レベルのバンドノイズのほうが能率が良い (もちろん、バンドとマスキーがかぶっている場合)。マスキーが不特定/広範な場合はホワイトノイズでもいいのかもしんない。あたりまえ体操


メイク・サム・ノ〜イズ!

 MCが客に「騒げ〜〜〜〜!!!」とアジる時に言うやつ。

 外タレのライブでMCが客に英語でなんか指示して、客が英語わかんなくてシーンとしちゃうときの気まずさったら無いよね。Everybody say ho! とかコールアンドレスポンスまでわかっても、Scream!は突然梯子外された気になるとかね。あれを「騒げ」に訳したのは いとうせいこう氏とのことだけど、Make some noiseも誰かが日本語化してるかな。これも「騒げ」かなあ。音節数がもの足りないね。


スイートプリキュア♪の悪役ノイズ

 音楽がテーマのプリキュアで、「主人公サイドがメロディとかリズムとかな時にラスボスがノイズ」っておいおい、ノイズはアンチ音楽なわけじゃないんだが?、とSNSでそこだけ槍玉に上がってたのを過去見た。
 まあノイズってS/N的には悪役だし、ヒールにはちょうどいいよね。「世界から音を消し去る」目的の悪役が雑音という名前なのも、マスキング特性を思えば納得。

 で、本編観てないのにどうこう言える立場じゃないんだけど、最終和解したんすね。負の側面も表裏一体であるべきとして、主人公サイドに手を差し伸べられたと。クロノア2を思い出すね。ノイズも含めて音楽ですよエンド。


 まだあるか? もういいか。おわり。

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