ディレイを横に逃したい件

 Ableton の細かい話は以下にまとめてます。

***

 フィードバックディレイ。エコー。やまびこ。リバーブと並んで、音に残響を足すための大事なエフェクターだ。
(デジリバだって遅延器の集合体だから広義のディレイだろ とか言い出すとキリない)

 リバーブと比べるとかなり単純で「音を遅らせる (そして繰り返しながら消えていく)」だけ。
 響きを「長く延ばす」上ではベストの適役だが、単純がゆえに、「横に空間を広げる」のはリバーブのほうが得意だ。

 でも、DAW なんかを使っていて、「ディレイだけど横にも広げたい」時がある。長く延びたエコーがずっと真ん中に溜まると、他の音が真ん中で鳴るスペースを奪っちゃうので、横によけてってほしい。かといってリバーブみたいに輪郭ボヤケた音がほしいんじゃない時……

 単純なディレイの仕組みにちょっと味付けして、ステレオ感も出す工夫を幾つか列挙してみた。実用度は知らんのでためしてみよう。

(【予防線】素人考えなので事実誤認あったら言ってくれ)


試聴ファイルは
モノラルクラップ→ステレオのシンセ→モノピアノ
の順で鳴らしてる。


(1) L/Rに異なるタイムを使う

設定:
 例えばテンポシンクディレイで、L は 3/16 (符点八分音符)、R は 1/8 なんかにする。

結果:
 真左と真右でそれぞれ独立したリズムパターンのエコーが鳴る。

良い:

  • LとRの Time が独立して設定できる Delay なら、一瞬で設定が済む。

  • 余計な要素がないので、Delay のピュアな特徴そのまま。

悪い:

  • 左右で別のパターンになるので、全体で見るとガチャガチャする。

  • 最小公倍数で (上の例なら 3/8 bar ごと) LとRのタイミングが揃い、周期的にど真ん中で鳴るから結構違和感がある。

  • かといって、「互いに素の Time を……」とかで分子に5とか7とか使うのも本末転倒だ。テンポシンクにこだわらない場面ならまあいいけど。

  • Delay の設計によっては、Time の短い側ほど音量がしぼんでいくのが早くて、Time の長い側に残響が偏っていくこともある。

備考:
 あんまりおすすめしない。しっくり来にくい。
 Delay によっては Cross Routing の設定がある (繰り返しの度に左右が交換される) けど、結局ど真ん中を避ける設定はむずい。
 この路線で攻めるなら、L/R の2系統といわずもっとたくさんの設定ができる Multi-Tap Delay で複雑〜なパターンを作っていくほうが面白い。


(2) L/R のタイムを若干ずらす

設定:
 さっきの 3/16対1/8 とかじゃなくて、僅か〜にだけずらす。

結果:
 真左・真右に偏るんじゃなくて、両サイドから同時に鳴ってるような聴こえ方になる。

良い:

  • これも、設定項目がある Delay ならすぐできる。

  • かつ、大まかな周期は1種類なのでゴチャつかない

  • それでいてど真ん中のスペースはあけてくれる。

  • 元音のステレオ感もそのまま活かされる。

悪い:

  • 鳴るタイミングを左右で微妙にずらし、差がステレオ感を生んでいるので、ハース効果によって早い方に若干寄って聞こえる。

  • エコーが繰り返されるに従って差も広がっていくということは、最初の繰り返しでは差が小さい。

  • ならば「最初っからしっかり広げたい!」とずらしを大きくすると、繰り返されるに従いリズムがガタガタにブレていく。

備考:
 これは簡単かつ効果的でおすすめ。(1)の弱点を克服しがち。
 正確なテンポシンクからは微妙にずれることになるんで、リズム感にシビアな場面では Feedback 抑えめで使ったほうがいいかも。


(3) L/R に個別の処理をする

設定:
 (2)の考え方を拡張。Time だけじゃなくて様々な面でビミョ〜な差をつけていくことを考える。EQ Filter に差をつけてみたり、Time にゆらぎを加えてみたり、うっすらと Drive させてみたり……

結果:
 (2) 同様、両サイドから同時に鳴ってるような聴こえ方になる、いや、なってるかこれ?

良い:

  • すごい頑張れば自然な実機シミュレートができるかもしれない。

  • L/R のタイムがぴったり同じでも、L/R の差を出すことができる。

悪い:

  • め〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んどうくさい上に効果も微妙

備考:
 これ何やってるかというと「色付けのある実機ビンテージディレイなんかを使う時に、LとRそれぞれのチャンネルは別の信号経路をたどることになる。その回路の個体差で、左右で設定を揃えても厳密には一致しない。その微妙な差で立体感がでてくる」的なことのシミュレートだ。Plugin Alliance が TMT とか言ってるアレね。
 得たい結果に対して遠回りすぎるというか、Wet 成分にだけ適用して得られる立体感とリアリティって、今回の本来の目的「真ん中からどかしたい」には効きが弱い。時間も無駄にする。
 よっぽど目立つ……他の楽器の鳴らないソロの場面でリアリティを追求したい時のアプローチとして覚えてくのもいいけど、それなら評判のいい色付けのあるディレイプラグインを買うほうがいいと思う。


(4) Ping Pong Delay を使う

設定:
 Ping Pong をオンにする。

結果:
 真左、真右、真左、真右……と交互に繰り返すエコーになる。

良い:

  • Ping Pong 機能をオンにするだけ。

  • (1) と違って複数のパターンが並走してる感じにはならず、スッキリ

  • 真横から鳴るのでステレオ感はとにかくバッチリ。

  • 正確にテンポシンクしている。

悪い:

  • Ping Pong 機能がそもそもない Delay だと無理。

  • 左 (先に鳴るほう) に偏って感じるかも。

  • 入力がモノラルとして扱われてしまうので、元音の持つステレオ感は失われる。

備考:
 簡単かつ派手に効くのでわりとおすすめ
 Delay 自体が原音に対しては味付けのエフェクトなわけだし、そこにさらに乗せる味付けが地味だと些細すぎたりする。ましてやさらに他の楽器と混じって曲になるわけだから……派手に効くに越したことはない
 ただ悪い点に書いたように、原音がそもそもLとRで結構違う音がする場合は不自然になるかも。たいがいは、"LとRを足して2で割った音のモノラルエコー" が左、右、左、右……と繰り返す。よっぽど気になる場合は (2) のほうがいいかもね。
 あと真横から鳴るのが派手すぎる場合は、Delay の後で MS 処理で Side を下げれば、斜め前に来てくれる (Ableton なら Utility の Width を下げる)。


(5) Round Pan を置く

設定:
 Delay の前か後に Round Pan (= Auto Pan, Pan LFO など) を置く。原音にはかからないように。

結果:
 エコー成分が左右にゆらゆら揺れる。

良い:

  • 真ん中からはとにかくどかせる。

  • 左右の広がりや分布の感じを好みどおりに調整しやすい。

悪い:

  • Delay 自体の周期と LFO の周期がうまく噛み合わないと片側に偏る

  • いかにも LFO っすよ〜感は出る。

  • 片側ずつ聴けば音量がスイングしているので、輪郭のボヤけは若干ある。

備考:
 地味寄りだし、あんまり使われないと思うけどおれはこれが結構好きでよくやる。ステレオトレモロがそもそも好きなんだよな。
 LFO はある程度速めにしたほうが、悪い点で挙げた偏りを避けられる。速すぎるとトレモロでっせ感が強まってくる。好みが出るね。
 Delay と Round Pan の順序だけど、Delay が前だとトレモロでっせ感がより強い。Delay が後ろの方が自然なんだけど、原音が長いバッキングの時は良いけど短いパッセージに対して Feedback 長くかけると偏りがすごいので注意 (この試聴データがまさにそれ。ショートクラップ1発に対して Round Pan かけても動きもクソもない)


(6) Reverb (Diffusion) を置く

設定:
 Delay の前後に Reverb を置く。原音にはかからないように。

結果:
 ボヤけて広がった状態でエコーがかかる。

良い:

  • Reverb の良さをそのまま兼ね備えることができる。

  • Delay 自体の状態はピュアなままでいられる。

悪い:

  • ボヤけがイヤで Delay を使いたい場合は噛み合わない。

  • Reverb の設定をどうしようか地味に悩み、時間を使う。

備考:
 横に広げるのが得意な Reverb をそのまま使う。やっぱボヤけることでリズムは立たなくなってくるので、需要次第なんだけど、気軽に試せるしアプローチとしては覚えておきたい
 Ableton Echo や Valhalla Delay なんかには最初から搭載されてる。Delay の前後どちらに置くかはこれも好み次第だけど、搭載型だと Feedback Loop の途中に Reverb を仕掛けられることも。繰り返すごとに Reverb が強まっていくので自然だが、最初からステレオ感を得たいなら微妙かも。


(7) MS 処理で Side を強調する

設定:
 Delay の前後で MS 処理で Side の音量比を上げる。

結果:
 Mid 成分がエコーに乗りにくくなることで総体的にはステレオ感が増して聞こえる。

良い:

  • あんまねー

悪い:

  • 原音の Side 成分がどれだけあるかによる。モノラルに対してだとただ音量が下がるだけだし、モノラルに近い音に対して Side 成分を取り出すと不自然な音色になる。

備考:
 地味だしシチュエーションも限られるんで微妙。これぞ!ってタイミングないような気がする。
 いち楽器に対してやるんじゃなくて、センドトラックを使っていて色々なパートの合計に対して調整として起用するのはありかも。


(8) Imager, Stereo Chorus などを置く

設定:
 Delay の前後に何かしらのステレオ系エフェクトを置く。原音にはかからないように。

結果:
 何かしらの広がりが得られる。

良い:

  • お好みで自由自在。

  • Delay 自体の状態はピュアなままでいられる。

悪い:

  • 使うプラグインの数が増える。

  • 結局何が良いんだよ?は自分の手で探すしかない。

備考:
 Delay にステレオ感足したいなら、Delay にステレオイメージャーエフェクトかければいいじゃねえか、というストレートな解決。(5)〜(7)も広義にはそうだったわけですけど。
 選んだモノの長所 短所 特徴がそのまま反映される。上の画像みたいにキャラの強い Chorus でも、各社出している自然なイメージャーでも。もう好みのイメージャーがあるならそれでいいじゃない? 色々試したり決めたり悩んだりする時間でもっとゴリゴリ曲を作ろうぜの精神。


まとめると

まず基本のおすすめは、

  • (2) L/R Timeの微妙ずらし……真ん中ではありつつ Side 成分バッチリ

  • (4) Ping Pong……派手に左右を埋められるしリズムも正確

ちょっと凝るなら、

  • (5) Reverb を置く……輪郭がボヤけていいなら。むしろボヤかしたい?

  • (8) Imager を置く……お金で解決しよう (無料の良いイメージャーもたくさんあります)


……マジで初歩的な内容になってしまった、つまんねー なにか驚きを期待してきた人いたらごめん


投げ銭いただけたら、執筆頻度が上がるかもしれません