chip vocal

(別の記事の途中で公開していたものを切り出した)


chip vocal が好きだ。そんな言い方あるのか知らないけど。

Atari STMacinTalkIBM704Texas Instrumentsのあれこれ。人の声をロボ声っぽく音色加工するより、打ち込みの行程までが機械的だったり、Text To Speechのほうが断然萌える。
VocoderやTalkboxやケロ声やデジタルクワイヤやボカロとは違う話をしています。UTAUはギリギリ"こっち"かも。意味のある歌詞はそんなにいらないけど。


Plugin

Plogue chipspeechは神プラグイン。
Commodore 64のspeech synth再現のAUSpeekとかあったけど今動かないな。
加工側だけどSonic Charge Bitspeekはクオリティ高い。
終売してるけどKORG iDS-10でTTSで生成したセリフにVocoderかけられるのは激萌えだった。
VitalにText To Wavetableあるのとか感涙です。
Pluggo Vocaleseも文脈を踏む3Dおじいさんの絵がついていつつ出音がアレなので結構"アリ"。


2001年宇宙の旅のHAL 9000が劇中でDaisy Bellを歌うのはIBM 7094が最初に歌ったコンピュータと言われているのを踏まえている。
TI Speak & SpellLittle MaestroあたりはUVI Toy Suiteで鳴らせる。ROMplerだけどね。前身のElectric Toy Museumにしか入ってない音源もある。


スティールギターと甘いトークボックス

Sparky's Magic Batonという40年代の童話レコードでは「楽器や車が喋りだす」再現のためにSteel Guitarやその他の音とTalkboxの組み合わせが使われる (Luke Vibertがサンプリングしているのでそれも良い。イントロはOne Way - Mr. GrooveのVocoderだけどね)。
Pete Drakeの演奏動画はYouTubeによくある。おれのアルバムでRemixしてくれたりMaltineから出してたGoodnight Codyもやってたな。Codyは前名義でもロボボーカルやってるし。なんか古いmacで動くロボボーカルソフト教えてもらったんだけど忘れちゃったな……MacinTalkに譜面エディタつけたみたいなやつ。


Gangpol Und Mit

そしてGangpol und Mitだよなやっぱ。今は亡き三軒茶屋Hell's BarでG&Mかけてたら外国人客に「あの演歌っぽいやつかけてよ!」って言われてわからなかったのがこれは全然演歌ではなくないか? 後年初音ミクも使ってたがやっぱ使い方がいいよな。


国内のピックアップ

竹村延和の10thはspeech synthにかなり特化してて好きだった。
国内electronicaの流れだとeaterのこれも好きだった。
アーバンギャルドの傷だらけのマリア (パソコン音楽クラブ REMIX) はメインボーカルの隙間をTTSで輪唱するアイデアが最高だった。


わたしのココは東芝DynaBookのLaLaVoiceというソフトをずっと使っているみたい。
国産の歌唱合成だとAquesToneというのもあって、Keijiro Takahashi (= Denkitribe = よよP) 氏の演奏動画見て自分も高校生のころ遊んでいたなあ。


有名どころだとCylobのRewindはラップしつつサビが牧歌的でかわいいし、Ambient News名義でもちょっぴり聴ける。DEDEさんのmurmur on my footはchip vocalではないんだがRewindの自己解釈だと思ってる。
HrvatskiことKeith Fullerton WhitmanがKid 606のRemixしたやつではスレンテンブレイクコアの上で歌うロボが聴ける。


ロボット・ラウンジ・ボサノバ

AtomTMはSenor Coconuts以外でもいくつかの名義でLatin, Mambo, Salsa、そしてLounge Electronic Bossaに繋がるような曲を作っていて、Lisa Carbon, Erik Satin, Midisport, Los Negritos, Dropshadow Diseaseをぼんやり聴いていけばすぐに声シンセ使いと組み合わせた曲に出会える、多分。LB名義は有名ポップスカバーをロボボイスでやってたけどあれは多分Vocoderだ。
モンド・ラウンジな目線から言えばそこでTTSが出現するのはかなり妥当というか、テイ・トウワがSweet Robots Against The Machineと言っていた世界観がすごくわかるというか……つーかロボットに人間的に歌わせようとなんとかしてみることが未婚男性おじ感、Space Age Bachelor Pad Musicでなくて何だというのだ。
それをコンセプトの中心にガッツリ据えた安田寿之の傑作『ROBO*BRAZILEIRA』『WITH ROBO*BRAZILEIRA』によって、この方面はゴールを迎えてしまっている気もする。


Chiptuneサイド

あとおれはマジのchiptune文脈に入らないことにしてるのだが (あまりに深く広大な沼すぎるから) いい曲が多分たくさんあると思う、Goto80mikron 64Fantaあたりが好き。
声専用のUIを使わずピッチベンドと波形メモリで掛け声の雰囲気を出すchibi-techは当時衝撃だった。


歌に限らず声になると昔からゲームでどう工夫されてきたかは気になる。現在でもどうぶつの森は個性ある抽象化をしているし。ちょっと話違うけどDELTARUNE chapter 2のスパムトンの曲のラップ的セリフの質感も最高。


どこまでが「喋り」?

どうぶつの森で挙げたようなFake Languageと近しい話として……Native CellのBeautiful Machineは別に声っぽい音を使っていないのだが、さまざまな家電や機械の音がリレーしてメロディをリレーしていくのがめちゃめちゃ喋ってる、語りかけられているように感じられて物凄い。声じゃないのに何か言おうとしてる。必聴です。


未熟なロボット・フェティシズムとBorn Sexy Yesterday

機械が歌えばいいのかというとボカロはあんまり……(たまたまあの音声になるだけで、構造としては人間の歌と同じように聴いている)、と思っているように、半端に不自然な状態を愛でている。生成AIも育ちきって完全にキレイになったものより、異常が発生してる過渡期が面白かったわけで、目的の違いだ。
そもそも人らしく振る舞うロボが好きで、ウォレスとグルミットのチーズホリデーに出てくるロボットとか、Wagon Christ ReceiverのMVとか。一方でタチコマやファイアボールのように言葉が堪能だと興味から外れてくる。「人と同等の人格が認められるなら機械でなくても良いよね」とフェチズムでの捉え方ではなくなる。


で、ずっと考えているのが、その「未熟さを愛す」はある種のロリコンなんじゃないのか?という問題意識だ。
Born Sexy Yesterdayという概念が提唱されていて、あるフィクションのストーリー構成において、例えば「造形は若くセクシーな女性だが、アンドロイドやエイリアンやタイムリーパーだったりするがゆえに無知で純粋で子供のよう」、その未熟さによってキャラ立てしたり物語を駆動させていく類型があるよね、という話だ。
そういうのを無邪気に支持し世間に定着させ当たり前に目にすることが規範意識を強化するよね、という理屈は痛いほどわかる。これは刷り込みの話だから、「現実と創作を意識的に区別しよう!(区別できないやつの問題はそいつ自身のせい)」では解決しないんだよね。

翻って自分の未熟なロボットフェチを考えると、ジェンダーにタッチしてなきゃいいのかというと、やっぱすごく遠回りした先にBSYとのつながりは見えてくる気がする。好きなものは好きなんだけど、こんなことしてていいんか、とは常に思う。

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