Meldのマニュアルを読み、触った (3 of 3)

第3回はフィルターとその他設定編です。

↓前回

***

Abletonの細かい話は以下にまとめてます。

↓公式マニュアル。



8. Settings Tab

A/Bそれぞれ個別の、細かい設定。

Osc Key Tracking

「鍵盤のドレミを無視して、常にC3で鳴ります」ができる。
特に環境音っぽい要素やドローンとかで、鍵盤の高さの影響を受けたくないときにおすすめ。

Scale Awareness

[b#]ボタンは、Osc Pitch、一部のOsc Engine Macro、一部のFilter Freqに対して効き目があるが、後者2つへの効果をoffにできる。

Glide

Portamentoのこと。
Legato弾きのときのみ有効で、polyでも使用可能。Glide Timeが0のときは無効になる。

Portamento、なめらかなピッチ変化

新規要素として、"Glissando"modeが選べて、鍵盤を左から右に指の背でスライドするように弾くアレ、を勝手に再現してくれる。(ただし毎回Envなどをtriggerするわけではない。)
もちろん[b#]ボタンにより音階縛りも可能。

Glissando、カクカクしたピッチ変化


9. Filters

Filterは、A/Bそれぞれに1つずつ独立してある。両方を同じFilterに通したり、片方を2つに連続して通したりなどの、routingのワガママは効かない。

かわりに、Typeは色々選べる (Ableton上での新顔もアリ) し、ここでもMacro paramで遊べる。

以下、大体の特徴分析だけど、正直詳細についての自信全然ナイので、引き続き斜め読みでよろです。むしろコメントで指摘ください。


一般的なフィルター系 8種

【SVF (12dB / 24dB)】
シンプル
なState-Variable-Filter。今までのAbletonでCleanって言ってたやつ。プレーンな味付けを求めるときや、LBHNをLFOでグニャグニャ動かしても楽しい。

  • Q: resonance

  • L-B-H-N: LPF→BPF→HPF→Notch filterのmorph

12 dB/oct = 2 poleと、24 dB/oct = 4 poleが選択できる。
これは「音量の減衰率として、周波数的に、1 octaveずらすとn dB音量が下がる」という意味で、例えばLPF 12dBで「1 kHzで3dB下がってるとしたら、2kHzでは15dB下がってる」って感じ。
おんなじ12dB filterを2つ直列に使うと24dB filterになる。

使い分けとして「12dBは明るく、24dBは暗い」なんて説明も見るし、間違ってはないけど、別に同じcutoffで比べることもないから……最初の目安は「元音にfilterの味も乗せたいときは12dB、filterをEnvとかでグイグイ動かすことを主役にしたいときは24dB」スタートぐらいがいいんじゃないっすかねえ?


【(LP / HP) 12dB MS2】
KORG MS-20再現のSallen-Key型Filter。
MS-20は粘りのある特性なんて言ったりしますが、今回knob角度に対する実際のcutoff freqは全タイプ共通なので…… とりあえず、普通にdrive効いたパワフルなfilter使いたかったらSVFよりまずこっちをためそう。

  • Q: resonance
    かなり立ちやすいし、soft clipがかかる。

  • Drive: 歪み
    整数倍音の立つ非対称clipping系。

この"対称"とは振幅0に対する線対称のことで、対称だと奇数倍音成分だけが多くなる。非対称は逆。 (これって、「TriやSqrは奇数倍音列で出来てる」=「TriやSqrは上半分と下半分が線対称な図形」なことと関係あり)

これが耳にどう影響するかと言うと、偶数倍音は元音のoctave上の成分ということなので体感ざっくり厚みに寄与し温かく、奇数倍音はもっと別の音程成分になりかねないゆえ体感ざっくり音色変化度が高い。
俗に、非対称は真空管系、対称はtransistor系の歪みと言われる……だから真空管ってあったかいとか……もっともそれも慣習的なアレにすぎず、回路の組み方で全部変わるらしいっすけどね。

あと、マニュアルには、MeldのDriveは「filterの手前でdistortionをかけるもの」と書いてあり、MS2は多分その通りなんだけど、全type共通ではない。


【BP 12dB OSR】
OSC OSCar再現のうちBPFのみを切り出し。
ハードな効き目のBPFを使いたければこれ。BPFって楽音に使うとどうしても線が細くなるので、noise / drone系のresonateに使ってみたり、texture layerに使ってみたりする上ではピーキーなほうがうれしいね。

  • Q: resonance
    ダイオードのhard clipがかかるとこが持ち味とのこと。これもSVFより立ちやすい。

  • Drive: 0でも若干かかってる。

今まで良くあったPRD (Minimoog) とSMP (MS2とPRDの融合) はMeldにはないんだね。


【LP Crunch 12dB】
feedback distortionのついたLPF。feedbackなおかげで、Driveを上げた状態でCutoffを動かすと、pitchが微妙にヨレる。これがめちゃめちゃカッコイイ。Driveで基音もはっきり補強されていくのでbassに向いてるかも。

  • Q: resonance
    maxでもpeakが立つ感じには全然ならず、filter slopeの微調整くらいに思っておくのがよさげ。

  • Drive: feedback distortion
    こいつだけがMeld Filter Typeで唯一の、奇数倍音のみが乗るdrive。
    Driveを上げまくっても音量が爆発しないようにしっかり管理されているようで、なんならDrive 0の状態だとfilter offよりも音量が下がる。気にせずブイブイ動かして大丈夫。


【LP Switched Res】

ベースは-12dB/octのLPF。「抵抗の代わりに高速スイッチを用いたfilterをモデリング」とのことで、ふつうに知識不足なんだけど古いデジタルフィルタってそういうのやってたのかしら?
Cutoff-Qはまあまあ普通の感じだけど、スイッチングの速度が有限なせいで、reduxかけた時のようなdown-sampleな汚れが乗っかる。Lofiはその速度なのかな? 0でも13〜15 kHzあたりに"本来ない成分"が生まれていて、上げていくと (ここマニュアル間違ってた) どんどんガビガビになっていく。
このガビガビに対してフィルタでQを立てて突っ込むと、Daft Punkからあったようなformantがヨイヨイ言うTalking / VowelなWobbleが速攻作れるわけ。

  • Q: resonance

  • Lofi: down sampleの度合い (= スイッチングの周波数)


【Filther】

「inputにダイオードのhard clipが、outputにはsoft saturationがかかる」12dB LPFとのこと。

  • Q: resonance

  • Drive: 歪み

2段階で歪ませているので、filterの閉じ具合にかかわらず安定した歪み感が得られる。たとえば、MS2だとdrive→filterの順なので、driveでバキバキに歪ませてもLPFを閉じれば丸い音に聴こえてしまう。
Filtherではfilterを閉じた後でも歪むため、歪み具合が安定する。閉じた後で倍音が乗る = cutoff freqが示すHz値とスペクトルに差が出てくる、のは他のfilter typeとはまた違った個性に感じられるかもね。

あとCutoff全開でも4kHzあたりに6dBのLPFが固定?でかかってて常にやや暗めに感じる。


〜余談: Driveのheadroomの比較〜

Driveパラメータを持つFilterはMS2, OSR, Crunch, Filther。BPFでわかりにくいOSRは一旦除外して、残りの3つのDriveのかかり……特に「いつ歪むか」をみてみる。

Cutoff全開状態で、Basic ShapeのSineをとりあえず突っ込んで様子をみてみた。

MS2のDriveでは、0→25、25→50でそれぞれ4.1dB上がってた。素直に考えるなら 0→100で+16.4dB (dBに対してlinear) である。
で、Drive 54あたり?までは歪まず単なるgain upになってる。つまりOsc側にdrive thresholdに対するheadroomが〜9dBくらいあるってことだ。

FiltherだとDrive 40あたりから歪み始める。
Crunchだと最初から歪み成分が聞いて取れる。

もちろん、Osc側の波形や音程、Filterを閉じたりQを立てたりしたら条件は変わるだろう。あとDriveにgain補正 (Driveをかけたものをそのままoutputしちゃうと音がデカすぎて使いにくいので、派手に歪ませたときに出力volumeを自動で下げる仕組みが仕込まれてるかもな〜、って思ってる) がかかってたら↑の数値はな〜んもアテにならない。

とにかく、Driveにmod効かせるときに、単なる音量変化にしかならない領域があるのは事実だ。歪みをコントロールしてるつもりでただのトレモロになってるかもよ。まあ音量変化だって音響効果のひとつだから、聴いて音色がいい感じならOK。

さて、閑話休題……


エフェクト系 7種

Eq (Peak / Notch)】
単純な1 band bell EQ

  • Boost/Cut: EQ Gain

  • Q: resonance (width)

EQ Eightとの比較で行くと、
Peakは、Qが0.1〜2.5に対してBoost Maxは12dB〜20dB程度
Notchは、Qが0.3〜2.5に対してCut Maxは20dB程度
これもgain補正ありそうなんでなんとも言い難いけど。


【Phaser】
6 stageのphaser。内蔵LFOはないので自分でCutoffに繋ごう。

  • Feedb: FB量。極性はnegative。

  • Spread: notch同士の周波数上の間隔。

これ挿してるときとほぼ同じ音になります
(Cutoff  = Center, Feedb = Feedback, Spread = Spread)


【Redux】
Decimator。LP Switched Resと違ってLPF要素はないが、その分細かく劣化具合を追い込める。

  • Cutoff: sample rateとpost LPF freqを下げる

  • Crush: bit depthを下げる。7段階。

  • Lofi: 「filterを通してからsample rateを下げたものと、filterなし版を両方混ぜてmix balanceをとる」とのこと。ざっくり、これが大きいほどギザギザした音になる。

Lofi 100のときはRedux Effectとほぼ一致取れたが、Lofi 0のときはよくわからず。このFilterの正体はよくわかりませんでした。Redux EffectのPre Filterとは違う。
CrushのほうもRedux EffectのBit Depthとはなんか違う効き方してる気がする。


【Vowel】
Formant Filter。特定の周波数を主に2つresonateすることで、人の口腔っぽい響きを模倣し、母音ぽく鳴らす事ができる。このVowelは第3, 4 formantまで扱ってるので、2 formantのみでの再現よりも質が良い。
LP Switched Resが"decimationの結果として" Vowel Bassみたいになってたのと異なり、こっちは直接的にresonanceを作りにいくタイプ。

  • Cutoff: 各formant resonanceの周波数を全体的にシフトする

  • Q: resonanceの高さ

  • Morph: a-e-i-o-u でformantそれぞれの周波数のパターンが連続変化。
    Cutoff 400〜800くらいのときが母音が一番わかりやすいかな。


【Comb (+ / -)】
櫛形フィルタ。LFOで揺らせばFlangerになる。

  • Feedb: feedback / feedforward量
    飽和するまでが速い。100にすると、自己発振し続けるわけではないけど余韻がそこそこ残る

  • Damp: LPF。Feedbackとの噛み合いを聴いている感じ、単にoutputにかかってるのではなくてfeedback routing内部にいそう。マニュアルの記述には反するが。

Comb Filterは「遅延させた信号を原音に足し合わせる」ことでできるため、遅延時間によって櫛形のスペクトルを操作する。しかしMeldはそういうこと考えずとも、Cutoff knobをHzで指定することでFeedbackを立てた時の「山の倍音列の基音」が合ってくれる。ので、+のときと-のときで同じCutoffにしていても内部のDelay Timeは倍違っていたりする。マメだねえ〜


Corpus Resonator 2種

【Plate Resonator (b#)】
板の響きのシミュレーション。おれCorpusのことわかってないんだよな……マニュアルでは32の振動子がどうたらと書いてあり、Corpusのほうだとどういうmodelingしてるかは触れられてないので、Corpusと全く同じわけではないのかもしれん (再現できなかった)。でもまあ得られる効果はだいたい一緒でしょう……

  • Cutoff: size = 音程周波数 = CorpusでいうTuneっぽい

  • Q: resonance = CorpusでいうDecayっぽい

  • Ratio: CorpusのRatio (= 板のXY比: これを変えるとmodesのスペクトルは基準周波数に対して一方向へ伸縮する)とはなんかだいぶちがくて、こちらはmodeごとに左右にバラバラに動く。Ratio 0ならmodeはおよそ21本立っていて、Ratio 100ならぱっと見6本 (よく見ると13本)立っていて、Ratioがその中間値のときは32本近く見えるときもある。つまりよくわからん。


【Membrane Resonator (b#)】
膜の響きのシミュレーション。同上。

  • Cutoff: size = 音程周波数 = CorpusでいうTuneっぽい

  • Q: resonance = CorpusでいうDecayっぽい

  • Damp: 高域damping = CorpusでいうMaterialっぽい

強いて言えばこの状態に近いけど、Meldのほうがもっとmodesの数が多くてきれいに聴こえる

PlateとMembraneどう使い分けるん?についてはとにかく遊んで決めるのがいいと思うけど、ざっくり「Plateは複雑でキモくできる。Membraneはシンプルで明るい」と言える。
というのもMembraneはmodesの基音 (基準振動数) の周辺に他のmodesが溜まってない。基準の次が1.6倍、2.1倍なのでダマにならず、その分3〜7倍のあたりにmodesがメッチャ溜まってて明るい。mode列の振動数比率はknob設定によって変わらず固定。QもDampも、振幅方向をコントロールするのみ。
一方Plateはmode列は可変。Ratioによって変わるし、基音のわりとそばに何本もmodesを立てられるので、ヘンに濁った響きも作りやすい。かつ、[b#]ボタンを点けていれば、「mode列をぐりぐり変化させつつそれが全部on-scaleに乗る」もできて大変楽しい。


10. ミックス

A/Bそれぞれの音量とPanの設定。そしてToneは簡単な1 knob filterで、LP/HPどっちにも使える。

ここでようやく、AとBがmixされる。


11. グローバル

A/B両方に共通で効く設定。

発音数

常に単音のMono、和音の弾けるPolyが選択できる。

Polyは最大12音。
今どき100音出せるソフトだってあるが、12音を天井にしなきゃいけないほどOsc EngineやModulation Matrixが重いのかな。ただSwarm Oscとかは1音でも超分厚いしな〜
Polyのまま、最大発音数の設定は2まで減らせる。「あえて6くらいまでに絞って、変に音が重なって濁るのを防ぎたい」場面はありそう。

Monoだと発音数設定が消えて、かわりにLegatoスイッチが出てくる。
これはLegato弾き (= 1音弾いたまま次の鍵盤を弾いたとき) に、envelopeやLFO retriggerをresetするかという設定。まあ大体のsynthにありますね、呼び方は様々だけど。
たとえばFilterをEnvで動かして、弾き始めだけミョウーーーと鳴らすBassがあるとして、どんな弾き方でも毎回毎回ミョウミョウ言ってほしいのか、Portamentoかけるような弾き方したときはミョウせずにスライドしてほしいのか。


Voice StackでSpreadさせる

StackをOffから2, 3に変えると、「同じMeldを2台、3台同時に鳴らした」ような動きにできる機能。つまり2, 3倍分は重くなる(?)

ただ、全く同じMeldを重ねるだけでは単純に音量がデカくなるだけ。ちょっとでも違えば、音色の分厚さを出すことができる。

たとえば、ちょっとだけpitchを変えておくといわゆるDetuned Unisonサウンド (スパソとかHooverとか的な音) になる。
2 stacksのPanを左右に思いっきり振った上で微妙に音色に差をつけておけば、Stereo-Wideな音になる。

このへんの設定をするのが、Modulation MatrixにあったSpreadという項目。Spread -> Pitch Mod をつないでおけばdetuned unisonになるし、PanへつなげばStereo感が出る。単純に「同じ音のoctave重ね」とかもできるかもね。

そして右端の、大元となるSpreadを0%より大きくすれば、この"stack間の差"が適用されていく。

"Operator"や"Simpler"のSpreadは、↑で言うところの「Stack 2で、Spread 100%、Spread→Pan 50の状態で、Spread→Detuneを上げていく」ようなものだったと思う。Meldのほうが自由度が高い。


Stack OffでSpreadさせる

たとえば、Spread 100%で、Spread → Pitch Mod 12としておくと、
Stack 2であれば、+12stになったMeldと-12になったMeldが2機分鳴る。
Stack 3であれば、さらに+0のMeldも合わせて3機分鳴る。

じゃあ、Stack Offなら、+0のMeld1機分……つまりなんも変わらない? と思いきや、Polyのときだけ特殊挙動がある。Voiceごとにばらけるのだ。

  • Poly 2: 1音目が-12、2音目が+12になる。

  • Poly 3: (1)= 0, (2)= -12, (3)= +12。

  • Poly 4: (1)= -6, (2)= +6, (3)= -12, (4)= +12。
    ……

  • Poly 12: (1)= -2, (2)= +2, (3)= -4, (4)= +4 …… (11)= -12, (12)= +12

といった塩梅に「最大発音数鳴らしきったときにspread量が最大になる」ように、徐々にoffsetがかかっていく。

Pan SpreadをやっておけばStack Offでも、和音を鳴らしたときにvoiceごとに自然なステレオの広がりを得られるってわけ。
まあその場合、単音で弾いたときに最初からちょっとPanが偏るんだよね……
Polyの発音数は3, 5以外は偶数だから、構成音が奇数の和音を弾くと全体の合計はどちらかに偏ることになる。


「Monoだし、StackもOff」であれば、Spreadまわりをいくらいじっていても何も起きない。


出力

A/B mix後の出力に対する処理。

A/Bをmixしたら、Driveで歪ませて、Limitボタンでlimiterをかけられる。

DriveとLimitはvoiceごとにかかるのが特徴。つまりMeldの外にSaturatorなどを置いて歪ませると、Meldの全voiceの出力を混ぜたあとに歪ませるので、「単音弾きのときと、和音弾きのときでは歪み方が違う」になりうる。
こちらでは、1音1音の音色調整として歪みを扱うことができる。
とはいえ、エレキギターなんかは6弦分の音をまとめてampなどに突っ込んでるわけなので、ああいうテイストを目指すならMeldの外で歪ませたほうがいいし、つまり使い分けていこう。

そして最後に、Output Volumeを調整して、おわり。


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