日記220520 (白地図ゲームをした話)

 数ヶ月前までは、鬱屈としてきたら HELLO CYCLING で自転車を借りてあてもなく外に出ていた。気晴らしというよりは孤独・自宅からの逃避のためだ。買い物などをしてうまく気が晴れるときと、逆に何も無さに気が狂うときがある (去年の日記にも書いていたな)。
 で、HELLO CYCLING の値上げが小さいきっかけだったか、外出にも全く気が向かなくなってしまい、いまは自室で狂い続けている。目下の命題は「己の元気を出すための仕掛けを自ら発想し、興味を持ち、計画せよ」なのだが、それをすること自体の元気がずっと無い。「服を買いに行く服がない」的なことだ。服はネットでも買えるが、行動の元気は自発する必要がある。

 じゃあもう生活のすべてがおしまいですか?というとそうではなく、最近ちょっと"興味"が回復してきたって話を書く。

 まず先に脇話を終わらせておくと、曲を作っている。おれが曲を作ることで、実生活上の周囲の人間にかかるマイナスはあれどプラスはあんまりない、つまり自慰行為未満だと発覚してからかなりしんどかったが、自身がやりたいうちはやろう……と続けている。シコって一日終わる奴未満だと思っておいてください (シコっても人にマイナスかかんないからね)。


 そんな話がしたいんじゃない、今ハマっているのは Seterra 地理ゲームだ。

 まず、どんなゲームか?
 凝った"ゲーム"ではなく、単にブラウザ上で白地図埋めができるだけのものだ。
 国境だけの書かれた世界地図上で、指定された国をクリックするだけ。あるいは、地図上に指定された国の、名前を type して答えるモードもある。


 きっかけは複数ある。

 昨年、ウェブメディア オモコロ の記事『【検証】都民なら『東京都の地図』を正しく描けるのか?』を読んだ。「東京都の白地図内に知ってる限りの情報を入れてみよう。意外とできないぜ」という内容だ。

 おれも生まれてからずっと東京に住んでいるし、試したところ、「まあ知ってる部分は間違えないけど、それだけだな……」と奮わない結果。またこの記事を受けてのダ・ヴィンチ・恐山氏の日記で「23区の名前を書き出すのすら難しい」話をしていて、これも真似したところ7割程度の結果に。
 じゃあ覚えたろうと、23区の名前、隣接区の位置関係、主要な駅・路線や建物などを書き出して、「台東区って上野らへんのことを言うんダァ〜」とかアホ丸出しなことを言いながらスプレッドシートを作った。これも楽しい時間だった。年齢に比してやってることやばいが……

 時は過ぎて数日前、「あの時覚えた23区、もう忘れてないか?」と己を試すため見つけたのが Seterra の23区埋めゲームだ(ちゃんと覚えていた)。
 一通り満足した後、Seterra のページ下部を見るとゲームの種類が色々ある。都道府県ゲームや県庁所在地ゲームはやるまでもなく自信があるが、世界のことはまじでなんも知らんなという自信もあった。

 おれがいかに中学以降の社会科を学んでこなかったかを語るとキリがない。中高の地理・歴史の期末テスト平均点は40を割っていた可能性がある。 文系/理系という区分を「選ばなかった教科から逃げるための免罪符」にするのは非常に良くないねえ。この、勉学としての触れ方の話はあとでしよう。


 全く別のきっかけの話。
 先日コーヒー屋で豆を買っていた。お店の説明する味の目安から気に入りそうなものを2つ選んだ。確か、ケニア/中浅煎り/ウォッシュドと、エチオピア/深煎り/ナチュラルで、全然キャラの違う2つで気分で飲み換えよ〜としていたのだが、店主に「どっちもアフリカにするんすね」と言われてドキっとした。
 べつに両方アフリカだって良いんだけど、単に、隣接した国という意識が全くなかったのだ。「あ〜そっすね〜 どうしようかな〜」など返しながら、流石に無知を恥じ、産地の位置関係ぐらい把握すべきだなと思った。


 などなどが重なり、おれは世界地図ゲームへのリンクに手を伸ばすこととなった。
 一般常識レベルでふつうに有用だろうという理由も大きい。地理がわからないせいでふだんの国際情勢などについての読解も甘かったし。

 やってみると拍子抜けするほどかんたんだ。高々200の、聞き覚えのある文字列の位置関係を覚えるだけなので、難易度は英会話とかに比べりゃ数億倍ラク。
 ところどころ、国連承認国ですら名前自体初耳の国がぼちぼちあって、自分にヒいたりしてた。オセアニアやカリブならまだしも、ヨーロッパにすら初耳の国があるのだ……キプロスくん……。ほかにも、キリマンジャロがタンザニアだと知らないから南アメリカのどこかだと思っていたし、カメルーンとベラルーシは近くにあると思ってた。へぇースリランカって島なんだ。ヒドすぎる。
 2, 3日ちまちまやって195ヶ国の名前と位置が、新鮮な知識として脳に入った。久しぶりに"インストール"っぽいことを自発的にできたのでけっこう気持ちが良い。
 ちなみにスマホで遊ぶ場合は操作性が悪すぎるので、アプリ版で遊ぼう。それでも厳しいのでパソコンかタブレットが良いと思うけど……


 遊んでいると他に気になることも出てくる。
 先に大陸別のゲームで地域ごとに覚えてから、世界地図版をプレイしたわけだけど、大陸別には出てきた国名が、世界全体の"国連承認国"になると出てこなかったりする。つまり大陸別ゲームのほうで出てきたのは、承認されてない国だったり、欧米の海外領土なんだけど自治権があるから独立国と同列扱いの区域だったり、国境とか関係なく単にデカい島だったりしたわけだ。それらの詳細が気になってくる。

 両者の国名をリストアップして差分をとる。その差がなぜ生まれたのか?を Wikipedia でざっくり見る。未承認国であれば独立紛争なり、海外領土であれば植民なりの略歴が出てくる。浅い知識を入れた状態で同じ地域の似た境遇な国を見ていくと知識群に輪郭が発生してくる……。Wikipedia で酒が飲めるってこういうことカァ。

 ときに凄惨な歴史すらをもエンタメコンテンツ視していることを認めますが……しかしたったこれだけのことで目に入るものとの距離が縮まる。それはニュースであれ、Soundcloud でアマチュアミュージシャンの居住国と参加レーベルの所在地の関係を見るときであれ、ここはあの映画の舞台になっていたなとか、デイリーポータルZライターの Satoru 氏のブログも何となく読んでいたのを全部読み返したくなるし、なんなら 水曜どうでしょう ヨーロッパ21ヵ国完全制覇 も見返したい。

 この状態からならシンプルに系統地理から勉強し直すのも抵抗ないし、世界史も国のラインナップ自体全然違うとはいえ徒手空拳で挑むよりはずっといい。現在の位置関係から遡及するので十分足がかりになる。
 学生以来持っていた「社会科がよ〜」な拒絶感は、これだけのことで解けたのか。

 これらは誰にも迷惑をかけない。いつでも切り上げられるし続行できる。曲作りよりは善であり、自慰行為と同等には乗ってきている。まあひとりで口半開きでパソコン見てるだけですからね。


 最後に、なんで社会科が苦手だったのかを思い返していた。
 地理のカリキュラムって、最低限地図の読み方と気候区分、各地域の主要国家について飛び飛び・バラバラなステータスを知った後は、国内の話に移ってしまいがちじゃない?
 おれの中学はなんか先進的でよくわからん授業をしていた気がする(基礎的なことは自学しろというノリだったろうか、マジで記憶がないんだ。理解する気のないものを理解しないまま覚えておくのは難しい)。

 色々ググっていると、学校の授業に通底する「丸暗記ではなく人々の営みを感じろ」的なノリを強く感じる。実際、「歴史はストーリーとして捉えれば良いんだよ」とかは現役時もよく聞いた。
 まあ一理あると思うが、問題は「興味の持てないストーリーこそ頭に入ってこない」人は多いだろうことだ。それにおれに至っては「そもそも、ストーリーというもの自体あまり受け付けない」ことを自覚したのだ。

 「ストーリーとは因果の連鎖である。因果関係には理屈があるので、ただの文字列を個別に暗記するよりもラク」。これはわかる。
 しかし、空間・環境の基礎知識なしにストーリーだけを入れようとするとそわそわしてしまう人もいる。ケッペンの気候区分から適した農作が何かを導けるという理屈があっても、その気候ってどの地域のどんな国があるかの具体情報が先行していないと、イメージがぼやけたままで興味にも記憶にも届きにくいのだ。小豆島旅行でのんびり過ごした経験のある人の方が、「瀬戸内式気候は温暖です」を暗記しやすいでしょ? 具体のほうがフックがあるんだから、帰納的な足がかりとして有用なのだ。

 Netflix で映画を流し始めて、最初のほうのシーンをあいまいに見飛ばしてしまって、登場人物のやり取りよりも「さいしょに年代と国なんて表示されてた!?」が強く気になり検索してしまうタイプのキミはおれと近いかもしれない。(そうでもない人……背景情報よりも目の前の"人"にすぐ集中できる人は、コミュニケーション力が高いと思う。)
 あるいは、数学の関数や定理は学んでからすぐに具体的な実践演習ができる。三角関数とか、これまでひらめきで何とかしていた分野を超根本的に「解けることにしてしまう」強引な即戦力っぷり (少なくとも問題を解く上での) にマジで感動したもんな。


 また別の見方をすれば、ストーリーとは時間であり、順序がある、動きだ。一方で、空間は時間軸とは垂直に広がっていて、また静的である。
 今回おれが、たかが国の位置を把握しただけで色々なことに興味が開いたのは、後者の把握によって他のことを学ぶ容れ物が用意できたイメージである。地球の面積は有限で変わらない。収納場所をしっかり作ってから収穫を始めたい。何 HP 何段のモジュラーケースを買って何を収めようか一旦はイメージしてから、買うモジュールを考えていきたい。後からドリフトしていく分にはいいから。
 ベースとして、時間軸を背骨と取るのか、空間を器と取るのか。おれは断然後者寄りで、メロディや歌詞のためにサウンドデザインされてる曲より、メロディや歌詞がサウンドおよび曲自体に貢献しているような曲が好きなんすよ……RPG よりアクションなんです……アニメより YouTuber なの……おれはたまたまね。だから自分が死ぬのもずっと怖いわけ。still life がいいの。

 時間と空間、どちらの先行が性に合うかというのはわりと人それぞれだが、上記したように学校の授業は「丸暗記ではなく人々の営みを感じろ」的なノリ、基礎構造を叩き込むよりもストーリーに沿え的なノリを感じており、時間派に合わせたやりかたになっていると思う。
 自分が社会科を受け入れるためのツボは、ここの取り違えにあったことに、この歳になって初めて気づいたのだ。15年遡って自分に教えてやりたいぜ。


 まだまだ各国の Wikipedia を見るので忙しいし、湖・川・湾まわりも Seterra で少しだけ学べた。そしたら首都や主要都市も気になるし、公用語や宗教の分布もマッピングしたいよね……
 おじさんになってから歴史好きになる人のこと、多くはナショナリズムのひとつのかたちだと思ってたんだけど全然、単純におもろいからっすねきっと。道は違えど……すいませんでした。

おわり


(追記: CIA の出してるTHE WORLD FACTBOOK がめっちゃいい)


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