NOTE 4 Pog Punks
細かいことはどうでもいい場合
大事な音はここに詰まっています
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制作メモ
素体
2013作。カートゥーンサンプルとハンマーエディット。
TVをザッピングする時は目が滑っていて、それぞれの番組に深入りしていない。雑誌をパラパラめくるとき。SNSのTLをスワイプするとき。受動鑑賞。表層エンタメ。にぎやかだが、それぞれがどうでもいい。
サラサラと上滑りだけでよくわからないうちにゴールさせてしまうためには、重い音=重力を使わずに軽薄な音だけを選ぶ。具体性を詰め込んでも重篤な意味が発生しない。
ターザン、早回ししたギター、chipmunks、パーカッションフレーズの自動生成、遅くて長いグリッサンドの声、キャッシャー、パワーパフガールズ、アーメン、ラップ、スラップベース、拍を無視した場面転換挿入、猫の鍵盤、ビットクラッシュボンゴ、おっさんのスキャット、ノイズザッピング。
直感的な素材選択により短期間で完成。
素体の参照元
フラメンコギターとブレイクビーツ、ナンセンスな声ネタ、スイープベースシンセだけで速度を出している。他にも色々あったけどこれが起点。
音ゲーにあたり必要なもの
素体を踏まえた新作制作の要請に対して、
・完全合法性
・音響情報以外に主幹を担わせる=メロディの強化
平たく言えば、サンプリングによって発生していた軽薄なカラーを自力で生成する必要がある。理性と頭脳をもってアホを再現する。
サンプリングが使えない時点で「カートゥーン」にはこだわらない。直引用がかなわない場合、Tsubusare BOZZ氏のような再演のアプローチはありえるが、私がやっても劣化再生産にしかならなそうだ。
以下、アホを模倣するために頭を捻りまくった様子の記録。
手法
・そのままハンマーエディットをやる:合法素材を使う。汚れている素材を探す / 合わないものをあえて合わせる / 加工して、強い音を弱める。
・一つのメロディラインを異なる楽器でリレーする:シンセを複数立ち上げて、MIDI送信先をスイッチする仕組みを作る。
・展開ごとに音色をがらっと変える:単純に、5, 6曲分のパーツを用意して、8, 16小節ごとに切り替える。
[intro-main1-bridge1], [main2-bridge2], [main3], [main4], [main1'-outro](曲は適当に検索すると違法uploadが出てくる)おれもupしました
intro
先頭2小節で曲のイメージを宣言する。「効果音列」「アコギと生ドラムによるデジタルサウンドとの距離感」「陰気じゃないことを示すオルゴールの音階」「ベンドやグリッサンドによる楽譜世界観との距離感」。
↓効果音列の例(0:00)
main1
「素体」を参照に組み直していく。BPMは変えないが「素体」ほどの速度感を出すと、「必要なもの」を達成できない。
リズムはバックビート重点。セブンスのギターヒットは#9から9に変えて落ち着きを持たせる。ベースを"敷く"と本当にマッタリしてしまうので、fillの役割だけ任せる。本来、最後に衆目を引く効果音を中心に乗せて終わりにしたいが、今回は出来ないのでシンセリフを乗せる。
↓シンセ音色の食べ合わせの例(0:00)
bridge1
main1が安定的だったので、加速していかなくてはいけない。一度宇宙を経由してもらう。ピアノの低鍵強打をダブワイズのなかでピッチ上昇させていく。明るさを保持できるブラスのおかげで、基本的にアホであることを忘れずに済む。
main2
多数のシンセでメロディをリレーして編んでいく。「KORG M1やTRITONのような90s PCM」「玩具ライブラリ(自作含む)の声系楽器」「シンプルめな減算アナログ」「整ったデジタル」を 4:3:2:1のバランスで混ぜる。
ワンコードに対して、3拍単位のモチーフをちょっとずつ持ち上げながら繰り返しリレーする。バトンパスの間を関係ないサンプルで埋める。ドラムとベースをイーブンの1/8でベタベタ動かし、メロディとグルーヴを合わせる。
全音音階で折り返したあと、後半はベタベタを徐々に取るため、1拍単位のノリを作る。表4つ打ち(ライド)と裏4つ打ち(ブラス)のコントラストで裏優位を明示する。ブラスでは#9とM3をぶつけ続けて、コーダルなものから距離をとる。
↓フレーズをリレーで編むことの例(0:04)
↓Rideの4つ打ちのデュレーションの例(0:21)
↓半音衝突のキープをうまく見せている例(1:17)
bridge2
表をゆるめのガバキック、裏を口琴に変え、表優位に逆転させる。軽薄ではあり続けるために、現代のハードコアの音作りではない。
main3
1分もするといい加減疲れるというか飽きてくる。わかりやすい音楽にシフトして一旦アホから脱却する。
まずここまでほぼワンコードだったので、進行を使う。単純なツーファイブを解決せず繰り返す。
そして楽器編成をわかりやすくする。スラップベース、ブレイクビーツ、裏打ちオルガン、白玉エレピ、ギターアンプ通したリード をMIDIで普通に組む。楽譜的音楽。普通のファンクの範疇。素直に格好良く見せたい。テープストップで強制終了する。
↓途中フィル的に挟まれる連続半音上昇の経過和音列の例(0:36)
main4
着手前にチュウニズム側のキャラ設定を聞いていた(ポン助はアロハシャツを着てる)、金貸しには剛柔両面が要るだろう。やかましい一辺倒だけではない半速ボサノバ地帯。
とにかくベタなコード進行をやる。それをクラップビルドと倍速ビートの登場で侵食し、サイレンの号令で元に戻す。
↓喧しさからアコギの落ち着きに放り込まれる例(0:44)
main1'
一本道の展開で発散させるとマジで記憶に残らない曲になりそう。main1を再演して、最初に何が起きていたか思い出してもらい印象をまとめにかかる(手遅れかもしれない)。
速い場面を経てきているので、BD, SDの打数は細々と増やして、バックビートだけでないジタバタ感を盛る。クライマックスだけ4つ打ちにして、bridge1のベースドロップ、main2の半音衝突ブラス、main3のアンプリードを束ねていく。
outro
無秩序カットアップ。ビートと上モノの2レイヤーを並行して切って、合法素材でもチャンネルザッピング感を担保する。
煮え切らない和音で終える。綺麗な解決は許されない。
名付け
『Pre Paid Pog Punk Panic』は、過去曲『kit kat fat cat chat』や『chupa chup chip chop shop』を踏まえる。ポン助が「金は命より重い」と言うようなキャラなので金にまつわる言葉から始めるために、韻は諦めて頭文字を揃える。
『kit kat〜』期の曲がアメリカのmeme界隈で"Penis Music"の一種として扱われる例を少し見ていたので、Pogのような単語を使う。
最初はPanicではなくPhunkとしていた(Joseph Nothingに『Drunk Punk Funk』という曲がある)。が、読みにくいし、この曲にFunk性は一部にしかない。代案として、Plus-tech Squeeze Boxがpop'n musicに参加した際のジャンル「パニックポップ」を引用する形でPanicとする。合計6音節で語感が悪い。
ジャンル
ジャンル名を訊かれて"Comic Punk"と記入した覚えがあるが……とは言えBreakcoreやJungleやDnBなどの既存文脈を踏めるつくりもしていない。Punkの精神性にはギリ背いていない。
本当は"Softcore"と言いたかったがこれをポルノ用語でなく音楽で捉える人は少数。リスキー。"Penis Music"はもってのほか(だが、意識はしている)。
以上
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