キックの配置・身体への引力

ダンスミュージックの低音のリズムにかんする走り書き

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音楽を聴いて身体を自然と揺らす上で、キックがどう関わってくるかについての個人的な体感。

「キックは重力:身体を下に引っ張り、楔を打つような強制力を持つ音」
「スネアやハットといった、低音じゃないリズムは、下方向には効かないが、腰より上(肩とか)を揺らしたり捻ったりするように作用する」
の仮説を超乱文で下記する。

(「重低音 Heavy Bass」と表現するように、低音と重量の関係は直感的にみな感じやすいものだと思うが、とりあえずリズム上の機能についてのみ触れる)

(振り付けを共有して、識ることで踊る話も一旦置く。ジャンルの成立についてメチャ大事なことではあるが話が逸れるので)

(おれはダンスについて学術的なものに触れてないし、専門的に技能を磨いたわけでもないので、たわごとかもしれない。)

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例①:4つ打ち

キックが4つで鳴ると、キックに合わせてステップを踏む。
ステップを踏む=足が接地する。重心が地面に対して安定する。次に身体を持ち上げるためにパワーが溜まる。
足を地面から離さない場合でも、膝の上下によって重心が移動する。
足は2本あり交互に踏む。基本は2拍でワンループする動きになる。2,4拍に鳴るスネア/クラップはこれをサポートする。
具体的には、2拍かけて上半身が片側に傾いてきて、クラップをその切り返しのアクセントとして捉える。

ステップを踏まずに顎や腰だけでノるときもある。
個人的には、キックと裏打ちハットの時だけの縦のノリの時とかに多い。
キックで顎を前に出す(下前方への引力)。次のキックでも顎を前に出したかったら、その前に顎を引く必要がある。引く動きを誘導するのが裏打ちハットになる。
キックとハットのそれぞれの音の長さの関係がうまくキマっていると、この顎の動きがスムーズになり、身体を揺らしていて非常に気持ちいい。

("脳で理解して踊れ"という話ではなく、"リズムパターンが身体をどう動かす機能を持っているか"という話で、人間はただ身を委ねるのみである)
(作る側も、"こういう意図で音を配置している"という話ではなく、"感覚的に踊りやすいものが人気によって選ばれてきている、そしてある程度認められたリズムパターンがジャンル名等と共にテンプレ化していく"という話)

例②:Brostep

BPM 140で、1,3拍目に強烈なアクセントを持つ。
流行っていた時を思い出す。ロッキンなノリとして、だいたいみんな1,3拍目にあわせて思いっきりヘッドバンギングしてた=頭ごと、上半身ごと重力に引かれる。
強いアクセントに引かれていただけで、キック(低音)がどうという話ではないのかもしれないので、仮説補強としては微妙な例だな。

動きが大振りで、素早い動きはない。キックという短い低音だけでは物足りない。1拍目のキックに合わせて鳴るBass Shotが、3拍目までの時間をスイープして身体の動きをコントロールする。

例③:Jungle

低音で身体が下に引かれるとして、低音が無くなると重力から開放される。身体が浮く時間がある。すると、次の低音にまた引っ張られた時に縦の動きができる。
Jungleのキックベースは長く伸びる。ベースがパッと切れる・無くなるタイミングが少ない。開放の頻度が少ないので、縦の動きをあまり強いてこない。低音の途切れという0or1ではなく、"鳴り続けてはいるが音量は変化"、またベースの音程も変化して、重力の感覚にバリエーションとパターンが出てくる。

で、Jungleのスネアはキックに対して倍速で、音色も軽い。キックベースによって片足を接地したまま、スネアとハットで上半身を揺らす。その時すべてのタンチキチキを身体で拾う必要はなく、自由な解釈で踊れる。大きく横に揺れつつも気持ち良いところで速い音への反応を入れ込むことができる。
(この踊り方は一般化して言っていい気がしねえー。個人差があります。)

Drum & Bassについても近い感覚がある。大きな違いはDnBのほうが2,4拍のスネアがキッチリ強い傾向を感じ、自由よりわかりやすさが少し勝っている。
ロック好きな人にウケるようなバンギンなDnBについてはよくわからん。

例④:Footwork

Jungleとよい対比になっている(じゃあFootwork Jungleはどうなんだよ)。
オーソドックスなFootworkはまず手数の多いキック。付点8分系のパターンを基本に、3連も混じってトリッキーなリズムになっている。予想外のところで下に引かれる。それを踊りこなせた時の楽しさや、音楽の方に振り回される楽しさがある。
Footworkの踊り自体を思い浮かべるとわかりやすいと思う。ダンスとして踊りこなした上でさらにカッコよさを追求するとああなると思う。あそこまで踊れなくても、Footwork音楽がこちらに誘いかけてくる身体的ノリの方向性は同じと感じる。

Breakcoreで踊るのが大好きだった10代を思い返すに、こういった、予測できないところに来る重たい音、に対して身体がグンと引かれてグルーヴするのがすごくよかった(だから4つ打ち系Breakcoreより、Breakbeatsだけでやってるやつが好きだった)。
FootworkとBreakcoreの踊り方は結構違うと思うけど、ある種の不快というか、不自然に対するマゾ的喜びみたいのがなんとなく共通してると感じる。

あまりわかってないもの①:Trap

ここまで話したような感覚で自分は踊っていたので、最初にTrap聴いた時、正直ノリ方がわかんなかった。サウスもほとんど聴いていなかったし。2013くらいか。
友達から「これは70じゃなくて140で取って踊るんだぜ!」「へー!」なんて話を聞いてから8分で揺れるのがすぐに楽しくなったが、自力直感でその動きにならなかったなあ、と思い出す。
今、Hiphop/PopsとしてのTrapを聴くとこんなん自然に身体揺れて当然でしょ、となる。iPhoneのスピーカーで聴いてラップのグルーヴだけで揺れるし、ハットとスネアにも反応する。でも足の動きはあんま想像つかないかもしれない。808 Bassがブゥーンと飛んできた時にダンスに直結してる感じがあまりしない。

Dancehall Reggaeとかにも同じことを思う。かかれば踊るし楽しい、かなり楽しい部類に入るんだけど、低域の引力ではないところで踊ってる気がする。それはエレクトロニック・ダンス・ミュージックの機能性と別のところから来ているっつうか、ディスコやファンク、言えばジャズやロックンロールでも踊っていた、音楽的に本流のほうの話な気がする。Acousticなキックの低音についてはPAにもよるが、みぞおち辺りには来るが下方向に引かれる感じはあまりない。

あまりわかってないもの②:4つ打ち(BPM170以上)

縦に跳ねる感じが合うだろうか。低域にフォーカスしてる感じのないGabbaや、まだ横揺れ要素を感じる初期っぽいHappy Hardcoreはまだわかるんだけど、リズムが綺麗に整頓されてて上モノも派手なHardcoreって、キックの引力に全部ついていくのかメロディを肩や頭で感じるのかちょっと迷う。両方やるとしたら結構体力を使う動きになりそう、元気な若者に向いてるというか

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サクッと書くつもりだったが大分長くなっているな……


ということで自分で曲を作る時に、キックをどれくらいの量、どこに打つのか、キックのローの伸びをどのくらい詰めるのか、スネアとの数のバランスをどうするか、みたいのはこれらの理屈からもある程度イメージできる。

おれがこれらの考えに至ったそもそもは、BPM172の曲を作っていて、色々詰め込んでいたら体感速度が下がってきたので、BPM数値よりも体感速度を上げるアプローチには何があるのか悩んでいたのに端を発する。

8ビートより16ビートのほうがベタベタしているよね、いやいやベロシティコントロールによってむしろ速まるよ、等あったが、大きいのは「キックが増えるほど、身体に楔を打たれるようなフィールが増えて膠着する。スネアは打数を増やしても流れていく。」あたりをいじるのが良いということになった。

ふわふわしているだけでも踊れないのでどこかに重力を配置する必要はあるのだが、それの数を抑制して、配置をちゃんと考えないと速度が上がらない。重力にぎゅっと引かれたあとは揺り戻しで身体が浮くので、そこにスネアを叩き込んであげると楽しい。波動拳で飛ばせて昇竜で落とす、みたいなもんですね。

シンコペーションを使うのもよい。安定した流れほどゆったりとノれるが、そこでリズムを食うと流れがぐっと前進する。上記Footworkの項に書いた"予想外"の話だ。これはべつに低音に限ったことではないがキック配置を考える上でも有用だ。でもシンコペーションは特効薬っぽい節もあるので、そりゃ速い、くどくなりうる、違うアプローチも開発しておけるといいですね。

もちろん、これは体感速度を上げたいという目的がある時の話で、速いことが正義じゃないシチュエーションなんていくらでもあり、キックをむやみに増やして面白いグルーヴを追求することもできる。


おわり

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