見出し画像

自閉症の兄と、愛娘の、以心伝心。

年末年始の巨大連休で、実家に帰省した。生後9ヶ月の愛娘と、奥さんとともに。

岩手県の実家には、松田翔太(31)という兄貴がいる。彼は自閉症という先天性の知的障害がある。自宅では、自らの「好き」なことしかやらない、ぼくはよく"将軍"と呼んでいて、そんな彼の生き方のファンでもある。そんな彼と、溺愛する愛娘(9ヶ月)は、なんだか奥底で繋がっている気がするのだ。

兄貴は、びっくりするくらいに、うちの奥さんの名前を覚えていない。決まってする質問がある、奥さんを兄貴の横に連れて行って、

「だれでしょう?」と質問するのだ。

それを受けて兄貴は決まって

「○○○さん!!!」

と食い気味に大きな声で、ぼくではなく双子の文登の奥さんの名前を発表するのだ。しかしその質問も、愛娘の名前となると一変する。

「だれでしょう?」と聞くと、「○○○ちゃん!!!」と大きな声で、当て続けている。それも、何回も、何回もだ。そして、ぼくが娘とともに実家から帰宅するとき、そして、母が兄と一緒に東京に孫の顔を見て帰宅するとき・・・別れ際に決まって、

「○○○ちゃん、また来るって?」

と質問をするのである。それを見る度にぼくは、兄貴と愛娘の心が通じ合っているのではないか?と勝手に脳内で仮説を立て始めて、温かい気持ちになる。

兄貴は、病院の先生いわく、知能指数は「5歳」らしい。

ぼくと兄貴は、よく鬼ごっこをして遊んでいた。それも、兄貴が10歳の頃から20歳までだ。とんでもなく長い10年続いた鬼ごっこだった。

年末年始、雪の降り積もった実家の庭先を見て、当時の鬼ごっこを想像していたら、うちの娘と兄貴が、鬼ごっこをする姿が見えてきた気がした。

自分は小学校の頃、汗をかきながら全力で兄貴と追いかけっこをしていた気がする。それはいつしか、自分が年を重ねていくごとに、兄貴を喜ばせるための手段に変わっていった。

兄貴もそれを察したのか、もう鬼ごっこには誘われなくなった。実家から鬼ごっこが消えて、10年近くになる。

だからこそ、うちの娘と兄貴は、親友になれるのではないかと思った。同じ目線で、同じ距離感で、何よりも全力で。当時の自分たちと同じように。また10年間の鬼ごっこがスタートすることを願っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?