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もしも"ふつうの"兄弟だったら。自閉症の兄と暮らした一卵性の双子。

このnoteは、SMBCグループと開催する「 #一人じゃ気づけなかったこと 」投稿コンテストの参考作品として、主催者から依頼をいただいて書きました。

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小学校時代、男3兄弟でよく訪れていた岩手県の実家近くの公園で、東京に住んでいるぼくは、久しぶりに兄・翔太に会った。

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兄「ん〜〜〜(笑顔)」
ぼく「ん〜〜〜(笑顔)」

兄がしわくちゃの笑顔で私・崇弥の顔を見ている。私もしわくちゃの笑顔で兄の顔を見返す。みなさんは不思議に思うかもしれないが、これは私たちの日常会話であり、最大の愛ある意思表示である。兄とは、言語のコミュニケーションを超えて心と心で会話している、ずっとそんな気がしている。

私たち双子の兄は、重度の知的障害を伴う自閉症だ。

自閉症とは先天性の疾患であると言われていて、対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴がある発達障害の一つだ。兄はびっくりするくらいたくさんのこだわりがある。猫背で、硬直して、口数少なく、眼鏡を握りしめて・・兄の言動を見れば「あ!私とはちがう」とすぐにわかってしまうだろう。

つまり、世の中に溢れる「兄と弟」みたいな関係ではないのだけれど、その絶妙な関係を今のぼくはとても気に入っている。

でも、ふとしたときに考えてしまうことがあったのも事実なんだ。今まで生きてきた中で抱いた感情について、今日は告白したいと思う。

もしも兄が"ふつうのお兄ちゃん"だったら。

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「お母さん帰ってくる!!!??!?!!!?」

それは20年前。一軒家のマイホーム、壁をドンドン叩いてドアをこじ開けようとする小学6年生の兄がいる。そのドアの壁一枚を挟んだ奥には、小学校2年生ながら必死に兄の侵入を双子で阻止していた。

6時に母親は帰ってくるといったのに、帰ってこない。1分でも時間が遅れれば兄は大パニックになる。不安の矛先は私たち双子の弟たちに向く、体格差がある時期は戦っても勝てない。だから母親が帰ってくるまでの間、ずーっとドアを押さえているのだ。

「ふみと、たかや、本当にごめんね・・・!!!!!」

帰宅するやいなや、兄をなだめて母親は泣きじゃくる私たち双子を抱きしめることもあったと記憶している。

そんなときに、少しだけ考えてしまったことがあるんだ。

もしも兄が"ふつうのお兄ちゃん"だったら。

お母さんも、お父さんも、もっと楽に暮らせたかもしれないんじゃない?
私たち双子の兄弟も、もっと悩まずに暮らせたかもしれないんじゃない?

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ぼくが中学校時代に兄のことで友人に弄られていたときも、本当だったら守ってくれたのかもしれないんだよなあって。

ぼくが高校時代にガールフレンドができたとき、真っ先に恋愛の相談に乗ってくれたのかもしれないんだよなあって。

ぼくが大学時代にお金に困ったとき、お前は仕方がないやつだなあって、ご飯を奢ってくれたかもしれないんだよなあって。

でも、そんな妄想を膨らませたとしても、兄が流暢に喋ることはこの先もないことはわかっている。4歳上の兄、身体は成人33歳だけど、精神年齢は永遠の3歳なんだから。

ぼくら双子が生まれたその瞬間から、横には"ふつうじゃない"兄がいた。

自閉症の兄によって、人格は形成された。

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小学校時代から、
「喋らないの?」「笑わないの?」「聞いてないの?」
兄に対して、周囲から他愛もないたくさんの質問を受けてきた。自分からすると、喋るし笑うし聞いてもいるのに。対人コミュニケーションが流暢にできないと、どうやら兄はロボットのように見えてしまうらしい。世間との大きな認識のズレを感じずにはいられなかった。

中学校時代には、
「翔太イム(ショータイム)!!!」
と罵られた。ふざけんなよと思った。自分には障害も何もないのに、なんで兄の挙動不審な言動の真似をされ、馬鹿にされなきゃいけないんだろうって。文章ではとても表現しきれない感情、悔しくて仕方がなかった。正直、学校に行きたくないなあと思うこともあった。

私たち双子は自閉症の兄がいたことでたくさんのことを経験し、今まで生きてきた。兄という眼鏡を通じてみる社会は、ときに美しく、ときに残酷だった。社会にはこんなにも無数の感情が存在していることを知った。

私たち双子は自閉症の兄がいたことで、馬鹿にされる経験をした。けれども、自閉症の兄がいたおかげで、人の"ふつうじゃないところ"を馬鹿にすることなく、そのままに受けとれる人に育ったのだと思う。

私たち双子の人格は、間違いなく自閉症の兄によって形成されたのだ。

兄は、たくさんの人に"気づき"を与えている。

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音を聞き分けられること、スケジュールを自分で組み立てられること、冗談を言い合えること、スポーツのルールがわかること、恋愛ができること。自分たちが今現在、あたりまえに与えられているのは、当然の権利なんかではなく、ものすごく貴重な特権だということを。誰もが経験できることではないということを、気付かせてくれる。

兄は、障害者でも、自閉症でも、ない。
兄は、松田翔太だ。正真正銘、ぼくの兄だ。

ずっと、そのままでいて欲しい。
大切な兄であり、弟のような気もする。不思議な関係。

あなたの弟でよかった。心からそう思う、ありがとう。

#一人じゃ気づけなかったこと


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