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かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【連載終了】

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『かすかべ思春期食堂~女剣士ミズキの旅~』の続編です。 ハルの下宿の住人、みちるとありさ、姉妹の現実のお話とハルの過去がからみます。
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2017年1月の記事一覧

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page1】

           目次へ 一、ありさの家出 ① 「やっぱりこの薪能の会場で食べる豚汁は最高だね、ミズキちゃん」  薪能が終わり、神社の境内の座席から立ちあがり、帰ろうとする人たちのざわめきの中で、まだその場をいとおしむように座ったまま、自分とミズキの豚汁の容器を持参したビニール袋に入れ、バッグにしまいながらハルは話しかけました。 「業者が作った均一な味じゃなくて、神社関係者の女たちが集まって、野菜を切る人、煮る人、味をみる人、あれこれおしゃべりしながら。ネギ一つに

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page2】

       前ページへ    目次へ 一、ありさの家出 ② 「ハルさん、お帰りなさい。あら、ミズキちゃん、いらっしゃい!元気そうね」  恵美が迎えに出たリビングには土曜ということもあって、小学生の裕太や遅い食事を終えた住人など数人が残っていました。 「みちるちゃん、ずっと部屋にこもってます」と恵美はハルに耳打ちしました。 「あ!ミズキちゃん、ねえゲームしよーよ」と裕太が駆け寄りミズキの手を取り、中に引き入れます。 「だーめ、寝る時間!」と恵美に言われ、 「いいじ

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page3】

    前ページへ    目次へ 一、ありさの家出 ③  5時間ほど前、ありさは帰宅したみちるに高校を辞めたいと言いだし、喧嘩になっていました。  理由を言ってもその程度は我慢しろと言われ、中退すればいいことはないと、先輩ぶった話を聞かされ、就活がうまくいかないと不機嫌になるから、なるべく邪魔しないように気を遣い、静かにしていたのに。それなのに進路の希望も聞いてはくれず、なにかにつけて私のすることを否定する……そんな思いが噴き出して思わず 「いいよもう!あたしはあたし

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page4】

    前ページへ    目次へ 一、ありさの家出 ④  普段なら、知らない男の車に乗るなど、危険極まりないことはありさだって承知なのでしたが、このときは早くこの場から離れることが先決でした。それだけでなく、姉、家、学校という足場を自らはずしてしまって、かすかな頼りの叔父もあてにならず、宙に浮かんだ自分が堕ちていきそうなところをぐっと腕をつかまれ、ひっぱりあげられた。そんな感覚も確かにあったようなのです。  車はやがて高速に上がっていきました。ありさはハアハアしていた息

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page5】

      前ページへ   目次へ 一、ありさの家出 ⑤  コンコン!    恵美が、ハルと話しているみちるの部屋のドアを開けながら 「ミズキちゃん、今、ありさちゃんと繋がったみたいですよ!」  リビングに出ると、そこにはまだ残っている住人と、奥のキッチンで向こうを向いて立ってケータイを耳に当てているミズキがいました。 「ありささん、大丈夫ですか?今、どこですか?」 「……ううう……わからない……山のほう……それと川……真っ暗でこわい……いたい、足が……」 「あ

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page6】

    前ページへ    目次へ  一、ありさの家出 ⑥  ミズキの両親に発見された時のありさは聚徳院というお寺の裏手の多摩川べりにうずくまっていたのでした。  懐中電灯に照らされ、ドキッとして顔を上げ逃げようとしたものの、足が痛みへたりこんだところを 「ありさちゃん?大丈夫?ミズキの父です」 「怪我?今診てあげる。どれ」  陽子も毛布を持ってかけつけ、ありさを包みました。 「捻挫だね。湿布をすれば2~3日で痛みはとれるよ。家で手当てをするよ。さあ行こう。立てる