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越後三山縦走(敗退)
お酒を飲む人で八海山の名前を聞いたことがないという人は少ないだろう。八海山は新潟の南魚沼市に位置する山であるが、その麓にある八海醸造が製造を手掛け、日本酒の置いてある店であれば良く目にする銘柄である。八海山という名前自体はひとつの山頂を指している訳ではなく、稜線に連なる岩峰を指しており、代表的な山頂は入道岳(1778m)である。
そんな八海山は越後駒ヶ岳、中ノ岳と並んで越後三山に数えられている。今回行ってきたのはこの越後三山を1泊2日で巡る山行だ。
さて、こんなに八海山の話題をしておいて何なのだが、今回八海山に到達することはできなかった。その経緯も含めてここに報告させていただく。
今回の山行のルートを紹介しよう。水無川(みずなしかわ)沿いをしばらく遡行して稜線へ至る尾根を登り、越後駒ヶ岳へ。稜線を辿って中ノ岳の避難小屋で一泊。その後、八海山方面へ稜線を辿りロープウェイ手前の分岐で水無川方面へ下る。距離にすると24.7kmと大したことは無いのだが、登り2959m下り3067mとかなりハードなルートとなっている。今回、登山仲間の友人2人とパーティを組み挑んだ。
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友人所有の車で駐車場着。駐車場から砂防ダム建設のためと思われる廃道をゆく。人通りが少ないようで、踏み跡に負けじと草が生え盛っていた。
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40分ほど歩いて登山口に到着。ここから1600mを一気に登り駒ケ岳を目指す。日本三大急登という言葉があり、私もその一つに数える谷川岳の西黒尾根に行ったことがあるが、ここもそれに匹敵するレベルである。10kg近い荷物を持ってきた自分を恨みながら、対岸の尾根に見とれたり、雲の行く末を心配したりしながら着実に歩を進めていく。
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登っていると常にお腹が空く。お腹が空いているときほど生きねばならんという気持ちになる。街で暮らしていると忘れがちな感覚である。人間はときになぜ生きるのか疑問に思い、そのような疑念に追い詰められることもある。しかし、山に来ると何に悩んでいたのやらすっかり忘れて明日を生きることに苛まれることもない。雄大な自然の中に生きるいくつもの命の営みが教えてくれる。自分のひもじさが教えてくれる。麓の街明かりが教えてくれる。そんな体験を求めて、リスクのある登山をするのかもしれない。
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6時間ほど登って縦走路に到着。荷物をデポして駒ケ岳山頂まで急ぐ。分岐から10分ほどで登頂できた。天気がすっかり悪くなってしまい、小雨も降ってきた。なんとか日没前までに中ノ岳の避難小屋に着くよう先を急ぐ。
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結局日没までに避難小屋に着くことは叶わず、19時を少し過ぎたところで到着した。暗い中を登るのはとても心細かったが、ほんの一瞬霧が晴れて見ることができた一面の星空が元気をくれた。避難小屋の中に入ってみるとすでに3組ほどが寝ていたので、外で夕食を食べた。山行中の雨で全身びしょ濡れになってしまったので、あまり乾かないことは承知で小屋の天井裏に服を干して寝た。下着などの替えを持っていなかったので裸で寝袋に入る。幸い小屋の2階は我々で貸し切りであった。
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山小屋では全員が日の出前に起き出す。我々も4時頃起床して荷物をまとめ、外で朝食を摂った。昨晩は寝付きが悪く、浅い睡眠を繰り返す感じであった。さて、中ノ岳のピークハントがまだであったので向かった。この日の朝は天気が良く、日の出前の金星もよく見ることができた。会越の峰々が美しい。
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さて中ノ岳から八海山を目指す尾根であるが、これもまた凄まじく急峻な道である。2085mの中ノ岳から1344mの荒山へ一気に下り、五龍岳(1585m)、入道岳(1778m)と登り返す。
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さて、昨日の疲労を引きづってしまった我々は中ノ岳からの下りですっかりバテてしまい、計画を変更してエスケープルートの検討をすることにした。しかし、Wikipediaの八海山のページにも解説がある通りエスケープルートの選択肢は非常に少なく、結局距離はあまり短くすることができないがおよそ下りだけで進むことができる阿寺山の方面へ進むことにした。
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昨晩避難小屋で汲んだ雨水と塩タブレットで体を鼓舞しながら進むこと7時間半。五龍岳に到着した。3人とも口を開くと「つかれた。肉食いたい。」しか言わない極限状態であった。水も残り少なく、阿寺山の先の沢まで先を急ぐ。
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阿寺山で途中昼寝を挟んだりしてなんとか下山路の樹林帯に到着。途中また雨にふられたりしながらも沢の水にありつくことができた。沢の水といっても湧いて出てくるところが近く、とても冷たい水であった。
クタクタになって言うことを聞かない足をなんとか運び、19時頃。無事に人間の舗装した道路に着くことができた。タクシーを呼び、待つ間道路に寝っ転がる。さながら遭難者である。
なんとか車も回収して下界の飯にありついた。やはり人間社会は偉大である。望めばいつでもうまい肉を食える。大量消費社会に嫌気が差すこともあるが、このときばかりは都合よくただただその恩恵に預かるのだ。
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さて、車の所有者はもう運転する元気はないというので仕方なく自分が運転して帰る。1日中水に浸かっていた足の皮膚はしわくちゃになっていて、クラッチを踏むたび、ブレーキを踏むたび痛む。
友人と無事に戻ってくれたこと、家族にまた会えることに喜びを感じつつ、いつもより安全に注意して運転しながら次はどの山に登ろうと考えた。
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