マガジンのカバー画像

正しい夜明け/樹海の車窓から

13
運営しているクリエイター

#疑似エッセイ

正しい夜明け/樹海の車窓から-7 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

黒いファービーが、本来ならば顔があるはずの場所に埋まったそいつは、青く縁取られたビー玉のようなホログラムの瞳をぎょろッとぎらつかせ、こちらを一瞥したかと思うと、食玩を思わせる安っぽい黄色のクチバシを三回ほどカカカッと鳴らしてスックと背筋を伸ばした。さっきまでの不安定さはどこへやら、すっかり首の据わったソイツは、突然の珍客の出現に縮み上がって震える罪なきバンドマン四人を視認したかと思うと、あろうことか一目散にこっちへ走ってきたのである。 そのスピードダッシュ、二足歩行のチーター

正しい夜明け/樹海の車窓から-6 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

さっきから何回も作動させようと念じているのだが手ごたえがない、と唸る九野ちゃんを地べたに下ろす。空はすっかり暗くなって、鮮やかなブルーハワイに見えていたキヨスミの肌がブルーベリー味、といった感じの色味に変わっていた。どうしようどうしようと尻尾が渦を巻くようにその場でぐるぐると回る九野ちゃんだが、こちらだってどうしようもない。そのままぐるぐる回ってたらアマミホシゾラフグの要領で新たな魔方陣がそこに現れるんじゃないかとも思ったがあまりにも不義理で不謹慎なので言わないでおいた。と、

正しい夜明け/樹海の車窓から-3 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

一言で言うと、今、おれはスランプである。 スランプだなんて偉そうな事言えるのは大物だけだ、なんてエラそうなどっかの誰かが言っていたが、実際何も生み出す事ができないのだから仕方がない。HAUSNAILSのフロントマンにして作詞が大の苦手でお馴染みのおれだが、曲作りだけは少なくとも誰よりも負けないように、数だけでも増やそうと日々努力してきた。仕事帰りに夜道を歩きながらスマホのレコーダーに鼻歌を吹き込んだりなんかは日常茶飯事で、それをもとにして生まれた曲も少なくない。バンドの活動

正しい夜明け/樹海の車窓から-2 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

「でな、会いに来てもらえねぇならこっちから会いに行くしかねえのヨ、もち物理的には無理よ? だったら電線伝って家まで会いに行けばいいワケ! こないだナンバガだって演ったっしょ、無観客で」 ホワイトボードに絶妙にクラッシュした文字で書かれた「インターネット配信ライブの意義とは?」との文字列を背景に、折り畳みテーブルにマックを置いて「インターネット配信ライブの意義とは?」をややしゃがれ気味のシブい声で我々に滔々と説く色男。180センチ近い長身はいわゆるモデル体型と言うやつで、ボタ

正しい夜明け/樹海の車窓から-1 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

カッティングの効いたリズムギターに和音が小気味よくペンタトニックをなぞるリードギター、主張しすぎないがメロディアスなベースと四つ打ちを基調にしながらもどこかいなたい雰囲気のあるハネたドラム。母親が「これ好きだったのよお小学生の頃!」と豪語しながら観ていた懐メロ番組の、揃いのスーツを纏って長髪を胡乱に撫でつけた――その割に不思議とカッコよく見える――往年のグループサウンズを彷彿とさせるガレージロックが、臨時休業中のライブハウスの舞台に飽和する。奏でているのは往年のグループサウン