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何もできない会社員が『ビヨンドユートピア 脱北』を知ってしまう。

今さっき、『ビヨンドユートピア 脱北』というドキュメンタリー映画を観てきた。

基本邦画しか好きじゃないし、ドキュメンタリー映画なんて観たことないわたしが、この映画を知ったのは、キングコング西野のFacebookの投稿に出てきたから。喝入れとしてたまに読んでる。

"国を脱する命懸けの行動を、映像に残せるの?
ほんとに?"

馬鹿な私は、それをたしかめる気持ちだけで、週末休みになったら観に行こうと決めた。

西野さん、教えてくれてありがとう。

本当にドキュメンタリーなのだ

まず、
命懸けなことも、それを映像に残していることも、本当らしい。

「再現映像は使っていない」というテロップが始めの頃に流れたのだが、もしその案内がなければ、見終わった今でさえも、全ての映像はわかりやすくデフォルメした再現映像だと思い込んでいたかもしれない。

そのくらい、信じがたい映像しかなかった。

映像のメインは脱北を試みる2組の密着で、1組目は、一家5人(おばあちゃん、お父さん、お母さん、娘2人)、2組目はすでに脱北して韓国で暮らす母の元へ行く息子。

脱北の流れはこうだ。

人が、何の道具も使わずに歩いて川を渡る。
ジャングルの中を夜中に普段着で10時間以上かけて歩いて山を越える。
隣国にいるのに、スマホがあるこの時代なのに、消息がわからなくなる。
ブローカーと呼ばれる脱出の手助けする人たちがいる。
ブローカーは容赦なくお金をとる。
途中の隠れ家でシャワーの水圧に驚く。
中国、ベトラム、ラオスでは脱北者ということを知られたら命はない(北朝鮮に送還されて拷問)が、タイでは脱北を成功させるために脱北者と伝える。

脱北のルート、協力先、費用、服装、心情が、
こんなにも明らかにされていた。

これが脱北なのだ。

脱北する一家も、ブローカーも、脱北支援の牧師さんも、同行している撮影隊も、明日生きていけるか誰もわからない。でも何もしなくても明日生きていけるかわからない。

ドキュメンタリーだった。
ただただ本当の映像を見せられた。
何を感じたか、何を伝えたいか、とかではない。
本当の映像であることこそがドキュメンタリーなのだと思った。

無知の無知

脱北の詳細を明らかにすると同時に、
北朝鮮の内部はどのような生活なのかについても、脱北者の経験談と、隠しカメラによる映像で教えてくれる。

車なんて走っていない、整備されていない路上で、食べ物を売るために地べたに座り込んで並んでいる大人。

学校のマスゲームの練習の映像では、恐ろしいほどに全員が身体能力が高いのがわかる。
全員、逆立ちからくるっと回る側転みたいなやつ(日本で育った私は技の名前すらわからん)ができるし、立った状態から腰を逸らしてそのままブリッジできていた。

トイレは日本のはるか昔に使われていたボットン便所。

麺を茹でたお湯はお茶として飲む。

そしてそんな生活をする国が、世界で一番豊かで、心優しい国だと教え込ませるための、処罰。

金正恩が、世界で一番素晴らしい人だという洗脳のための、外部の遮断。

知らないというのは怖いことだ。
知らないこととはつまり洗脳なのだ。
脱北した一家が、もっと若い時にここに来れたら、と言っていた。
私もそう思う。もっと早く脱北していれば、選択肢があったのだと思う。

なぜ全国民が脱北しないの?とさえ思っていた。
さすがに何かしらのきっかけで気づくものでしょ、もっと世界は広いって。
どんなに遮断したって情報って止められるものじゃないだろうし、とか思ってた。

でも北朝鮮にいる人は、情報が遮断されているとは思っていないのかもしれない。国が攻撃から守ってくれているのだと思っているのかもしれない。北朝鮮が世界で一番広いと思っているのかもしれない。

自分が受けた教育を、自分が送っていた生活を、洗脳だとは、どの国の誰でも思いたくないものだ。

私だって知らなかったはずだ。
北朝鮮の人がどういう生活をしているのか。
その生活を見た時に、日本に生まれてよかったと思った。
でも、日本に生まれてよかったと思っているのは、(北朝鮮と仲の悪い)アメリカと手を組む日本の教育を受けてきているからかもしれない。

金正恩は、外部を遮断しないと自分の権力を維持できないことを知っている。
つまり、世界の広さを知っているということ。
北朝鮮の人は無知でも、その北朝鮮の人が崇めている人は無知ではない。

かわいそう、と思っていいのか

脱北してきて、つらそうに北朝鮮の現実を語る人がたくさん出てきて、
自然に、かわいそうと思ってしまった。

世界がこんなに豊かなのに、自分たちだけ原始的な生活をしなきゃいけないなんて。

でも、脱北者たちはそんな北朝鮮のことを、
「ふるさと」
と言うのだ。

はたから見たら正気の沙汰ではない。

自分たちを処罰する気満々だった国も、「ふるさと」。
脱北を始めると、見つかった途端撃ち殺される可能性がある。
自分たちを殺そうとする国を、「ふるさと」。

北朝鮮に生まれてかわいそう。

北朝鮮の人を、同じ人間として心配する気持ちで湧き出るこの気持ちは、相手のふるさとを侮辱することになるのかもしれない。

同じ人間として、北朝鮮の人に思いを寄せる気持ちが、「かわいそう」ではなくてもっとなにか適切なものがないものか。

浮かれられない大都会池袋

見終わって映画館を背にしたら
すぐにレストラン街があった。

幸せそうな家族、カップル、流行りのおしゃれをする女の子達。

キラキラしすぎてる。
日本、眩しいよ…
食べ物の匂い充満さすぎて気持ち悪い…


滅多に来ない ザ・大都会 な駅だから、
やっぱりおしゃれもしてきたし、
見終わったらせっかくだしお買い物でもしよう、と思っていたのに。

この景色を知らない人たちが世の中にいる。
そしてこんなに豊かな環境にいるのに、私は北朝鮮のことを知らなかった。
映画を命懸けで撮って、脱北の現実を教えてくれようとした人がいるというのに、私は呑気にお買い物?

買い物してもしなくても、
おしゃれしてもしなくても、
結局満たされない。
北朝鮮の人が脱北して手に入れたかった
豊かさではない気がするから。

豊かさを追求する会社員の生業

でも、日本においては豊かさとは、最低限度の生活ではない。

そんな段階ではないのはとうの昔からみんなわかっていることで、そんな段階の話をしていては稼ぎになる商売が成り立たないから、どんな会社も、
「汚い」を「汚くない」に、ではなく、
「綺麗」を「より綺麗」に、「心地良い」を「より心地良い」に、「豊か」を「より豊か」に、
クオリティを求めた価値を生み出している。

その流れに乗らないと、
我々はもちろん給料はもらえないし、
それどころか幸せも感じられない。

自分が幸せを感じるためには、「より豊か」でなきゃいけない。周りのみんなも一緒。
だから会社員はみんな豊かさを追求しなきゃいけないのだ。

難しいなといつも思う。
特に、こういう豊かじゃない現実を目の当たりにしてしまった時。
私たちはもう十分豊かなのに、まだ求め続ける。

最近モノを生み出す部署に自ら望んで異動になった。
豊かさを生み出さないともらえないと存在価値がない部署だ。
難しい。
けど、幸せだ。すでに幸せであることの証明であるかのような仕事。

会社員はそう思って働くしかないのだ。

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