「階級社会と直結していた 〈タイタニック〉号遭難の生存率」
YACHTING
98年1月号
身に吹きつける風もめっきり冷たくなって、もう海には出ないかなと思っていると、「マリン10大ニュース」のアンケートご協力のお願いというFAXが、ヤマハ発動機のPR誌「マリンインフォメーション」編集部から届きました。年末の恒例企画なんだとか。もう、そんな時期なのか。
さて、そのアンケート用紙、参考用として1月から11月までの主なトピックスを、65項目ほど並べてくれているので、なかなか便利。これを利用して、このコラムの総点検してみました。
1月はヴォンデグローブ・レースやナホトカ号の重油流出事故など5項目が載っている。斜め読みでは、ヴォンデグローブについて、事故が相次いだせいで救助にてんてこ舞いのオーストラリアが文句をつけたとかつけないとかという話題に触れた覚えがあるので、ポイント1をゲット。という要領で探すと、ほかにも、SAIL大阪97、アメリカスカップが壊された話、南波誠落水、プレジャーボートの不法係留問題、広島のハウスボート騒ぎ、海保の海上レジャー事故リポート…と、斜め読みと名乗っているわりには、なかなかマトモにマリンレジャーの話題を取り上げているではないか。筆者としてもびっくりです。
やっぱり、今回もネタはニュースから拾うしかないかなと考えているときに届いたのは、南極越冬隊に初の女性隊員が東京晴海から出発という話題。で、今回の斜め読みは、「ただ、この人だけ」なんてキーワードを軸に展開しようかな、と。なんだか、テレビの週末ニュースショーみたいですね。
南極観測隊は、越冬でなければ女性隊員も珍しくはなくなり、「男の世界」というイメージも変わってきたそうですが、どうしても例のビニール人形を思い浮かべてしまう。だから、女性隊員の場合は…おっと。
が、やっぱり南極はがさつな男の世界のままのようなんです。去年の11月から4カ月間、南極観測隊に同行して、生活ぶりを観察してきた産経新聞のS記者によると、《まず驚いたのはギャルのポスターが多いこと。もちろん、ヌード写真が大勢を占めるのは言うまでもない》のは分かるとして、《もうひとつ目を見張るのは、女装グッズの充実ぶり。看護婦の白衣にセーラー服、チャイナドレスにファミレスの制服さえ…》
これら衣装を身につけたメンメン(♂♂)が出没し、昭和基地内にあるバー「オレンジ・キッズ」では、時おり、思いっきりアヤしい雰囲気になると聞きました。冒険者もしくは道楽者の女性に違いない坂野井、東野隊員には、心よりご無事をお祈りします。
ところで、南極とくれば、氷です。そして、氷がらみで時事性があるといえば、もう、これしかありませんなどといって、映画『タイタニック』(J・キャメロン監督)の話題に振るような強引な手口は、斜め読みでは氷山の一角です。
まだ映画は見ていないんだけれど、主演のレオナルド・ディカプリオが来日して渋谷が大騒ぎになったとウチの芸能担当が言ってたのを聞いて、ま、海関係の話題には違いあるまい、これを今回のネタにするべえと、タイ
タニック関係の記事を調べていると、奇妙な発見!
去年の2月に、エバ・ハートさんという女性が91歳で亡くなったとロンドン発の外電。英紙タイムズを引用したようで、《タイムズによると、ハートさんは生存者七百五十人のうち最後の生き残りだった》とある。
ところが、今年の1月にも、タイタニック生存者で最高齢だったイーディス・ヘーズマンさんが英サウサンプトンの老人ホームで死去、百歳だったという外電記事があるのを見つけたのです。
「へえ、タイタニック号って全滅じゃなかったの。生き残った人もいたんだ」と思っている人も多いようです。乗客乗員2200人余のうち700人が救助されています。でも、今からもう85年も昔のことですから、「最後の一人」がだれだか分からなくなっているのかもしれない。もう2、3人はいそうな気もしますね?
気になる本も見つけました。未読のまま紹介するのも気がひけるのですが、『タイタニックは沈められた』(集英社)。いわゆる陰謀を検証していく類のノンフィクションらしいので、いずれ、時間を見つけて読んでみましょう。
ところで、先の芸能担当から借りた映画『タイタニック』のパンフレットには、【完全保存版】と銘打った「タイタニック号事故に関するデータ」ブックが付録についていました。それには、タイタニック号の運行会社ホワイト・スター・ラインのオーナーであるJ・P・モルガンは、悲劇の処女航海で最高級スイートに乗船するはずだったのに、《出港24時間前に急遽キャンセルされたのも後年、話題になった》とある。う~ん、陰謀っぽいなあ。ついでに、ホワイト・スター・ラインの社長はJ・B・イズメイも乗船していて遭難したが、2200分の700の生存組に入っているので、やっぱり論議を呼んだそうで
す。 すでに超有名ではあるけれど、事故の14年も前にタイタニック号の遭難が”予言”されていたという不思議も、知らない人のために簡単に紹介しておきます。1898年にアメリカの作家モーガン・ロバートソンが発表し
た小説『ヒューティリティー(無益)』は、タイタンと名付けられた豪華客船が、現実と同じ4月の夜に北大西洋を処女航海中、氷山に衝突、沈没するというあらすじ。小説では、乗客乗員三千人のうち助かったのは13人だけ。タイタニック号とはまったく関係ないのに、こういう本が出版されているあたりが、この事故はやっぱり「偉大な事故」になるべくしてなったと思わせます。ヘンな表現ですけど。 すっかり、タイタニック話になってしまいました。まだ、続けます。 キーワードの「ただ、この人だけ」に話を戻すと、タイタニックに乗り合わせた日本人客は、鉄道院の参事の細野正文ただ一人でした。元YMOのミュージシャン細野晴臣の祖父で、留学中のロシアから帰国途中に遭難したらしい。でも、彼は、救命ボートで脱出し生き延びました。
さらに、「ただ一人」を。
タイタニック号では子供の死亡者の総数が50人いたうち、一等客室からはただ一人でした。残る49人はすべて三等だったそうです。この三等に乗っていた乗客はほとんどが、新世界アメリカを夢見る移民だったはずです。だけれど、夢がかなう間際で、彼らの75%は大西洋に藻屑と沈んでしまった。女性と子供は救助を優先されたので47%が生き残ったけれど、男性だけでみると生存率は14%でした(二等男子がこれより低く10%)。
一方、一等船客はというと、女性と子供は94%が救助されました。男性は30%にとどまったけれど合計では60%とさすが一等、高いサバイバル率を残しています。
映画パンフレットには、この生存率の差となって表れた一等と三等の料金比較という興味深いデータも載っているので、引きます。
まず、一等料金は870ポンド=4350ドルです。現在の貨幣価値に換算すると、約575万円にもなるらしい。たった一週間の旅程なんですがね。
では、三等でがまんすると、いかほどで済むかというと、これがもう段違いの、2~4万円。まあ、当時はそれこそ、J・P・モルガンとかグッゲンハイム(乗客で死亡)なんて名前の人物がリアルタイムで登場する剥き出しの資本主義の時代ですから、金がすべてには違いないんですが、なるほどねえ、生存率といい時代背景がよく分かります。
キャメロン監督もその辺の抗議をこめているらしく、《タイタニック号の短い命と衝撃的な最期は(中略)生まれながらの階級を認めてきた体制に一石を投じた。タイタニック
号の生存率は階級社会と直結していた》とパンフの中で怒っています。で、史実の合間に挟まれる創作部分も、主人公のディカプリオくんが三等客の画家で、一等客のヒロイン、ケイト・ウィンスレットと《身分違いと禁じられた恋だったが…》というわけなんですが。
身分ていやあキャメロン監督、もともと、海洋学者を志して、自分でもスキューバをやるような海好きらしい。『アビス』以来の海モノに製作費240億円もかけられるのだから、ご本人が一番いい身分に違いない。
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