免疫チェックポイント阻害薬治療中の動静脈血栓症の頻度とリスク因子

Incidence, risk factors and outcomes of venous and arterial thromboembolism in immune checkpoint inhibitor therapy



(Blood. 2020 Oct 16;blood.2020007878. )

Bloodに2020年10月16日に発表された論文で、ウィーン医科大学からの報告です。免疫チェックポイント阻害薬を使用した際の、動静脈血栓症の頻度やリスク因子、アウトカムを単施設の大規模コホートで解析しました。

背景:

免疫チェックポイント阻害薬を使用したランダム化比較試験ではVTEとATEの頻度は報告されていない。しかし小規模の後方視解析では6-18%のVTEが発生するとの報告や、致死的な塞栓イベントが報告されている。

目的:

免疫チェックポイント阻害薬を使用した症例のVTE/ATEの発症頻度、リスク因子、転機を明らかにする。

方法:

Vienna Genaral Hospitalでの単施設後方視的解析。2015年~2018年の間にNivolumab, Pembrolizumab, Ipilimumab, Atezolizumab, Avelumabを少なくとも1コース投与された18歳以上の患者が対象。VTE/ATE発症の観察期間は免疫チェックポイント阻害薬開始初日から、別の治療が開始されるまでand/or最終サイクルから90日後まで。

主要評価項目:

VTE/ATEの累積発症率。
VTEの定義:急性の症候性または偶発的なDVT、PE、脾静脈塞栓。
ATEの定義:ACS、急性末梢血管閉塞、虚血性発作。

結果:

n=672が解析対象となった。疾患はメラノーマ30.4%、非小細胞肺がん24.1%が最多で、ステージIVの方が86%であった。血液悪性疾患は含まれていなかった。

追跡期間中央値8.5ヵ月間に、47例のVTEと9例のATEが観察された。VTEとATEの累積発生率は12.9%[95%信頼区間(CI):8.2~18.5]、1.8%[95%CI:0.7~3.6]であった。

VTEの発生は死亡率の増加と関連していた。(THR:3.09[95%CI:2.07~4.60])。ATEは関連がなかった。

VTEの既往歴はVTEの発生を予測した(SHR:3.69[2.00~6.81])。10/47例(21/%)で発症したがその半数は抗凝固療法をもともと行っていたが発症している。その他、VTEと病期、ECOG performance-status、Charlson-Comorbidity-Index、またはKhorana-scoreとの関連は認めなかった。

VTEの発生率は腫瘍の種類およびチェックポイント阻害薬のサブグループ間で同等であった。ATEは症例が少なく解析できなかった。

図1

文献より引用。VTE発症からのランドマーク解析

結論:

免疫チェックポイント阻害剤治療を受けているがん患者は、血栓塞栓症、特にVTEのリスクが高い。さらに、VTEの発生は死亡リスクの増加と関連していた。

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一言

免疫チェックポイント阻害薬使用中はやはりVTEの頻度が高いようです。興味深いことに、VTEを発症すると死亡リスクが増加しますが、内訳をみますと、PEのように致死的なものはわずか2例でした。本論文ではVTEの発症機序や死亡リスクが上昇する原因までは踏み込めていませんが、VTE発症がTreatment failureやホメオスタシス系の乱れを反映しているかもしれないと議論されていました。

また、もともと担癌患者では血栓リスクが高いため、免疫チェックポイント阻害薬の登場により観察期間が長くなったため発症頻度が上昇しているという側面もありそうです。

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