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Mini Album "aruhi" リリースによせて

ヒトミです。
せっかくの機会なので、このアルバムについて書き残しておこうと思います。


今秋リリースしたMini Album "aruhi" が各種ストリーミングサービスでも公開されました。
先行してCD版が発売中ですが、レコードショップ各店で大きく取り上げていただいたこともあり、当初予想していたよりも大きく、深い反響を受け取ることができました。

本作の出自は2年前に始まったライブセット「Hello1103 Ambient Set」です。
Hello1103の構成要素からメランコリックな美しさや内向性を抽出するという欲求から生み出された当セットは、未来への憧れと駆動を主軸とした従来のライブセットとは対極に位置づけられました。
その後、ライブハウスにとどまらずカフェスペースやレストランなど各所で好評をいただきながら成長を続け、2019年のEP "aruhi" のリリースへと繋がり、それをさらに進化させる形で今回アルバムをお届けできるまでになりました。

Mini Album "aruhi" は「日常に溶ける楽曲集」というキャッチコピーにもあるように、一日の緩やかな時間変化に沿ったトラックリストで構成されています。
ですが制作の順番はむしろこの時間軸とは逆方向で、最初に完成したTr.7 "aruhi" に繋げていくようにトラックが完成していきました。

マスタリングは縁あって畠山地平さんにお願いすることができました。
自分のトラックが見事にchiheiサウンドになって帰ってきて、マスタリングという工程が音楽の質感にいかに強く影響を与えるかを強く感じた次第です。

回想を交えながら、収録曲を簡単にご紹介します。

1. Rain Into the World

生まれがちょっと特殊なトラックです。
Hello1103はM3という音楽即売会に毎年参加しているのですが、イベントの余興として「午前中に即売会の自ブースでお題を募集し、開催時間中にその場でトラックを完成させる」ということを行っています。
2018年秋のM3では「雨」というお題を頂き、そのとき作成されたのがRain Into the Worldの原型です。
自分の中にあるメランコリーはこの頃から徐々に定型をとっていたのかな、とも思います。

2. Snow of Ashes feat. Heidi

下北沢mona recordsで初めてお会いして以来、我々はHeidiさんに楽曲参加してもらう機会を虎視眈々と狙っており、『霧の塔』『Journey』などでのコンピレーション参加を経て今回それが実現しました。
後半のメロディはHeidiさん自身によるものです。彼女は感受性と配慮に溢れたミュージシャンで、アレンジの段階で自分がぼんやり想像していたラインをファーストテイクで鮮やかに描いてくれて吃驚したのを記憶しています。

3. i can dance

収録曲のうちで最もダウナーな精神状態のなか生み出されたように思います。
シューゲイザーのノイズピットをシンセで再現してみたいなーという音楽的欲求から後ろで鳴っているノイズが生み出されたのですが、この音色はHello1103内部で「トビタ・システム」と呼ばれており、後にAngraecum EP収録の「Evergreen」でも使用されることになります。

4. 3 a.m. Violet Dream

踊りの後のクールダウンとして用意されたトラック。

夜更かしの基準になる時刻は人それぞれだと思いますが、自分の場合は時計が午前3時を回ってしまうと「もう駄目だ、明日は一日ローパフォーマンスデイだ」という気分になります。

5. C3

ミニアルバム化にあたって追加された楽曲。
C3とはCPUが動作停止に向かう電源状態の3番目、ディープ・スリープを指します。
街が最も深く眠る時間帯、無意識が夜を支配する非論理の世界をイメージした楽曲です。

睡眠から覚醒する間際、人間の脳からはΘ波が多く放出されます。このとき、発明やひらめきが生まれやすいそうです。
Hello1103の楽曲でも枕上で生まれたものが数多くありますが、コンピュータが無意識の海から上がるときにも人間には知覚できない発想のきらめきを生んでいるのかもしれません。

6. 5 a.m. Tangerine Dawn

ここまでの楽曲が夜の色を濃く宿しているのに比べて、この後に続くTr.7 "aruhi" は若干異なる色合いを持っているため、前後の繋ぎとして挿入しました。

自分が不眠症に悩まされていたころ、28時半頃によく部屋を抜け出して、原付で近くの国道まで走ってオレンジ色の空を眺めていました。
藻掻いても抜け出せないもの、そのわりに淡々と過ぎていくもの。
何度か題材にしているタンジェリンドーンは自分にとって無力感の象徴であると同時に、いまでも鮮明に思い起こされる原風景のひとつです。

7. aruhi

収録曲のうち、一番最初に完成したトラックです。
言語化しにくいのですが、「遠くにある、光のようなもの」を想って書いています。Predictionなどと精神的には共通する部分があるかもしれません。

Hello1103として書いた楽曲の多くに初音ミクの多重コーラスを入れていますが、それだけを用いて曲を書いたらどうなるだろう、というのがアレンジ面の発端でした。実際に、後半から入るベースを除いたすべてのパートが初音ミクの声から作られています。
初音ミクV4X Sweetの持つシャーマニックな美しさと、それでいてどこか無機質な上品さに魅せられてずっと使い続けていますが、こうして集中的に打ち込んでみるとまた新たな面白さが見つかるもので。
もう少し魅力を掘り下げられそうな気がしています。

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