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多羅菩薩について


多羅菩薩とは

多羅菩薩とは、その名の通り、菩薩の一尊です。
特に密教で有名な菩薩で、ターラー、ドルマ、救度仏母とも呼ばれ、日本では曼荼羅などで目にする事ができます。
その容姿は、肌の色が緑もしくは白で、手に青い睡蓮(ウトパラ)を持つ美しい女性です。
それぞれ緑ターラー・白ターラーと呼ばれ、
独立して崇拝される他、揃って観音菩薩の左右で脇侍となっている事も多く、
特に密教系の宗派に詳しい方はその姿を見た事があるのではないでしょうか。

“目に見える形”として愛される菩薩

とはいえ、
日本国内では有名とはいいがたい多羅菩薩ですが、
仏教発祥の地であるインドや、チベット、ネパール等の国々では高い人気を誇る女神です。
14世紀にインドを訪れた
チベットの翻訳官チュージェペルは、その著作にて、ボードガヤの著名な多羅菩薩像を紹介しており、
これは霊験あらたかな像として、
貴賤を問わず多くの人々に参拝されていました。
現代に至るまでに作られた仏像や仏画の多さは釈迦や観音に
次ぐとも言われ、その信仰を物語ります。

多羅菩薩のはじまり

意外な事に、多羅菩薩の起源はその人気とは裏腹にはっきりとはしていません。
元々は土着の女神が仏教に取り入れられたという説が有力ですが、明確に元となった女神の存在が挙げられているわけではないのです。
像が数多く作られ人々の信仰を集めたその一方、
経典等の文献における多羅菩薩は登場回数が多くはなく、
そういった点も起源が曖昧な理由でしょう。
多羅菩薩は観音菩薩の瞳に関連付けられる事が多く、
「観音菩薩の目から放たれた光から現れた」という話や
「『私がどんなに修行をしても、衆生は苦しみから逃れる事が出来ない』と観音菩薩が流した涙から蓮華が咲き、そこから生まれた」といった説明が成されます。
これらは「ターラー」という名前に「瞳」や「星」といった意味がある事からも後付けされたのではないかと言われています。
また、観音菩薩の名前はサンスクリット語では
「アヴァローキテシュヴァラ(Avalokiteśvara)」といい、
この「アヴァローキテ」は 「観察された」といった意味です。「観る」ことにはその両目が必要ですから、
ここからも二尊の関係が連想されてきたのでしょう。

色とりどりの多羅菩薩

一般的に多羅菩薩、ターラーと呼ばれて連想されるのは特に緑の肌の菩薩です。
ですが、実は多羅菩薩と呼ばれている女神は他にも多数存在し、その肌の色や持物は様々で、名称やその効験もそれぞれ違っています。
ここで全てをご紹介するのは難しいため、一番メジャーである緑多羅菩薩・白多羅菩薩を中心に取り上げようと思います。
               

緑多羅菩薩

なんといってもその肌の色が特徴的な緑多羅菩薩。
仏教でも緑の肌というのは珍しく、見る者に強いインパクトを与えます。
緑はサンスクリット語で「ハリタ(harita)」と言いますが、
ここから鬼子母神のサンスクリット名「ハーリーティ」への連想を指摘する説があります。
ハーリーティは元々、西アジアで信仰されていた
富と豊穣の女神でした。
ガンダーラ地方にも数多くその彫刻が現存しており、
その姿は日本語名から連想する恐ろしい姿ではなく、
植物を持つ慈悲深い女神です。
緑多羅菩薩も慈悲の存在として語られ、
チベットでは商売繁盛や蓄財などの御利益があると考えられています。
もしもハーリーティの名が植物の色「緑」に由来するのだとすれば、その姿と色は仏母としての多羅菩薩にも通じ、
あの特徴的な容姿に繋がったとしても不思議ではありません。

白多羅菩薩

「白」は、密教で息災の儀礼と結びつく特別な色です。
この白い肌を持つのが「死を欺くターラー」と呼ばれる白多羅菩薩。
緑多羅菩薩が富の効験なら、こちらの白多羅菩薩は延命・長寿・無病息災を願う菩薩です。
死という災いを避け、不老長寿を求めるという願いを白多羅菩薩は受け止めてくれる存在なのです。
チベットでは同じく息災や延命に功徳があるとされる無量寿仏や仏頂尊勝と共に「長寿三尊」の一尊として描かれます。
一見すると緑多羅菩薩との違いはその肌の色だけかと思いきや、なんと白多羅菩薩はその額、両手、両足それぞれに目がついており、全身で計7つの瞳をもっています。
これらの目でこの世全てを見て、慈悲で救うという姿なのです。

青、黄、赤の多羅菩薩

他にもターラーとして数えられる女神に、
青色ターラーのレルチクマ(一髻羅刹女)
黄色ターラーのトニェルマ(毘倶胝菩薩)
赤色ターラー(リクジェーマ=クルクッラー)
の三尊もいます。
レルチクマやトニェルマは本来はターラーとは別の存在でしたが、どちらも観音菩薩の化身と考えられ、
やがてターラーと呼ばれるようになったのです。



長い歴史のなか、ターラーは仏教を信じる人々に身近な存在として受け入れられてきました。
その人気は今も健在で、歴史的な作品だけではなく、
現代の仏教芸術でもその美しい姿を沢山見る事ができます。
気になる方は是非、本物の多羅菩薩の姿をご覧になってくださいね。




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