選挙のデザイン①政治活動や選挙活動においての「色」の話
統一地方選お疲れさまでした。よくキャスで話している内容をざっくりまとめておきます。この記事はもしかすると後日内容に追記をするかもしれません。関心がおありの方は後日また覗いてみてください。昔取った杵柄で、色彩検定一級保持者がそれなりに詳しく解説を試みたいと考えています。
さて、我らが未来社会プロジェクト代表の三春充希氏がこのようなツイートをしておりました。ツイートブロックされていて見られない人は、ブラウザから、Twitterアカウントをログアウトした状態で開いてください。非常に有益だと思います。
■ 我々の認識している世界はもしかしたら全部思い込みなのかもしれないという哲学的な話
色覚特性はむかしは「色弱」とか「色盲」と言われていた見え方の特性の1つです。
実は、光はそのままでは色がないというか、全ての色を含んでいるとでもいいましょうか。電磁波なんでね。紫外線とか、赤外線とかさすがにこのnoteをお読みの方で聞いたことがない人はいないでしょう。
我々は外部から入ってくる光(それ自体が「刺激」であります)を、眼球というレンズを通して我々の体内に取り込むわけですが、その際に光が含んでいる特定の波長によって興奮する(電気信号を出す)細胞があります。
その特定の細胞が興奮すると脳の方で「あ、こいつは何色やな」と特定の色として結び付けて認識します。そうした処理を行って初めて、我々は赤を赤と、青を青と認識しています。
なんだかとっても哲学的ですよね。この世界は色や形が溢れているように見えて、実は我々が勝手に脳内でそれを何色、何の形、と定義し受け止めているわけです。これが後で個人差の話にも結び付きます。奥深くてワタシは視細胞の話が大好き。
■ 色や形、明暗に関わる細胞の話をざっくりと
光の特定の波長に反応し脳に対して「あんた、この波長をこの色名と結びつけて-」と電気信号を出す細胞を「視細胞」というのですが、その視細胞には「色や形を見分ける錐体細胞」と「明暗を見分ける桿体(杆体とも書く)細胞」とがあります。
そして、この錐体細胞は三種類に分かれています。S錐体、M錐体、L錐体です。このSMLはそれぞれの波長の長さを表していて、「概ね」S錐体は青、M錐体は緑、L錐体は赤を担当しています。赤は最も長い波長だから、太陽が隠れる間際に空は鮮やかな夕焼けに「なっていると感じる」のだそうです。
ちなみになぜ「概ね」なのかというと、下記の画像に色味を示しましたが、L錐体が最も反応するのはRED:255、GREEN:0、BLUE:0のカラーコード#FF0000【鮮やかな赤色】ではなく、オレンジ寄りの赤なのです。同様にS錐体は紫みに寄った青、M錐体は黄緑に寄った緑のゾーンが最も反応する波長となります。この辺りは虹の色を思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。
ところでお気づきでしょうか、信号の青はまさにこの「青緑色」であることに。これは1970年代以降に切り替わっていったのだそうです。信号だけではありません。交通標識、電車の路線図や、ピクトグラムなど、実はバリアフリーデザイン、ユニバーサルデザインは最近の流行ではなく、先人が積み重ねた歴史あるものなんですね。
なお、夕方の時間は事故が多い時間帯でもあります。色は明るいところでしか識別できないですよね。真っ暗闇の中では青も黒も緑もみんな真っ黒に見えることでしょう。夕方になると風景の明度が下がり色や形の判別がしにくくなります。ところでこの話もまた色覚特性に大いに関係します。実は色覚特性をお持ちの方は、その分、明暗の判別精度が高いらしいのです。
個人のblogさんなのですが、こちらの方がその特技を詳しく説明していらっしゃいます。記事内には既にページが削除されてしまったらしい?公益社団法人日本眼科医会の記事も一部紹介されています。貴重なのでぜひ読んでみてください。
■ 色覚特性の分類と、色の見え方は個人差が激しいという話
かつて色盲とか色弱とか言われていた色覚特性は、上記で説明した色や形を見分ける錐体細胞のうち、
・3種類の色細胞のうちどれか1種類がない場合を色盲
・3種類の色細胞のうちどれかが少ない場合を色弱
と定義し呼び分けていました。もっと細かい分類でいえばこうなります(下記画像)。※画像はタップまたはマウスクリックで拡大できます。
しかし、上記のような分類はわかりやすさと引き換えに多少の誤解を与える可能性があります。なぜなら正常3色覚と言われる見え方のAさんとBさんとであっても、実際の色の見え方には違いがあるのです。詳しくは→こちら
また、これは大変面白い話なのですが、SMLの各錐体の量は均等ではなく、かなりのばらつきがあり、随分いい加減にできているようです。
※「網膜の赤、緑、青錐体の分布はでたらめ」中央学院大学
その量にも個人差があったとしたら?と考えると、興味深いですよね。我々はもしかしたら同じ世界に住んでいるという幻想を抱いているだけで、あなたの世界とワタシの世界は実は全く違った風景なのかもしれません。
■サムネイル画像は色覚特性を持つ人にはこう見えている
今回のサムネイルはかなり適当に「リンゴっぽいもの」を作ってみました。上手にできなくて申し訳ないのですが、これには理由があります。
実はこのサムネイルは「色覚特性がある人には見えにくい色」を表現しています。実際に見てもらいましょう。
このアプリは色覚特性を持つ人に画像がどのように見えているかを疑似的に体験させてくれる「色のシミュレータ」というアプリです。Android版、iPhone版とあります。ぜひ選挙応援でバナーを作られる方はダウンロードしてください。無料です。
PCをお使いの方は残念ながらPC版はないみたいですが、Adobe Illustratorをお持ちなら色の校正機能がついていますのでそれを使う手があります。
画面が縦長のため、分割して掲示します。まずは画像一枚目左は一般型色覚の方の見え方です。上の表では正常3色覚と呼ばれるいわゆる「普通の見え」となります。
まぁそもそもここまで読んでくれた人なら思うでしょう。「普通ってなんやねん」と。便宜上この表記でお許しくださいませ。ちなみに「異常」という単語についても議論がなされておりまして、この辺りの表現は今後も変わるかもしれません。今は過渡期なんですね。
とある地方議員の選挙で選対事務局長をお務めになられた方がこの1型2色覚の色覚特性でした。氏いわく「自分には赤という色はそれほど強烈に感じられない」と蛍光ペンは青をお使いで、自分が使わないので差し上げたところすごく喜んでくれました。コンビニでパッと買い足せないもんね。
なお、「腐っているかどうかが判別しにくいからだと思う」と述べていらっしゃいましたが、氏はあまり肉が好きではないみたいでした。昔、鮮度の見分けがつかずにお腹壊すことがよくあったんだって。
次に、2型2色覚(いわゆる緑色盲)の方の見え方と、3型2色覚(いわゆる青色盲)の方の見え方です。3型2色覚の方はとっても少ないのですが、なんとワタシのキャスのリスナーさんにいらっしゃいます。
その方曰く「駅のライトがLEDに切り替わったが、自分は青い波長が読み取れないので、見えない部分がぽかっと空いたようになっていて線路に落ちるかもと危険に感じる」とのことでした。
実は全く感覚的にはわからないのですが、調べたところ、国土交通省の調査報告に「電車車両側面の LED 表示は、車両が動き始めるとちらついてよく見えない。昔のLED ではない表示の方がよかった。(L:(LV)先天性・型不明)」という意見があることがわかりました。
上記ページの「2.色覚障害者の実態の把握」の中にあります。
今回詳しく触れませんが、選挙カーの上に乗せる「行灯」と呼ばれる看板で囲った四角い箱。あれのライトは恐らく現在ほぼほぼLEDだと思いますが、実は夜間走行において、3型2色覚の方にはせっかくの候補者の名前や顔が鮮明に見えていない可能性があります。(上記報告書によれば、「揺れ」はそれ自体、視認性を下げるため、電車の走行と見えの不便さについての証言も確認できます)
でも実は、この4枚の画像はどれも「文字だけははっきり見える」と思いませんか。サムネイルの画像が一番見やすいと思いますのでお手数ですが遡って実際に見てみてください。
文字色と背景色との色の差、明るさの差を強調するために、
①ドロップシャドウで陰を強くつけています
②ドロップシャドウと文字の間には細い黒の線で境界を明確にしています
それにより装飾にあたるリンゴっぽいものの色や形はよくわからなくても、どういう中身のことを書いてあるかはわかるようになっている。と思います。
■ 後天的な色の見え方の変化もある
ここまでは概ね先天的な色の見えの話なのですが、実は年齢によっても、また疾患によっても色の見え方は変化します。
若い人に見える色の世界は全体的に青っぽく、高齢になるにつれて水晶体(上記眼球画像のレンズ部分です)が黄変することによって、彼らの世界は黄色みを帯びて見えるようになります。
よく知られた話では白内障や緑内障が、また何らかの事情で視神経が損傷したり、光刺激を色に変換する大脳が何らかの理由で障害された場合によっても色の見え方は変わります。
皆さんちょっと想像してみましょう。黄砂の様子を写した動画を見たことありますか。風景全体が黄色く濁り、モノとモノとの境目が見えにくく、遠くまで物が見通せない。そんな状況が程度の差はあれ日常に発生しているとしたら、なんだかとっても生活しにくそうですよね。
■ 色の見えに特性がある人は有権者のうち何割を占めるのか
さて、そろそろ政治・選挙活動に直結する話をしましょう。とはいえもう少し難しい話にお付き合いください。
これは全く科学的事実ですが、色覚特性には性差があります。女性より男性の方が多いのです。日本の場合でいえば、男性の5%(20人に 1人)、女性の0.2%(500人に 1人)が色覚特性を持つといわれています。
X染色体に色覚を左右する遺伝子があるためです。女性の場合はX染色体の片方に変異があっても、もう片方のX染色体に変異がなければ発現しないのに対して、男性の場合はXYの組み合わせなので、一つのX染色体に変異があれば発現してしまいます。
なぜ「日本の場合でいえば」と括弧つきで語るかについては、人種差について調査した報告はあまり多くないそうなのですが、2014年4月3日配信のOphthalmology誌オンライン版に掲載された米国眼科学会の発表によれば、
とあり、他の研究機関の調査でも人種によって比率の差異が確認できるので、どうやら、人種によってなんらかの発現の違いはありそうだ。とは言えそうなのです。そのため色覚特性をお持ちの方の割合については「日本の場合は」と表記する必要があります。
ついでに余談なのですが、光彩の色素が薄い人が多い欧米系の方の場合、光彩の色素が濃いアジア系やアフリカ系よりも光刺激を沢山受け止めちゃうらしく、我々が丁度良いと思う明るさでも眩しいと感じる方が多いようです。人によって見え方が全然違うっていうのは明暗についても言えそうですね。
さて、ここからの話はようやく選挙や政治の話です。先に「日本の場合でいえば、男性の5%(20人に 1人)、女性の0.2%(500人に 1人)が色覚特性を持つ」と述べました。
2022年の総人口は1億2494万7千人です。2021年の第49回衆議院議員総選挙の選挙当日の有権者数は、男性が5089万1,954人、女性が5442万8569人でした。棄権した人もいるのですが、まぁざっくりこの数字で計算してみましょう。
理論上の数字であることに注意が必要ではありますが、男性の約254万4598人、女性の10万8857人が何らかの色覚特性を有していることになります。
※計算あってるかな。ちょっと自信ないので間違っていたら教えてください
【追記】やっぱり間違ってました。女性の色覚特性の人数の桁が違ってたw修正済です。訂正くださった理系男子よ!ありがとう!
これって、かなり、デカくないですか?
合計で約265万3455人です(理論値、計算合ってる?)
ちなみに、40人学級(男女同数で20名ずつ)のクラスの場合、うち1人は色覚特性があるという計算になります。(あくまで理論値ですが。で、計算は合ってるのか?)
■ 見やすいデザインは政治を志すすべての人間や政党の義務だ
地方自治体の取り組みについてはまた別の記事でお伝えしますが、選挙活動や政治活動において配布されるビラ、ポスターなどのあらゆる印刷物や、WEBサイト、画像に至るまで、「万人に適切に情報が伝わるように配慮すること」はパブリックな役割としてもはや不可避だとワタシは考えています。
ここまで読み進めてくださった方にはもはや言うまでもないことなのかもしれませんが、本当に恐縮なのですが、政治を専門に扱うネットメディアでさえ、そのあたりが全く配慮されていないことが散見されます。
毎度思うんですが、「アレ」、カッコいいのかもしれないけど(ごめんなさい。実はカッコいいとも思っていません)他者排除的で良いデザインとは思えません。
仮にターゲットが明確であったとしても視認性を犠牲にすべきではないとも強く思います。なぜなら色覚特性に限っても、若年者であろうとその特性を持っていれば、あのデザインは「読んで内容を理解するのにすごくストレスがかかる」デザインだからです。
これをこそ「社会による障害」と言わずなんと呼ぶのか。
これは選挙に限らないことですが、どんな障がいがあろうとも、どんな特性があろうとも、どんな人種であろうとも、どんな年齢であろうとも、
つまり対象がどんな属性であろうとも、伝わるべきパブリックな情報は正確に伝える努力をする。それが我々(と自称する事さえ恐縮ですが)デザイナーの使命だと考えています。
ま、偉そうにいってもがっつり稼げてるわけでもないので、説得力はありませんがね。でもね。結構ワタシの作ったチラシは評判いいんですよ。
へたくそでもいいじゃないですか。ダサくてもいいじゃないですか。統一地方選なんかだと予算が出せないから、議員個人や事務のお手伝いしてくださる方が自前で作っていらっしゃったりもします。それでもいいじゃないですか。「なんだかうまく言えないけど読みやすい気がする」と言ってもらえるようにほんのちょっと工夫するだけでいいのです。そこから始めましょうよ。というのがこの記事を書いた理由です。
それだけではすぐに1票にはならないのかもしれません。多くの人はあなたの細やかな配慮を言語化したり意識できないかもしれません。ですが、あなたに朗報があります。良いデザインはそれだけで読んでもらいやすくなります。これはこれまでの先人たちの積み重ねたデザインの歴史が証明しているので安心してください。
■ 関連学会と国の動きについてちょこっと
日本眼科学会は2005年度に眼科用語集の改訂を行いました。それ以後、「色盲」「色弱」という言葉は使われなくなり、文科省もまた徐々にではありますがデジタル教材等における色覚特性への配慮を盛り込んだ指導の手引きを出していたりします。
また、ワタシ自身が当事者でもある発達障がいの分野では、LD(学習障害)の特に読字障害(読むことの困難)、書字表出障害(書くことの困難)における配慮の1つとして、UDフォント(株式会社モリサワによるユニバーサルデザインに対応したフォント)がWindows標準フォントに含まれ、教育現場でも推奨されるなど、少しずつではありますが「見え方の多様性」に配慮をしようという動きが広がりつつあります。
デザイナーの多くは普通に見える人なので「UDフォントそんなに効果あるの?」という意見を先輩諸氏から伺うことがあるのですが、自分自身は学童のセンセーをやっていたときの発達障がい児童の宿題を見た時の経験から、フォントの影響力は「ぱねぇな」と感じています。いずれそのことも記事にしたいです。
最後にちょっと色味の表現が極端かなとは思いますが、ハフィントンポストのこの記事リンクを貼っておきましょう。掲載されたのは2016年です。名称の過渡期にある現在、タイトルでは「色覚異常」となっていますが、そこはこれから修正されることに期待して、一緒に観てみましょう。
あなたにとっての当たり前の世界は、彼らにとっては違った世界だということが疑似的に体験できるかと思います。
「誰一人取り残さない〇〇」はとてもいいコピーだったと思います。ワタシはより良い世界を望んでいます。紛争の絶えない愚かな人間社会ではありますが、1㎜ずつ良い世界になっていったらいいなという願いを込めて。
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