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施設見学

少年院を出る時,少年たちは原則として…保護者のもとへ帰る。

未成年である以上,それは当然といえば当然のこと。その是非はともかくとして,まずは親元へ帰ることが検討される。

少年院は,刑務所と違って帰る場所がなければ出られない。

標準教育期間を過ぎても,帰る場所が決まっていなければ出院できないのだ。

そして

「帰る場所」は少年自身の一存では決められない。

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非行少年が少年院に在院している間…

彼らの地元では,保護司や保護観察官が「帰る場所」の候補を調査している。

保護者の生活状況や引き受け意思の確認が行われ,場合によっては収入や間取りなども含めて,帰住(少年院を出て,帰ること)の可否を判断する。

大抵の場合,保護者はわが子の帰りを待っているし,そのまま保護者のもとに帰ることになるが…

時に,保護者のもとへの帰住が不許可となる場合がある。

非行を繰り返したわが子に愛想を尽かして引き受けを拒否している
引き受ける気はあるが,保護者が家を空けている場合が多く,保護者による十分な指導監督が期待できない
引き受ける気はあるが,保護者の心身の状態から一緒に生活することが不適切と判断される
保護者自身が,反社会勢力に属している

男女ともに,保護者が虐待を行っていたケースは少なくない上,女子の場合,保護者が性的虐待の加害者であるケースもある。

理由は様々だが…

いずれにしろ,そこに帰すことが本人の更生にとって著しくリスクが高いと判断されると…保護者のもとへは帰らないことになる。

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保護者のもとへ帰らない少年の行き先は,基本的には2つだ。

①更生保護施設等
②住み込み就労

いずれにしてもすぐに決まることは稀で,調整には数ヶ月を要することが多い。

そのために,少年院には「支援部門」などと呼ばれる環境調整の担当部署があり,彼らが様々なネットワークを駆使して帰住先を探すことになる。

そして

引き受け意思のある施設や就労先が見つかると面接や施設見学等を経て,仮退院を迎える。

僕も何度か,彼らの帰る施設や就労先の見学に同行した。

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初めての住処
初めてのスタッフ
大抵は,初めての土地…

長らく塀の中で過ごした挙げ句,縁もゆかりもない土地に行く心境はいかばかりか…

少しでも安心感を与え,相互理解を深めた上で出院を迎えるため…

施設等に帰る場合,可能な限り出院前に見学に行くようにしている。制服のようなものを身に着け,職員が同行して,先方に挨拶に行く。

僕が行く時は大抵,先方の地域の特色などを話題にして,指導・助言を織り交ぜながら雑談しつつ道中を過ごす。

手錠はかけていない。

1人の少年のために2名以上の職員が同行し,先方と日程を合わせて訪問。出院後に住む予定の部屋や基本的な過ごし方などの説明を受け,簡単に面談をしてから少年院に戻る。

施設などに帰るということは,「地元を離れる」「先方スタッフが生活状況を把握できる」という点で再犯リスクの低下に役立つことも多いが…

大抵の場合…

同じ施設や職場には「塀の中出身」の者もおり,またスマートフォンで地元の不良仲間等ともすぐにつながれるため…

施設等に帰ることが必ずしも再犯防止にプラスになるとは限らない。

そもそも…

「保護者のもとに帰れなかった子」の胸中には,ただでさえ不安な状況に,拍車をかける緊張が渦巻いている。

施設見学は…

緊張や不安と,受け入れてくれる人が見つかったことの喜びが交錯する,複雑な仕事だ。

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そうした保護者以外の場所への帰住の場合,出院時に着るものすら揃っていないケースもある。

保護者のもとへ帰るならば,保護者が衣類を揃えてくるため問題はないが,それがない者を金もなく,衣類もないまま出院させるわけにはいかない。

従って…

施設見学と前後して,職員が衣類の購入を行う場合もある。施設の予算から支出し,職員が買い出しに行く。

自分では着ることのない,自分の子どものものでもない衣類を,ユニクロやGU,しまむらやワークマンで最低限買い揃えて支給する。

担任の帰住先が決まらず,本来ならば出院しているはずの少年と向き合うのは,こちらとしても少し心苦しいものがある。

何しろ成績不良で出院が延びたのと違い,彼らには何の落ち度もないのだ。彼を取り巻く大人側の事情によって,本来外にいるはずの時期を塀の中で過ごす…

その時期を,くさらず,向上心を維持したまま過ごさせることは,時に残酷な仕事なのかもしれないと思ったりもする。

出院直前の施設見学は,我々にとってもほんのりと喜びのある業務だ。

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。