見せたくないものを見せ、見たくないものを見る。

 朝、いつものように駅へと向かう。でも今日はなんだか頭痛がするな。階段やめてエスカレーターに乗ろうか。

 やっぱり立ったままでいいのは体に楽だ。しかしこのエスカレーターやけに長い気がする。既にホームに着いていたっておかしくないはずなのに。あれれ、僕の前にこんな人いたっけ。あっ、あっなんでみんなそんなに丈が短いスカートを履いているんだ。しかもヒラヒラした感じのばかり。やばい、振り向いてきそうな予感が。とりあえず下を向いてそのつもりがないことを示さなくては。

 な、っなんで水溜りが。ここエスカレーターでしょ、お、おかしいよ。しかも綺麗に反射していて、これじゃ見えてしまうじゃないか。い、急いでバレないうちに上を向かなくては。

 ど、どうしてそういう建築になっているんだ?一体いつこの駅はホームの床をガラス張りにしたのか。それに真上の人みんなミニスカートの女性ばかりでどうかしている。上も下もダメなら、ひ、っ左なら安全だろう。

 あぁここもダメか。下りエスカレーターが隣にある。やけに角度が急だし、乗ってる人みんなミニスカートの女性だし。風が通ってヒラヒラしているし、こんなんじゃ左右すら見てられない。だって右は鏡面でしっかり映っちゃっているし。残された道ってなんだ?あぁ目を閉じればいいのか。危険だけど。この尋常でないエスカレーターの上でできることはそれしかない。何か訴えられてからでは遅いのだから。

 そうして僕は目を瞑りひたすらにエスカレーターの終着を待つことにした。耳元に何事かを囁く女性たちの声が伝わってくる。もう十分怪しまれているのかもしれない。でもどこにも逃げ場がなくて辛い。目を開けたらどう足掻いたってあそこが不可避的に見えてしまうわけで、それを周りに察知されたら公然猥褻の類で鉄道警察行きかもしれないし、でも結局このままだと転倒する未来が待ってるんだけど。

 今日はなんてついてないんだ。そもそもミニスカートなんて履いてこないでほしい。あなた好みの男性にアピールするためか何か知らないけどとにかく目のやり場に困る。男性は否応無しにその刺激を受け取ってしまう。男の性なんだ。本当に、女性だけだと差別だからもう一切人間は公で肌を隠さなくてはならないと法律を国会は提出してくれ。そうすれば男女ともに興奮することなんてなくなるじゃないか。盗撮だってなくなるし、痴漢は0にはならないだろうけどかなり減るんじゃないか。

 あぁ男に生まれてきたことを恨む。もし僕が女なら前を向いていたって何も疚しいことはなかったのだろうに。女と男、その存在の原初からイコールでない以上逆らえない運命なのだろうか。人間が年がら年中発情期なのがいけないのか。

 それにしてもエスカレーターはまだ続いているのか。一旦目を開けて確認しなくては不安になってくる。あれっ、手が何かで固定された。ぇっ、挙動不審な人がいるって。誰だろう。


 あぁ、僕か。でも一体何ができただろうか?

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