視点の変化

済州の家のテラスからは雲がよく見える。
雲の形が変わっていったり、
空の色が段々になっているのが好きでじっと眺めているのだが、
ある日、あれ?なんか違うなと、思ったことがあった。
なんだろうと、しばし考え、
そうか、雲がすごく近くて大きく見えるのだ、と分かった。

対馬では高い山にはあまり登らなかったし、
家も港にあったし、行くのはせいぜい丘ぐらいだったので、
雲は好きだけど遠くにあるもの、という感覚になっていたようだ。
海から見る空もいいけれど、山のおうちから見る雲は、近くに見えるせいか、ディテールがよく分かる。

ああ、曇ってこうやって重なって陰影になってるのねとか、
日の光ってこんなふうに当たるのねとか。こっちの色とあっちの色が微妙に違うのねとか。

距離が近いせいか、じっと見ていると、雲がぐぐっと体に入ってくるような感覚になって、お近づきになれた、気がした。お近づきにはなれたのだけど、まだお友達、という感じではない。

海から山へ、都市から自然へ、場所が変わっただけで、見えるものは全然違う。そういう言葉を山ほど聞いてきて、なんとなく分かった気になっていたけど、ああ、そういうことか、と雲のおかげで腑に落ちた。
家に戻るまでの山道も、同じ山道でも場所によって、海や町の見え方が全く違う。移動しながら、車を降りて、どこから見る眺めが好きか考える。

もうちょっと風車が見えたらいいなとか、右端に丘が見えたらいいなとか、
オレンジ屋根の家が視界に入ったほうがいいなとか、丘が見えたらいいなとか、思ったりする。

気に入った眺めの場所を見つけたら、何度もそこへ通う。
たぶん人生も同じで、どこが好きか、どんな風景を見たいか、というのは、
ただ選んでそこへ行くと決めて足を運ぶだけなのだ。

でも選ぶには、あれこれ見てみないといけない。
実際に足を運んでみないと、そこからの風景がどんなだかは分からない。
期待外れでがっかりすることも、期待以上の美しさにうっとりすることもある。想像以上の絶景が見られる場合もある。

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