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『シン・仮面ライダー』における「多摩ナンバー」の意義

はじめに

 2023年3月22日にグランドシネマサンシャイン池袋のIMAXレーザーGT版にて『シン・仮面ライダー』(原作:石ノ森章太郎、監督:庵野秀明、2023年)を観てきました。

2023年3月22日(水)グランドシネマサンシャイン池袋にて撮影

『仮面ライダー』シリーズについて私はほとんど無知でしたが、かなり楽しめました。当然ながら庵野秀明監督作品として観に行くわけですが、ここのシーンがどうのこうのというのはネタバレになるのである程度控えたいと思います。
 一つ言えるのは、庵野作品で自分が感動するのは、先人の作品への敬意が作品のいたるところに垣間見えるからだということを改めて思い知らされました。先人の作品への敬意は一つの作品を超えたコンテクストを産み、相互に参照されることによって深みを増す、ということです。

『シン・仮面ライダー』冒頭に登場する「多摩ナンバー」について

 先人の作品への敬意ということで、今回私が書こうと思ったのは、『シン・仮面ライダー』に登場する「多摩ナンバー」についてです。作品の冒頭から「多摩ナンバー」が繰り返し登場するのは、視聴者にわざとそれを見せつけているかのようです。

『シン・仮面ライダー』に登場するのは「多摩ナンバー」と「品川ナンバー」です。筆者の見る限りで、本作の前半(OP〜Aパート)と後半(Bパート以降)は「多摩ナンバー」パートと「品川ナンバー」パートに分けられると思います。
 前半(OP〜Aパート)が「多摩ナンバー」から始まるのは何故でしょうか?伏線はすでにありました。庵野秀明監督は2020年の時点で「東映生田スタジオ跡」にお参りをしていました。

実は私は現住所に引っ越してくる前に、この東映生田スタジオ跡のすぐ近く(細山)に住んでいました。最寄駅は小田急線読売ランド前駅(小田急線生田駅のとなり)でした。私が当時住んでいたマンション(狭い1R)に帰る途中、電柱に書かれた「多摩美」という文字を毎日のように見てきました。

東映生田スタジオ跡を見る

 庵野秀明監督がお参りをしたという「東映生田スタジオ跡」が、なんと自分の住んでいるマンションから歩いていけるほどの距離にあるということを知り、私もふらっと立ち寄ってみました(2021年4月7日)。その時の写真をInstagramにあげています。

東映生田スタジオ跡は駐車場になっていて、跡形もなくなっていました。少し上に上がっていくと公園がありました。長閑な場所で良いところです。

東映生田スタジオの当時の住所

 では、『シン・仮面ライダー』に登場する「多摩ナンバー」と東映生田スタジオが一体何の関係があるのでしょうか?
 東映生田スタジオは、昭和の『仮面ライダー』シリーズのために立ち上げられた撮影所であり、東映生田スタジオ跡の現住所は「川崎市麻生区多摩美」となっていますが、東映生田スタジオがまだあった1970年代当時の住所は「川崎市多摩区細山」といいました。
 わかる人にはピンとくるでしょうが、『シン・仮面ライダー』の冒頭に観客に見せつけるように登場する「多摩ナンバー」は、庵野秀明監督による昭和の『仮面ライダー』シリーズへの敬意が込められているわけです。

おわりに

 「多摩ナンバー」の解釈は、もちろんこれが正しいというものではありません。あくまで私が作品から感じ取ったものです。ですが、少なくともここまで細部に先人の作品への敬意が込められており、観客である我々がそれを正確に受け止めることができるならば、『シン・仮面ライダー』をより深いコンテクストの中で理解し、感動することができるでしょう。
 以前私は『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン』における〈シン〉は「震災」の〈シン〉を意味していると述べたことがありました(「『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』における11.03秒の意味——ニアサードインパクト後の世界を生きる人々の物語」)。ですが、今回『シン・仮面ライダー』というタイトルに込められた〈シン〉の意味は、「温故知新」(古典や伝統、先人の学問など、昔の事柄の研究を通して、新しい意味や価値を再発見する。孔子『論語』より)の〈シン〉であるように思います。

緑川イチロー(森山未來)のオウム真理教のような洗脳/脱洗脳や、ハチオーグ(西野七瀬)の深作欣二のような殺陣シーンについて語り始めるとネタバレになりますので自重します。以上。


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