異常祭報告書(ver.7)

「異常だ!異常だ!わっしょい!わっしょい!」

 異常人類はそう叫ぶ。異常人類の異常人類のための異常人類による異常都市で行われる異常祭の異常音頭が響き渡る。

「正常だ!正常だ!わっしょい!わっしょい!」

 異常都市で正常に生活することを志す会、通称正常派が今年の異常祭にも現れた。異常人類の中では異常と呼んでも問題がない彼らの人口比率は異常都市で1%に満たない。

 異常都市、それはユートピアである。異常都市では、あらゆる生活が保障されているため、労働という概念は必要ない。異常都市では、科学が発達しすぎたため、研究という概念は必要ない。異常都市では、高度なマッチングシステムが存在するために、恋愛という概念は必要ない。異常都市では、想像した通りの身体を所有することができるために、美醜という概念は必要ない。正常都市では必要とされる概念の大半が異常都市では必要ない。異常都市にいるために必要な唯一の条件、それは異常者であるということだ。異常人類であるか異常人類でないかということを判断する異常審査会が入都市センターには設置されている。

「おい、お前、異常人類じゃねえよな。さっさと異常都市から出て行けよ。お前は必要ねえんだよ、クソが」

 異常人類による異常人類への異常な罵倒が聞こえる。

「あ?俺は異常人類なんだが」

 罵倒された異常人類は罵倒した異常人類を包丁でぶっ刺し殺す。さっきまで罵倒していた異常者の亡骸の目玉には包丁がぶっ刺さっている。眼球を構成していたコラーゲンが眼から垂れている。

「お前、テンプレート異常行動しかできないクソだな。死ねよ」

 罵倒していた異常人類を亡き者にした罵倒された異常人類もまたハンマーによってぶっ殴られ殺される。しかし、そのテンプレート異常行動を批判した異常人類もまたテンプレート異常行動しかできないという理由で異常人類によってぶっ殺される。

「異常だ!異常だ!わっしょい!わっしょい!」

 今日は異常都市で年にn回行われる異常祭が行われる日だ。異常祭が行われることが提案された当初、異常祭は年に1回のみ行われる予定であったが、年に1回のみ行われるということ自体が異常ではないという理由で提案者はぶっ殺された。異常者が我こそまさに異常であるということをただ叫び続ける異常祭。

「正常だ!正常だ!わっしょい!わっしょい!」

 正常を叫び続ける者も異常都市にいるということは異常人類であると認定されている。ただの正常を自称する異常人類である。

「異常バームクーヘン、いかがですか〜」

 異常人類の異常人類による異常人類のための異常バームクーヘンを異常人類である異常売り子が売っている。異常バームクーヘンが異常なバームクーヘンでないと判断された次の瞬間におそらくぶっ殺される運命である異常売り子の声が遠くから聞こえる。

「異常源氏物語、売ってます!!!!!」

 異常人類の異常人類による異常人類のための異常源氏物語を販売促進している異常作者が書いたと思われる異常広告のフォントは目にうるさい。

「販売促進するのって、別に異常じゃなくね」

 誰かがそう呟いた。その呟きから10分経った頃には異常祭で販売促進を行っていた者は全員ぶっ殺された。異常売り子だった異常人類の手から零れ落ちた異常バームクーヘンは異常人類に踏み潰され、ラピスラズリのような色のぐちゃぐちゃで気持ち悪い地面にへばりついたゲロのような何かになった。異常源氏物語の異常さを確かめようとする者はこれから現れるのだろうか。

「異常祭に参加することって、別に異常じゃなくね」

 誰かがそう呟いた。そして、異常都市にいる異常人類は絶滅した。異常都市にいる異常人類が絶滅するのはこれで何回目になるだろう。数えることが面倒になるほど絶滅しているとされている、と異常都市研究者は語る。

「異常だ!異常だ!わっしょい!わっしょい!」

「異常だ!異常だ!わっしょい!わっしょい!」

過去の異常祭の異常音頭もこの音頭であったとされている、と異常都市研究者は語る。異常都市にいる異常人類は皆この異常音頭ではない異常音頭を発することによって異常でないと見なされてしまう可能性を恐れているのかもしれない。

「異常だ!異常だ!わっしょい!わっしょい!」


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