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咀嚼免疫訓練トレーニングによる、 唾液の産出で誘導される多量体構造の分泌型 IgA抗体



咀嚼免疫訓練トレーニングによる、
唾液の産出で誘導される多量体構造の分泌型 IgA抗体



免疫グロブリンIgA クラスは、血清中に単量体および二量体の形態で存在し、総血清 Ig の約 15% を占めている。二量体である分泌型 IgA は、粘膜分泌物 (唾液など) 中に豊富に存在するため、一部の局所感染に対する一次防御機構としてて機能している。分泌型 IgA の主要な機能は、抗原を破壊することではなく、循環系への異物の侵入を防ぐことなのである。

血清中の IgA は主に単量体だが、唾液、涙、初乳、粘液、汗および胃液などの分泌物中では IgA は連結ペプチドによって結合した二量体として存在する。大部分の IgA は分泌型で存在している。これは、上皮表面に付着し透過することにより侵入する病原体を防ぐ特性があるためと考えられており、IgA は非常に弱い補体活性化抗体である。そのため、補体系を介した細菌細胞溶解を誘発しない。しかしながら、分泌型 IgA はリゾチーム とともに作用し、細菌細胞壁中の糖鎖を加水分解することによって、免疫系による感染除去を可能にする。IgA は主に上皮細胞表面に見られ、中和抗体として作用する。

血中でのIgA抗体は、単量体として低レベルでしか存在していない。IgA抗体の特異性は、粘膜表面で最も活性が高く、二量体として存在し、粘膜表面の一次防御を担っている。粘膜内層では、その他のすべての種類の抗体を合わせたよりも多くのIgAが産生されている。
IgAの主な機能は、中和抗体としての作用である。唾液、涙、母乳には、IgAが高レベルで認められている。


多量体化した抗体の方が単量体、 二量体抗体よりも中和能が高い。

 四量体IgAは、分子外側部に可動性 に富む大きな8つの「腕」を持ち、「腕」 の領域で抗原を捉える。持続的な咀嚼トレーニングおいて、単量体低レベルのIgA抗体を、抗原特異的な分泌型IgA抗体を誘導する。誘導された分泌型IgA抗体は、単量体、二量体、 三量体、四量体、四量体より大きな多量体として存在する。
三量体、四量体分泌型IgA抗体は分子外周に存在する複数の抗 原認識部位で抗原を捕捉することができる。
単量体、二量体抗体に比べ多量体化した抗体はウイルス中和能 が高く、交叉中和能も高い。
咀嚼による持続的免疫訓練トレーニングは、誘導され る多量体IgA抗体は感染防御に寄与する。


IgAは、病原菌やウイルスの侵入を防御するという重要な役割を担っている。IgAは、体内では2番目に多い免疫グロブリンで、唾液、消化管、膣など、全身の粘膜に存在している。IgAは、粘膜の表面で病原体やウイルスと結合し、病原体やウイルスが持っている毒素を無効化して感染しないように阻止する働きがある。また、一般的免疫グロブリンには、特定の細菌やウイルスにのみ反応する「特異性」があるため、基本的に多種類の感染症の予防はできない。しかしIgAは、特定の細菌やウイルスだけに反応するのではなく、多くの種類の細菌や変異ウイルスに反応するという特徴があるため、さまざまな感染症の予防ができる。

腸管の壁には、異物が侵入した時に異物の排除を指令する役割があるリンパ組織が存在する。異物を発見するとその情報がマクロファージや樹状細胞、ヘルパーT細胞やB細胞に伝わり、B細胞はIgA抗体を作り出し、異物を撃退する。

消化管などの粘膜面では、病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって防御している。一方、特に感染のない状態でも、恒常的に大量のIgAが作られている。IgAは、無数に存在する常在菌から粘膜を守り、常在菌のバランスを維持することに役立っている。恒常的なIgAの産生では、免疫反応の司令塔である樹状細胞が重要な役割を担っていると考えられている。
腸内常在菌からの刺激が起点となり、Ⅰ型インターフェロン(IFN)が産生されて、その刺激を受けた樹状細胞が「粘膜型」に変化していく。

「粘膜型」の樹状細胞では、IgAの産生を促すAPRILやBAFFというたんぱく質が多く発現しており、IgAの産生を効率よく誘導することを明らかになっている。


ウイルスや細菌などの病原体は、呼吸器や消化管などの粘膜を介して感染する。粘膜面では、病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって、病原体である抗原と特異的に結合し、防御応答が誘導される。IgAは、病原体が粘膜上皮細胞に付着・定着することを阻止したり、病原体から生産される毒素や酵素を中和することによって、感染からの防御に貢献している。

IgAの産生経路は、T細胞が必要なものと不必要なものの2種類に分けられる。特定の病原体に対して産生されるIgAはT細胞が必要な経路を介して産生されるのに対して、恒常的に産生されているIgAはT細胞を必要としない経路を介しても産生される。樹状細胞が重要な役割を担っていると考えられている。腸管粘膜においては、B細胞がパイエル板や腸間膜リンパ節などといった腸管粘膜リンパ組織で分化した後、最終的に腸管粘膜固有層に移行してIgAを産生する形質細胞に分化することが分かっている。また、樹状細胞は腸管粘膜リンパ組織に局在している。

しかし、どのようにして恒常的にIgAの産生が誘導されるのか、樹状細胞がどのような役割を果たしているか。リンパ組織を取り囲む支持組織のストローマ細胞ではⅠ型IFNが恒常的に発現しており、腸管粘膜リンパ組織において、ストローマ細胞からのⅠ型IFNの産生には腸内常在菌からの恒常的な刺激が必要不可欠である。その刺激でB細胞が分化した結果、IgAが恒常的に産生されている。

近年では、腸内微生物のゲノム解析研究が進み、さまざまな疾患と腸内細菌叢の乱れとの関連性や、疾患の発症に直接的に関わる病原常在腸内細菌が次々と発見されており、粘膜ワクチンも多数開発されている。しかしながら、ワクチン接種により全身の粘膜で抗原特異的な免疫応答を自在に誘導できる方法はなく、疾患制御のために消化や恒常性の維持に関わる有益菌を殺さずに病原常在腸内細菌だけを特異的に排除することができない。 だが、咀嚼という免疫訓練トレーニングの伝統的制御法により、あらゆる粘膜で非常に高濃度の抗原特異的な免疫グロブリンA(IgA)を誘導する方法を開発、致死的な細菌感染の発症そのものの抑制が可能になる。
一口200回、一食につき1000回、一日3000回の咀嚼により、非常に高濃度の抗原特異的な免疫グロブリンA(IgA)を誘導できる。

消化管をはじめとした粘膜面は、IgAが多量に存在して粘膜免疫防御機構の一端を担っているが、あらゆる粘膜面に対して自在に抗原特異的IgAを誘導する技術は現在では存在しない。

三重大の野阪哲哉教授(ウイルス学)らは、鼻などの粘膜にIgAを増やそうと、新型コロナの突起の設計図となる遺伝物質を無害な別のウイルスに組み込んだ鼻噴霧型のワクチンを開発中だ。

野阪教授は「鼻噴霧は注射に比べ負担が小さい。1年以内の臨床試験開始を目指したい」と話す。鼻噴霧型ワクチンは、東京大発の新興企業「ハナバックス」(東京都)も研究しており、塩野義製薬が製品化を目指している。海外では英オックスフォード大や中国・香港大などが臨床試験を始めている。

一方、福島県立医大の高木基樹教授(創薬科学)らは、IgA自体を鼻に噴霧する感染予防薬を開発している。感染経験者の血液からIgAを抽出し、その遺伝情報からIgAを大量生産することに成功した。予防薬開発に向けた前段階として7月には、IgAをフィルターに含ませたマスクを試作した。今後、市販を予定しているという。

国立感染症研究所の長谷川秀樹・インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター長は「感染が拡大すればウイルスが変異する可能性もそれだけ増える。感染の予防は未知の変異ウイルスの出現を防ぐ上でも重要だ」と話している。


実用化が期待されている粘膜ワクチンアジュバントは、病原体に対するIgAをいかに効率よく粘膜面で産生できるかが実用化の鍵となる。


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