新米班長いとう君 第六話 「夜明け」

あらすじ

再度彼女からカイゼンの講義を受け、 カイゼンの本質と具体的な事例を学びます。

#6  「夜明け」


齊藤さん
ごめんねー、遅くなって。

いとう
いや、大丈夫だよ、今ここに有るものと後はこれとこれを頼んだよ、飲み物は?

齊藤さん
じゃ、ビールで。

と言うことで、飲みながら、早速、昨日の話の続きを切り出します。

いとう
昨日のさあ、続きで、改善の...

齊藤さん
あー、そっちか。デートしようって言うから、なんか期待してきたのにね。

いとう
ごめん、そうだよね、デートって言ったよね。
でも映画の話も音楽の話も一緒で、ちょっと仕事っぽいけどこういう話もいいかな。と言うよりね。
昨日、目が輝いていたよ。
まぶしいぐらいにね!

齊藤さん
あはは、そう?

と言いながら、また彼女の目が輝き出しました。

齊藤さん
実はね、もっと具体的な話をしてあげたかったけど、
そのままだとお客さんの仕事内容をばらしてしまうのね。
それだと仕事的に問題があってね。
実は今日上司にどこまで機密扱いなんですか?
って聞いたのよ。
そしたら...「改善の話なんで俺も事例で良く話すので大丈夫だよ。」って言われたのよ。
だから、いい話を教えてあげられそう。

いとう
ほんとに?いいね!助かります。

って言いながら、
ビールを呑んで、彼女が仕事が楽しくて仕方が無いなんて話を聞きながら、なかなか本題に入らないけど、まあいいかなと。なんか凄く嬉しそうだし、誘って良かったと。
2杯目のビールを呑んだ後に彼女が
なに飲もうかなあ?
って、

齊藤さん
ビールじゃなくて、日本酒呑む?

と聞かれ、

いとう
そうだね。辛口がいいね。もちろん純米酒で、じゃあこれ注文するね。

と、日本酒がくるのを待って、早速お猪口に注いで、かるくお猪口を合わせて乾杯し、一息ついて彼女がついに話し始めてくれました。

齊藤さん
作業時間を正確に見積ことは困難って言ってたよね。

本題に入ったんだね。と思いながら、頷きます。

齊藤さん
計画のための作業時間は、目標時間だから正確では無くても、この時間で出来るはずと言う時間が必要なの。
現場の人からは、実時間では無くてリソースを考慮した時間をリードタイムとして教えてもらうんでしょ?
それは工程管理の基本から外れてしまっているのよね。
工程計画とか、工程設計とか言うんだけど...プロジェクト管理の基本で『パート計算』って聞いたことある?

いとう
『PERT計算』でしょ? PERT、CPMとか、パートチャート書いて、最早とか最遅を計算するんだよね

齊藤さん
なーんだ、知ってるじゃん! そこで計算に使用する処理時間というか作業時間はどうするの?

いとう
どうするのって、その時間が分からないから、なんか平均したり、余裕時間入れたりとかするんでしょ

齊藤さん
まあそうだけど、楽観値とか悲観値とか言うんだけどね。私のお客さんは、大手の自動車メーカーで、金型を作っているのね。金型って知ってる?

いとう
知ってるよ。バルブの鋳物も金型使ってるしね。

齊藤さん
良かった、じゃあその説明は入らないよね。
そのお客さんは改善を上手にやる会社なのね。
だから、計算に使用する処理時間は楽観値というか、この時間でできるはずと言う、非常に厳しい時間を設定するのね。
もちろん、その時間通りには作業ができないんだけど。

いとう
えっ、じゃあだめじゃん!

齊藤さん
まあまあ...

齊藤さん
まず最初に言っておくけど、納期を守るという話はちょっと置いておいてね。
そのお客さんは、
たとえば、3時間の作業を4時間かけて作業したら、
目標が3時間だったので、実績の4時間との差の1時間を宝の山と呼ぶのよ。
その1時間は、改善してゼロに近づけるのが現場の仕事というか、改善活動なんだって。
だから、遅れるのは許容してるのよ。なんか凄いでしょ!

いとう
えー、そんなのうちの会社じゃ、怒られるよ。全く参考にならないんだけど。

齊藤さん
うふふ...

って笑っているけど、なんか良く分からないけど、馬鹿にされてるんじゃないよね。
多分俺のこと好きだし。

齊藤さん
はい、話はまだまだ続くのよ!
ちょっともう少し食べようか。

いとう
あー、そうだね。

と言ってメニューを見ながら、

齊藤さん
これ、いとう君好きでしょ!
私もちょっとは食べられるようになったのよ。

と言いながら、彼女が、牡蠣のオイル漬けと白子とお酒を注文しました。

齊藤さん
さて

と言って、また彼女の話が始まります。

齊藤さん
今までの話は、工程計画とか工程設計の話で、スケジュールじゃないのよ。
どこの会社でも、工程計画とスケジュールを一緒に混同して、同時に処理しようとするから、難しくなるのね。
工程計画は、ベストタイム、つまり厳しい目標時間を設定して、
リソース負荷の競合を解消するのがスケジューリングでしょ。
いわゆる山積み、山崩しね。
だから、工程計画とか工程設計するときには、リソースのことは忘れて欲しいの。

いとう
うん。その工程計画とスケジュールの話は納得できるけど、でもそれじゃ、納期を守れないよね。

齊藤さん
今度は、スケジュールの話を聞いてね。
スケジュールとかスケジューリングとか、山崩しとか言われているけど、私のお客さんはね、順序計画って言うのね。

いとう
へー、順序計画って?

齊藤さん
順序計画は、各リソースに対する作業順番を決めると言う事よ。だから順序計画!

いとう
あー、なるほど...

齊藤さん
オーダーとか製番とか呼ばれる受注した作業は、それぞれ工程計画で決めた作業手順が有るよね?
そして、納期があるでしょ。
たとえば工場の中に、一つのオーダーだけが流れていたら、そのオーダーだけやればいいので、かなりの納期余裕が生まれるよね?

いとう
そうだね。実際には複数のオーダーが流れているので、作業者や設備が空いていないから、そんなに納期余裕無いけど。

齊藤さん
そうなんだけどね。
厳しい目標時間を設定して、工程計画をするでしょ。
そして、複数オーダーをまとめてスケジュールするでしょ。
前詰スケジュール、正確にはフォワードスケジュールって言うんだけどね。
納期を遵守して、前詰めでスケジュールすることにより、ある程度の納期余裕を確保した状態で、作業指示、つまり順序計画を現場に提示するの。
この状態で納期余裕が無い場合には、納期調整が必要ね。
大抵は、過去の経験則的なリードタイムを考慮して受注しているので、大抵は納期に収まるんだけどね。
ここまで分かった?

いとう
分かるよ

齊藤さん
順序計画っていう言い方は、もっと大事な側面があって、計画した作業順番を守って欲しいのね。

いとう
なんで?

齊藤さん
昔の価値観で、
設備稼働率とか意識すると、
設備が空いていると、
計画と違う作業を実施したりね。
計画通りにやって貰わないと、
後工程も影響するし、
なにが正常で、
なにが異常かも分からなくなるでしょ。
その結果で計画の差し替え、いわゆる再計画も発生するしね。

いとう
だいたい分かった、でもリソースとか設備や人の負荷が

齊藤さん
そうね。負荷が平準化されているかと言えば、されていないかもしれないのね。
納期遵守でスケジュールしているので、どこかのリソースは、過負荷が解消されていないかもしれないんだけどね。
でもそれでいいのよ。
特定のリソースが200%以上とかの負荷状態にあるときは問題なので、残業、休出、休日出勤とかで対応するかもしれないけど、
でもグループや係などで集計した負荷をみたら、そんなに大きな過負荷では無いかもしれないし。
そもそも昨日、作業時間を正確に見積もる事は困難。
しかし経験的な工数算出は可能だが、作り直しが発生したり、設計変更が発生する。
と言うことは、事前に予測することは困難でしょ!
って説明したよね。
それにね。1時間、2時間の過負荷を解消するために残業設定したりするシミュレーションなんて、
やるだけムダでしょ!
そもそも作業時間が正確じゃ無いのにね。
負荷は見えることが大事なのよ!
負荷が見えれば、対処出来るでしょ!
シミュレーションで何でもかんでもやれるわけ無いのにね。

いとう
そうだね。

齊藤さん
だから、遅れたり新たな作業が発生した場合には、タイムリーに計画を組み直すしかないでしょ。

いとう
なんか分かったような、

齊藤さん
そう、そのためには進捗状態をタイムリーに把握できないといけないの。

いとう
うんうん、その進捗状態って言うのが問題で、設計変更や仕様変更や補正作業が発生した時は、工場の中を駆けずりまわって、
どこまで進んだいるかをメモして、また計画を作り直しているんだけどね。
しかも徹夜で!

齊藤さん
進捗状態の把握は難しいのよ。
理想は、現場作業者や班長とかが、
タイムリーに進捗状態を把握してくれる仕組みが必要になるよね。
私のお客さんはね、作業現場の要所要所に端末が有って、そこに作業者が開始や終了、進捗率や残工数を入力してるの。

いとう
えー、たいへんだよね。

齊藤さん
そうよ。
でも量産工場の様に、センサーで数量をカウントしたり出来ないし。
設定した作業時間が正確ではないでしょ。
10時間の予定作業を5時間作業したからと言って、50%の進捗じゃないよね。

いとう
そうだね。

齊藤さん
でしょ。
でも実際に作業している人は、後どのくらいで終わるか解るよね。
だから残りの時間を入れてもらうの。
残工数って言うんだけどね。
その日に作業を開始して、その日に終了するときは、いらないけどね。
明日も作業の続きがあるときは、残工数とか進捗率とかで補正してもらうの。

いとう
そんなの入力してくれるかな、現場の作業者にお願いできそうにないな。

齊藤さん
あれー? だって、頻繁に計画変更が発生して、その度に現場の人から次は何やるんだよ。
とか現場の人に現物確認をお願いしたりとか、現場も毎回困ってるんだよねー。
って言ってたけど?

いとう
うん。

齊藤さん
だから、毎回みんなあたふたするのはイヤでしょ。
だったら、進捗の見える化って言うんだけど。
なにが何処まで進んでいるか一目瞭然になったら、計画変更も直ぐに出来るでしょ。
会社としては、ムダな時間が無くなるはずだけどね。
それに比べたら、実績や進捗報告する時間なんて何分もかからないでしょ。
現物確認したり、進捗確認したりする時間ってどのぐらいかかるか分かってんの?。
私たちの仕事も必ず報告書書いたりするでしょ。
ほんとにこんな簡単な事ぐらいちゃんとやって欲しいのよね。
って、
あっ、ごめん、
別のお客さんの愚痴ぽいこと言ってしまった。ごめんなさい。

途中から話に熱がこもっっていたので、なんか私の理解が悪くて、怒っているのかと思いましたが、違ってました。

いとう
解った。
要点をまとめると、
前詰めで計画をする。
負荷の見える化が出来ていれば、少々の負荷オーバーは気にならない。
作業は遅れてもいい。
でも、現場で、作業順番を変えてはいけない。
現場は、タイムリーに進捗報告をする。
この仕組みを短いサイクルで運用する。
でいいかな。

齊藤さん
まあまあ解ったみたいね。


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