新米班長いとう君 第四話 「Kaizen」

あらすじ

いとう君は、彼女からカイゼンの講義を受けます。 彼女は、早速、現状の問題点と課題を洗い出し始めました。 このヒントから、いとう君は現状の仕事を変えていくことが出来るのか。

#4  Kaizen


意気揚々と勉強しにいったのはいいが、簡単にノックアウトされて、自部署に戻ってきました。
課長に、量産工場でうまくいっている仕組みは一品一様の我が部署では、使えそうもないこと。
そもそも、部品表というおおもとのデータが作成できないことを説明し、ちょっと落ち込みながら、昼食を食べ始めました。
ここの社食のメニューは安さと量が取り柄えで、毎日昼と夕方の2食をほぼここで食べています。
大学の友人達に聞くと、毎食ビジネス街のお店で外食すると、昼食で千円以上でていくそうです。
私は、毎日2食で800円以内です。
あー仕事で壁にぶち当たって、食費について考え事してるなんて、だいぶ参っているようです。
そのとき、携帯に電話が。彼女からです!

齊藤さん
もしもし
やー、
いま大丈夫?

いとう
うん、食事中だけど、今終わるので、かけ直すよ

齊藤さん
わかった。

社食をでて、中庭に行き、彼女に電話します。

いとう
やー、この前はわるかったね。

齊藤さん
いや、私の方こそ、理由をちゃんと聞かないで、怒ってごめん。

いとう
今日、このままトラブルがなければ、早く帰れるけど。

齊藤さん
わかった、夕方電話してね。期待しないで待ってるから

よかった。仕事は忙しくて全然改善される気配はないし、自分でちょっと頑張ろうと思っても簡単に挫折してしまうし、このまま彼女と
気まずい雰囲気のなかで関係を修復する努力も労力がいるし、このまま終わってしまうのかと気弱になりかけていましたが、
さて今日は、このままトラブルも無く終われば、たまには定時で帰ろう!

その途中で、彼女に電話し、待ち合わせ場所を決めました。
彼女より先に着き、先にビールを注文し、一杯飲み始めました。

齊藤さん
よ!

と言って、彼女がきました。彼女も一人で自分の飲み物を注文し、

齊藤さん
食べるよね?

と私に言って、食事のオーダーを始めました。
オーダーが終わると同時に、彼女の飲み物が来ます。
あざやか!いつも段取りがいいんだよね。

齊藤さん
さて、とりあえず、おつかれ!

といって乾杯し、先ずは私から、

いとう
先日はごめん、あまりにも疲れ果てて、状況を説明するのもしんどくて。

齊藤さん
まー、私も聞き上手になってあげればよかったんだけど、
そうは言っても、いとう君のドタキャンは多すぎるし、そんなに、急に残業になったり、 普通しないでしょう。

いとう
そうなんだよ、会社の同期にも言われるんだけど、俺の職場が、なにせ特殊な環境で、 うまく説明できないんだけど、毎日トラブルの山なんだよ。

齊藤さん
そんなトラブルの山の職場って、トラブル対応室みたいなところ?
でも工場の中で現場じゃなくて、事務処理してますっていっていたよね、 いままで詳しく聞かなかったけど、ちゃんと話して!

ということで、彼女にとくとくと自分の仕事内容について説明しました。
数分説明した後、彼女の目が気のせいか輝いています。

齊藤さん
まいったなー、いとう君の仕事も知らなかったけど、私の仕事も説明してないよねぇ。

と彼女がなんだかうれしそうに話します。

いとう
君は、たしか、営業からコンサルタントのような仕事に変わったっていっていたよね。

齊藤さん
うん、良く覚えていてくれたわね。
私はね、実は! 今、製造業の業務改善を手伝う仕事をしているのよ。
まだ、コンサルタントというにはおこがましいけど、もうかれこれ2年以上勉強しているのよ。

いとう
えーということは、俺の悩みが理解できるよね。

齊藤さん
もちろん、理解できるというより、改善の手伝いができるんじゃないかと思うけど

いとう
え、まじで!

齊藤さん
先ず、いとう君の職場だけど、
典型的な個別受注の職場よね。
受注してから設計、製造を行うんでしょ。
世の中の生産管理は、たいてい、部品表がベースにあって、いかに在庫を削減するかをポイントにしているけど、 いとう君の職場では、中間在庫なんてないでしょ。

いとう
そうだね、標準部品のような購入品の在庫は若干あるけど、中間在庫なんてないよ。
そうそう。
実は、今日、同じ社内の別の部署にいる同期にそこで使っている、生産管理の仕組みを聞きに言ったんだよ。
そしたら、部品表が無いなんて、生産管理ができないよ。って言われて、がっかりしてたんだよ。
部品表が無くても、なんとかなるのかなー?

齊藤さん
はい、ポイントはいいですねー!

と言う彼女の顔はやけにうれしそうだ。

齊藤さん
部品表は、ものを中心にして、ものの変化を現していくんだけどね、
いとう君の職場は、設計業務や工場出荷後の現地工事まで対象でしょ。
だから、ものでは無くて、発生する作業を中心に考えないといけないんだよね。
だから、既存の生産管理の仕組みでは無理があるので、別の管理手法が必要なんだよね。

いとう
へー、それで別の管理手法って何?

齊藤さん
まあまあ、料理が冷めない内に食べなきゃ!

と言いつつ、俄然、彼女の目は輝いているように見える。
食事の後、バーに寄り、齊藤さんの講義を聞きます。

いとう
さて、さっきのつづきだけど、新たな管理手法ってやつを教えてよ。

齊藤さん
あら、新たな管理手法とは言ってないわよ。別の管理手法っていったのよ。

いとう
うん、うん、それで。

齊藤さん
先ずは、1つめは、プロジェクト管理よ。

いとう
えー、プロジェクト管理なら知ってるよ。
でも、プロジェクト管理は、プロジェクト毎に、管理する手法じゃないか。
工場の中には、何百ものプロジェクトが同時に流れていて、そのプロジェクトを一件ずつ管理しても、結局、いわゆるリソースというやつが競合して、 まったく使えないんだよ。

齊藤さん
そうね。良く知ってるわね。まだ続きがあるのよ。
いとう君の工場は、複数のプロジェクトが錯綜している状態でしょ。
従来のプロジェクト管理手法には、
複数プロジェクトのマネジメントという観念がなかったのと、元の期間を短縮するためにどうしたら良いかというアプローチや方法論もないし、
予定は、遅れていくという前提で、いかに遅れないようにするのかを問題にしていたのよ。

いとう
へー、そうなんだ。

齊藤さん
まー、私もまだ勉強中なんだけどね。日本の製造業は、元の期間、つまり工期を短縮するためにどうしたら良いかというアプローチで、カイゼンを行ってきたんだよ。
ところで、リソースの定義だけど、なにがあるの?

いとう
うちの工場の場合には、作業者、機械、そして作業場所がリソースかな。

齊藤さん
へー、作業場所ってなに?

いとう
かなりの大物を製作しているので、作業する場所が問題になるんだよ。

齊藤さん
そうか、そんな制約もあるんだね。

いとう
うん、それで?

齊藤さん
まー、急かさないで、聞いてね!

相変わらず、彼女の目は輝いています。

齊藤さん
2つめの手法はカイゼンのアプローチよ!

いとう
えっ、よくわからないよ?

齊藤さん
カイゼンというアプローチで、先ずは現状の工場の状態を理解することよ。
たとえば、いとう君が関わっている製品のリードタイムは、どのように決まるの?

いとう
えーっと、各職場長が図面を見ながら、工数を見積もるんだよ。

齊藤さん
ふーん。
じゃー、その図面が無い場合はどうするの。
たとえば受注タイミングとかいわゆるプロジェクトの開始時点ではどうやってリードタイムが決まるの。

いとう
えー、難しいこというよな。
過去の同様の物件を参考にして…

齊藤さん
そうなるわよね。
ところで、リードタイムの定義はどう考えてるの?

いとう
すべての工数の合算だよ。
いわゆるクリティカルなんとかで決まるんだよね。

齊藤さん
あー、クリティカルパスね。
でもそれだとカイゼンの糸口が見つからないわよ。

いとう
うーん…

齊藤さん
じゃ、答えを教えてあげるね。
リードタイムの定義はね。
ものを製作する作業の時間と当たり前だけど運搬などの時間もあるよね。
そしていわゆる滞留も考慮したすべての時間の合計よ。
つまりリードタイムが、
作業の時間の合計だという認識だとなにもカイゼンに結びつかないの。
停滞の認識があまりないということは、カイゼンの可能性がたくさんあるってことね。
いままでの話を整理すると、いとう君の職場の特徴は、
一品一様であり、作業時間を正確に見積もる事は困難。
しかし経験的な工数算出は可能だが、
作り直しが発生したり、設計変更が発生する。
これらの突発作業やその発生する工数を事前に予測することは無理だよね。
でも、すべての進捗が把握できていて、
その進捗状況を反映して、
計画の組み替えがスピーディーにできればいいよね。

いとう
言ってることはわかるけど、具体的にはどうしたらいいのか、わからないよ。

齊藤さん
えー、こんなにわかりやすく教えてあげたのにー!


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