『綿毛と飛行機雲』①/③

「東海地方は全域でぐずついた天気となるでしょう。続いて関東です。」


全国ニュースでは、僕の住んでいる小さな町の明日の天気はわからない。僕に理解できたことは、全国的に雨模様で、夏を前に肌寒い一日となるであろうことだけだった。

すでに何度か読み返した手紙をもう一度読もうと封筒を手に取った。コジマらしい、丸く小振りな文字で僕の名前が書かれた封筒に、手紙と一枚の写真が添えられている。どこの風景なのか分からないが、一面に広がる小麦畑の上空に一筋の飛行機雲が見える。空はとても青く澄んでいて、余計な電線などはなにもない。もしかすると海外で買ってきた絵葉書なのかもしれない。それくらい完成された素晴らしい風景だった。

手紙には僕の近況をうかがう簡単な挨拶と、次の日曜日に会えないかという内容が書かれていた。あいつが今どこで何をしているのかわからないが、今にも踊り始めそうな文字からは元気であろうことが伝わってきた。久しぶりの再会に僕の心も少なからず浮かれていた。


「続いて週間予報です。天気は週末にかけて徐々に回復し、日曜日には夏の暑さが訪れそうです。熱中症に気をつけてください。」



コジマと会うのは高校卒業以来となる。高校時代の僕らはいつも決まったメンバーで集まり、他愛のない話題で盛り上がってばかりいた。卒業間近となりそれぞれ進学や就職を決める中、あいつは「やりたいことがある」と言った。僕らの学年で唯一、卒業先が「その他」となった。

夢があるやつもないやつも一括りにする学校のその分け方が僕には腑に落ちなかったが、本人はあっけらかんと「そんなこと」と笑い飛ばしていた。

あいつはいつもそんな風に、どんなにやっかいな問題も笑い飛ばし、解決へ向かって進むやつだった。どんなときでも、悪く言えばアホみたいな、良く言えばあどけない笑顔で誰からも愛されていた。



僕は地元から離れた大学へ入学し、それなりに恋人ができ、地元での就職も決まり、職場からほど近いアパートで二人暮らしを始めている。その間に高校時代の仲間と連絡を取ることも少なくなっていた。

そんな折に突然、実家へ届いたあいつからの手紙。手紙が届いたことを伝えようと思いケータイにかけてみたが、忙しいのか電話には出なかった。ひとまずメールで返事を送り、日曜日の昼過ぎに、高校時代によく行っていた喫茶店で会うことにした。

窓の外では雨が止む気配もなく、アパートの前にある小さな公園のひまわりを静かに濡らし続けていた。

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