『隣になった人』②/⑦

“数学の授業で隣になった人”は、
とても可愛らしい人だった。
背は小柄で、髪は黒く、肩の辺りまで
まっすぐ綺麗に整って伸びていた。
黒髪の間から覗く顔は真ん丸で、
少しふっくらとした印象を与えた。
物静かで、あまりはしゃぐ姿は見たことがない。
声は少し低めだった。
可愛らしい見た目とのギャップが魅力的だった。
部活は確かバドミントンをしていた。
授業の前後には、部活の仲間が寄ってきていて
いつも楽しそうに話していた。
話し方や笑い方にはどこか品があり、
僕を含む周囲の人達には
おしとやかな印象を与えていた。
派手さはなく目立つ存在ではないが、
男女どちらからも好かれ、
教師からも信用されているようだった。

僕の隣の席にいた彼女はそういう人だったが、
彼女から特に話しかけられることもなく
僕も彼女にわざわざ話しかけるほどの話題も見つからず
最低限のあいさつはしても、
雑談は特にしたことがなかった。
彼女は僕に対し、私生活を見せることはなかった。
見せる必要を彼女も感じていなかっただろうし、
僕も特に見せてくれるよう
せがんだこともなかったが。

彼女は誰が見ても魅力的な女性だったが、
僕が興味を持てなかったのには理由があった。

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