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『涙』②/④

「はい、念願の海」

空は水平線まで目を凝らしても青の要素が見えないくらい、どこまでも曇っていたが、彼女にとっては生まれて初めての海。彼女の目は大きく開かれ輝きに満ち、目と同様に口も鼻も大きく開放したその横顔には、喜びが溢れ出していた。

「ここで、この海に見守られながら生まれ育ったんだね…。どんな感じ?」

「どんなって…別にないよ。海なんて生まれたときにはすでにそこにあって、毎日のようにただ見てたし。見ようと思わなくても視界に入ってくる。それだけ」

「そっか。」



少し冷たい言い方だったかもしれないと後悔した。でも本当にその通りなんだから仕方ない。なんなら、僕なんかが生まれるより何億年も前から海はそこにある。僕が見飽きたと言ったところで、少しも過言ではないはずだ。



僕は不器用で、異性と付き合うことにも慣れていない。気になる人と恋人同士になったとしても、何をしていいのかいつもわからない。目の前に広がった海に目を輝かせている彼女ともし仮に付き合ったとしても、僕には何もしてあげられない、彼女の幸せに気づいてあげられないという想いが強くあった。僕は今日、彼女とはもう会わないようにしようと決心していた。



「俺、今日はこのまま実家に帰るから。駅まで送るよ。」

「うん、ありがと。」



灰色の空の下で、茶色い海を見ただけ。二人は駅に向かって歩いていく…。

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