『隣になった人』⑤/⑦

とても信じられず、言葉が何も出てこなかった。
自分がこの時どんな顔をしていたか、今思い返すと恥ずかしくもある。
こんなに優しさが溢れる人は初めて出会った。
後にも先にも、彼女以上に優しさを携えて
人と接することができる人は出会ったことはない。
逆の立場だったら僕には出来ないかもしれない。
なんの見返りを求めることもなく、
ただ、授業が聞けず困るであろう隣の席の人のためだけに
ノートを作ってくれる。

濁りのない微笑みが、清々しいほどの純粋さを表現していた。
感謝してもしきれないほど、僕はうれしく感じた。

そんな出来事から十数年が経った今、
不意に彼女の無償の優しさを思い出した。
思い出すために何かきっかけがあった訳でもなく
ただただ僕の脳裏に、彼女がノートを差し出してくれた光景が浮かんだ。
その時の彼女の低い声と、迷惑じゃないかと気にしながらの
控えめな笑顔を思い出した。

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