『綿毛と飛行機雲』③/③

「いや、本当にすごい。コジマが農業やってたこと自体にも驚いたけど、あのコジマがね。これほどまでにできる子だとは思ってもいなかった。高校の頃のコジマからは、正直想像もつかないよ。」と、僕は言った。
「えへへ、そうかな。そんなに言われたら照れちゃうな。」と、彼女は左手を頬に当ててうつむいた。長くて細いきれいな指をしていた。

「俺なんて、いつも営業にいってもなかなかいい返事がもらえなかったりしてね。日々目の前の仕事に追われてばっかりでさ。目標の規模がケタ違いな感じ。」たくさんの努力の結果、彼女はあの小麦畑にたどり着いた。僕はどんな未来にたどり着くのだろうか。結果が全く目に見えないことで頭の片隅で微かに感じていた将来への不安が一気に胸を突いた。

「小さな花が種を綿毛に乗せて、それぞれに咲くべき場所を見つけて根を張る。」と、彼女は言った。「私は広い土地に根を下ろすことにした。西野君はこの町に決めた。もしうまく根を張れなければ、また綿毛に種を乗せて、風に身を委ねたらいい。いつの日かどこかに下り立てればいい。それだけのことだよ。そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかな。」

彼女は小高い丘の上をこれから生きていく場所と決めた。僕は小さな町の小さな会社だ。お互いに見つけた場所は対照的に見えるが、同じ空の下でつながっている。僕らは小さな花のように自分の生きていく場所を見つけた。

「コジマは今幸せ?」
「うん、私はいつも幸せだよ」と、またアホみたいに笑った。「そっか。」



外に出るとビルの合間から覗く快晴の空に、一筋の飛行機雲が伸びていた。
「あの飛行機雲、小麦畑の上も通るかな」「うん、きっと。」

小高い丘の上で燃える夕日を背にして、誇らしく風になびく黄金色の海を眺めている彼女の姿を思い浮かべてみた。彼女のあどけない笑顔にはオーバーオールと赤いスカーフがよく似合いそうだ。帰り道、僕は彼女に赤いスカーフを送ることにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?