『隣になった人』④/⑦

“数学の授業で隣になった人”は魅力的な女性だったが、
僕は彼氏の存在がちらつくことにより、異性としての興味は半減していた。

僕が授業に出られなかった時のことを思い返すと
やはり病欠が理由だったのかもしれない。
風邪だった気がする。そう思えてきた。
快復し授業に出てきたとき、彼女は珍しく僕に話しかけてくれた。

「あの、これ。」

そう言って彼女はルーズリーフ10枚ほどを僕に差し出していた。
10枚は大げさかもしれない。本当はもっと少なかったかもしれないが
僕にとってはとても枚数が多く感じた。それくらい驚いた。

「お休みしてた間の授業のノート、取っておいたよ」
驚きすぎて理解が追いつかなかった。
そんなに親しい関係を今まで築いてきた覚えが全くないのに。
自分のノートも取りつつ、同じ内容を再度ノートに書き写してくれたということか。
そしてそれを、なんと僕にくれると言う。
こんなどうでもいいことに大事な労力を、こんな僕のために使ってくれるのか。

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