『ひと夏っ恋』⑮/⑯

月曜日、ユキナさんの姿はなかった。いつもなら遅刻はしないまでも必ず一限目に間に合うようにチャイムの直前で駆け込んでくるはずなのに。
「ヒカル、今日ユキナさんどうした?」
「なんでアンタがユキナの心配してんの?」
「いや、休むの珍しいし、会えないと淋しいし。なんせみんなのアイドルだからな。」
「ふーん。ケガとか病気とかじゃないから安心しな。」
「なんか知ってんのか?」
「アンタが知ってどーすんのよ。私は友達だもん。知ってるよ。」
「ま、ケガとか病気じゃないなら安心だわ。」

ヒカルは事情を知っているようだったが、あの感じだと悪い方向ではなさそうだ。ヒカルは友達だから知っていると言った。僕は一応、彼氏のはずなんだけど、知らせてはくれないのかな。
淋しいと言ったのは本音だ。会えない淋しさと、僕に教えてくれない淋しさ。別に怒ることはしないけど、彼女の気持ちを聞いてみたいと思った。僕は彼氏として頼りないかな?

 翌日、ユキナさんはまたもお休みだった。ヒカルはこれといって心配している様子もない。ただ、話題にしようともしていない点には少し気がかりだった。

八月三十一日。ユキナさんは以前のように一限目が始まる直前に教室に現れた。以前となんら変わらない笑顔で。ヒカルや他の女子も普通に接している。休んでいた事情を話している様子もない。気にし過ぎか、大丈夫そうならそれで良いか。きっと彼氏としてこんなときにできることは、何も言わずにただそっと見守ってあげることだけだろう。彼女の方から話してくれるまで、優しく見守っていよう。でも声は聞きたいから、今夜電話してみちゃおう。

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