『ひと夏っ恋』⑨/⑯

 三年生最後の大会に向けて、サッカー部の熱も高まってきていた。ブラスバンド部を含む文科系の部活も同時期に最後のコンクールなどがある。学校中の雰囲気が夏休みに浮かれながらも、部活に没頭する適度な緊張感も漂っていた。
「ブチさんはお盆どっか家族で出かけるんだっけ?」
「ウチのお盆は毎年二泊三日で親戚のとこへいくんだ。これだけは絶対でね。」
「部活もお盆はお休みだしね。ヒマだ。やることないなー。彼女でもいればずーっと一緒にいてやるのに。」
「宿題もまだやる気になんないしね。金もないのに時間ばっかあるんだよなー。」

学校が夏休みに入り、しばらく部活以外の人と会う機会はない。僕の場合はユキナさんを除いて。
「ユキナさんにも会えないなんて。もう俺淋しくて溶けちゃう。」
「溶けて変な形のまま、また冬に凍ってしまえばいいのに。」
「変な形ならユキナさんも珍しがって振り向いてくれるかもな。誰も見たことないようなビックリ顔で。」
「俺のことをあの麗しの瞳で捉えてくれるならどんな感情でもいいの。」
「変な形の変態か。」

夏休みは八月二十五日までで、お盆と夏休みの最後の週以外は部活がある。八月二十一日から二十五日は、いわゆる宿題に集中しろ期間だ。
ユキナさんとの電話は夏休み前も週に二~三回続いていた。夏休みに入っても同様のペースで続いている。どんなに部活でヘトヘトの夜も、ベランダのイスに腰を掛ければ、あの甘くとろけるような声でどんどん癒されていく。

「今度の二十二日に夏祭りがあるから行こうよ。ウチの地区でやる小規模なものだから子供とおじいちゃんおばあちゃんばっかりだけど、最後に一発だけ花火が上がるんだ。」
「知ってる!あの花火が上がるお祭りって田渕くんの地区のだったんだ!私、いつも打ち上げ花火が一つだけしか上がらないから気のせいとか見間違いかと思ってたの。」
「そうでしょ。ウチの学校の人たちもあんまり知らないと思うよ。俺は毎年顔出してるけど、学校の知ってる人に会ったことないもん。」
「そうなんだね。楽しみ。行こう。」
「よっしゃ!じゃあ二十二日行こう!」と僕は約束を確かなものにするため改めて誘うと
「うん。」とユキナさんは一言返事をしてくれた。
「じゃあ今日はそろそろ寝るね。」
「明日の部活もがんばって。」
「ありがとう。おやすみ。」
「おやすみ。」

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