『ひと夏っ恋』③/⑯

 ある日、いつものように音楽室の消灯を見届けてから片付けを始め、部室で着替えてから校門に向かい始めた。サッカー部を含む運動部の部室は、校庭を挟んで校門とは真逆の位置に並んでいる。校庭を半分くらい横断したところで、僕は部室にケータイを忘れたことに気が付いた。
「ごめん、今日は先帰って。俺部室にケータイ忘れた。カギ俺が返しとくわ。」
「あー、今日こそユキナさんに逢える日だぞ、朝の占いで言ってたからな。残念だったね。」
「うーん、今日のユキナさんはお前らに預ける!ぜひあの美しさを明日報告してくれ。」
「任せろ。お前の意志はしっかり受け止めた。俺らのユキナさんをしっかり目に焼き付けて俺らは帰るぞ。悪く思うなよ。」
「ちゃんと明日教えろよ。じゃあお疲れ。」と、みんなと別れて足早に部室に戻り、ケータイを拾って再び校門へ向かった。

これだけみんなから遅れたら、今日はもう会えないな。ツイてない。半ばあきらめて普通のペースで玄関に近づくと、暗い校舎からユキナさんが一人で出てきた。
あぁ、神様はあんな愛しき悪友たちよりも僕に手を差し伸べてくれるのか。悪いな友よ。今日の運勢はすべて僕の為になるようにできていた。ユキナさんが僕に気付き、帰る足を止め僕が近付くのを待ってくれていた。それに気付いた僕は、足早に彼女の元へ掛けていった。

「お疲れ様です。今日は遅いですね。」と僕は言った。『今日は』ってなんだ。いつも帰りのタイミングを狙っているのがバレるじゃないか、と自問自答の結果少し後悔した。
「うん、ちょっと音楽室に忘れ物しちゃって。」
「奇遇ですね!自分もケータイを部室に忘れちゃいまして。あいやー本当偶然。」
「良かったら、一緒に帰りましょうか。」と彼女は言った。間髪入れず「はい、喜んで!」と僕は言った。

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