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『涙』④/④

痛む心をどう抑えればいいのか苦しみながら、海に着いてしまった。腰を下ろしケータイを開く。彼女の未来を一番に考えて、文章を書き上げた。



「今日はわざわざ来てくれてありがと。初めての海はどうだったかな?

もう春からはキャンパス変わっちゃって顔を見る機会は減っちゃうけど、自分の勉強頑張ってね!さよなら。」





僕はこれから『さよなら』を告げる。もう二度と会えないときだけ使うと決めていた言葉『さよなら』を僕はいま告げようとしている。

苦渋の選択、決心の言葉。

彼女を好きだという、自分の気持ちに嘘をついたことが辛くて、涙が溢れた。


何度か躊躇いながらも、やっとの思いでメッセージを送った。鼻の奥で、なにかすっぱいような感じがした。





「こちらこそ貴重な経験ができてうれしかった!キャンパスは違っちゃうけど、また会えたらいいね!」





僕は確かに『さよなら』を告げたんだ。好きだった人と、彼女を好きだった過去の自分自身に向けて。


彼女は言った
「また今度会えたらいいね」と。

もう会わないつもりだったのに、なんで期待持たせんだよ。

「また」「今度」なんてあるのか。望んでいない未来に、なにを期待できるだろうか。

ありふれたひとつの言葉のその意味が、人の心をこんなにも苦しめるということを、彼女は知っているのだろうか。

その意図も知らぬままに、彼女は僕の言葉を受けとめた。

「またね」と。





胸が熱くなった。

自身を思って流れた涙が、今度は彼女を想って溢れていた。

なんなんだよ僕は。本当に彼女を想うから、本当に彼女が好きだから、僕は身を退いたのに…。



いつしか雨が降りだしていた。

僕の涙は雨に紛れ、砂に染みて消えていった。




2008.01.27作 (一部加筆)

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