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【BOOK&RUN】勝てる監督は何が違うのか 広岡達朗

◇野村克也『1度ゆっくり話してみたかったが、今となってはそれも叶わない』◇関根潤三『決して「勝てる監督」ではない。けれども「育てる監督」としては超一流』◇川上哲治『ダメだとわかっていても、もう1度全力を尽くして取り組んでみてくれ。そうすれば、ダメがダメでなくなるかもしれないから』

以下200ページ以降の引用

『最も印象的なシーンを選ぶとしたら?』と言われれば、1983年の日本シリーズを挙げるだろう。
なぜならば、相手が私の古巣である読売ジャイアンツだったからだ。しかし、本音を言えば、そこには複雑な感情があるのも事実だ。
このとき、ジャイアンツを率いていたのが、私も現役時代に一緒にプレーした藤田元司である。長嶋茂雄の後を継いだのが藤田だった。その就任には、川上哲治さんからの強い推薦があったと聞いた。(中略)
こうした感情があったからこそ、ジャイアンツを撃破して日本一となったことが本当に嬉しかった。通算8年間の監督生活の中で最も印象深いシーンである。

日本一達成後、同じく川上監督の下でプレーしていた森昌彦(現祇晶)と一緒に川上さんの自宅にあいさつに出かけた。
「おかげさまで、ジャイアンツを倒して日本一になりました」
このとき、川上さんから言われた言葉は今でも忘れない。
「負けりゃ、よかったのにな・・・・・・」
初めは意味がわからなかった。川上さんはなおも続ける。
「・・・・・・ライオンズはまだまだ勝てるだろう。だから、今年の日本シリーズは藤田に勝てせてあげたかったよ」
現役を引退してからも、まだこのような仕打ちを受けるのか・・・・・・。私は愕然となった。思わず口に出そうになった言葉をかろうじて呑み込んだ。
(ジャイアンツの監督があなただったら、もっと嬉しかったのに・・・・・・)
長居は無用だ。私と森は、早々に辞することにした。
日本一の喜びが一瞬にして冷めてしまったあの日のことを、私は決して忘れない。

監督の最大の使命は「日本一になること」である。
一方で、指導者の最大の使命は「選手を一人前にすること」だ。指導者である以上、「育てる」「教える」ということは死ぬまでついて回ることなのだ。
では、「監督」と「指導者」は相反する立場なのであろうか?
もちろん、そんなことはない。選手が育てば、必然的ににチームは強くなる。プロ野球チームの監督とは、チームを指揮する「監督」である、同時に選手の才能を育てる「指導者」でなければならない。(54ページ)

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