見出し画像

【BOOK&RUN】ON WRITING WELL

自分を励ましてくれる文章に出会えた喜び。

走路と厩舎、スタジアムとリンクを歩きまわるのが肝心だ。じっくり観察せよ。突っ込んだインタビューを行え。古老の話に耳を傾けろ。変化について考えろ。そして、うまく書くことだ。

「誰よりも、うまく書く」219ページ

それ以来私は、楽しんで仕事をすることを編集者であり記者である自分の信条ににした。書くことは孤独な作業だから、自分で自分を元気づけなければならない。書いているあいだに何か愉快なことを思いついたら、自分を面白がらせるためにそれを記事のなかに盛り込んだ。自分が面白ければ、ほかにも面白いと思ってくれる人がいるがずで、一日の仕事としては悪くないと思えた。
(中略)イェール大学で教えていたとき、学生に話をしてもらおうと、S・Jペレルマンを招いたことがある。学生のひとりが彼にこんな質問をした。「ユーモア作家になるためには何が必要でしょう?」ペレルマンは答えた。「大胆さと活力と陽気さだね、一番大切なのは、大胆さだ」。続いて、「作者の良い気分が読者に伝わらなければならない」と言った。その言葉が、筒花火のように私の頭のなかで炸裂した。それだけで、楽しんで仕事をすることの意味が言い尽くされていた。そのあと、ペレルマンはこう付け加えた。「たとえ良い気分でなかったとしてもね」。その言葉もショックだった。なぜなら、ペレルマンの人生は、並大抵でない憂鬱と苦悩を伴うものだったからだ。それでも彼は毎日タイプライターに向かって、言葉にダンスを踊らせた。良い気分でないときがあっても不思議はない。彼は無理にでも良い気分を引き出していた。
仕事をするときの作家は自分に活をいれなければならない。それは、俳優でもダンサーでも画家でもミュージシャンでも変わりない。なかには読者を巻きこむエネルギーの流れがあまりにも激しいの、仕事を始めたとたんに言葉が次々と湧いてくるにちがいないと思いたくなる作家もいる。(中略)彼らが毎朝、スイッチを入れるのにどれほど苦労しているか、誰ひとりも考えもしない。
あなたもスイッチを入れなければならない。代わりにやってくれる人はいないのだから。

「誰よりも、うまく書く」276ページ

面白がって書いている作家には、常に自分を面白がらせるように仕向けている人が多いような気がする。もしかしたら、作家になるというのはそれで言い尽くせるのかもしれない。私はずっと、自分に面白い人生とさらに知識を深める機会を与えるために書き続けていた。もし、知ることが楽しいと思えるテーマを書けば、その楽しさは書いたもののなかに表れるはずだ。学習は人を元気づけるものなのだ。だからと言って、馴染みのない領域に足を踏み入れるのを恐れる必要はない。ノンフィクション作家であれば、専門化した世界に何度も飛びこまなければならず、そのたびにその世界からストーリーを持って帰る力が自分にはあるだろうかと不安になる。私も、新しいプロジェクトに乗り出すときは、いつも不安を感じる。野球の本(『スプリング・キャンプ』)を書くためにブレイデントンへ行ったときもそうだった。物心ついてからずっと野球ファンではあったが、それまでスポーツの記事は書いたことがなく、アスリートにインタビューした経験もなかった。厳密に言えば、私には信用証明がなかった。私が手帳片手に近づいていく人々-監督、コーチ、選手、審判、スカウトにこう訊かれるかもしれない。「野球については、ほかにどんなものを書いたんだい?」だが、誰ひとりそんな質問はしなかった。訊かれなかったのは、私が別の信用証明を持っていたからだ。そう、誠意だ。彼らには、私が自分の仕事を心から知りたがっているのがわかった。あなたが新しい領域に足を踏み入れるときに、グラス一杯の自信が必要になったら、この話を思い出してほしい。あなたの最高の信用証明は、あなた自身なのだ。

「誰よりも、うまく書く」279ページ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?