見出し画像

掴めない

とんでもない安さで大きなエビフライが売られていた。価格に目が眩んで購入。晩飯のおかずに食ったはいいがフライの中身は小指ほどもないくらい小さなものだった。
典型的な安物買いの銭失いであり、「安かろう、悪かろう」は死語になっていない。

さっきまで何もなかった床にカナブンがいた。
どこにも隙間などないはずの部屋に突然虫が入っていたりすることはよくあることだ。いつどこから入ってきたのかと不思議になる。
仕事帰りのある晩にガレージのシャッターを開けようとすると、街灯の薄明かりに照らされて足元で黄土色の大きなカミキリムシが蠢いていた。車庫入れでこのカミキリムシを轢いてしまったら可哀そうだからと仏心から七股池の茂みに放そうと掴んでみたら、胸の関節辺りからギコギコ音を立てて、その音が掴んだ指に振動となって伝わる感触が気持ち悪くなって背筋に氷が走った。それ以来虫を掴むことができなくなっている。
この時期だから早朝になると街灯の下あたりに通る排水溝にカブトムシなどが落ちている。それを見つけた子供たちは喜んで拾っている。私も子供の頃はカブトムシやクワガタなどを見つけると興奮して捕まえたものだ。それが幾星霜して虫取り遊びから離れているうちに虫を掴むことができなくなっている。
カフカだったかどうか忘れたが自分が虫になってしまった話があったが、あれほど虫に夢中になっていた子供の頃、時が流れて虫から長く遠ざかっているうちにあの異形に対する嫌悪感。こういうことを考え出すと異形に対する差別。自分と違った外見を持つ者に対する差別みたいな話になってしまいそうなので。ここでは深堀しないでおこう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?