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【#くろぐだの奇妙な冒険 ヒトシ外伝】Over The Times:The First Track #4

(前回の「Over The Times:The First Track」は!)

「あぁ、ワリぃ。ご覧の通り粗野な人間性と言語野しかなくってな」
「そんな大層なものでもありませんが、次の当主は現時点でわたしということになります」
「えっ、ひゃい!」
(((センター試験なんかより今この瞬間が、俺の人生の分水嶺。)))
(((ミサイルを掴んでそのまま明後日の方向に投げ飛ばすしか……ない!)))

6 1月15日(日) PM5:15

『見えない腕』を飛ばし、両側面から木製トマホークを抑え込む。木と金属が発したとは思えぬ高音をだしながらミサイルと腕がぶつかりあう!
 「ぐっ……この、止、まれぇっ!」
 額には脂汗、腕には血管が浮く。『見えない腕』が握ったものの質感や温度は伝わらないことだけは幸いだったが、強大な運動エネルギーを受け止めるのがこんなに難儀なことだったとは。もっと真面目に物理をやるべきだったかもしれない。
 「あの、これって一体……!」
 こちらに突っ込んできたミサイルが突然空中で静止し、少しずつ上を向いていく光景を見て満冴さんも流石にびっくりしただろう。今やっている自分もできたことに驚いている。
 そらす方向はいくつか考えたが、時間も体力もない。真上ではなく、斜め上に打ち上げて反らすのが限界か。
 「っっ……せりゃぁ!!」
 10秒も抑え込めず、『見えない腕』から木製トマホークはすっぽ抜けて飛び去った。軌道は文字通り斜め上、明後日の方向に飛ばされていく。
 「ハッ、ハッ、はぁっ……」
 耐えきれず、俺はそのまま膝をつく。2回3回これを受けきれる保証はどこにもない。少なくとも「この手の攻撃は無効である」と相手に思わせるだけでも有効だと信じたい。
 「なるほど、貴様の『スタンド』は少々厄介だな」
 先程木をトマホークに変換した「兄貴」のほうが悠然と歩いてくる。その後ろには、木製トマホークの「在庫」を山と抱えた「ダイ」。
 「スタン……なんだって?」
 「出しておきながら何であるかも知らぬとは……嘆かわしい」
 「兄貴」の背後にはいつの間にか別の人影がある。木の根が歪に絡みついた人体。橙の目。背丈は『兄貴』の半分ほど。葉脈のような意匠が全身に広がる。明らかに常軌を逸した存在。
 「両腕だけのスタンドとは初めて見るが、どのみち私の、『アイ・ウォン・レット・ユー・ダウン』の敵ではあるまい」
  侮蔑的な視線を投げかけながら、「兄貴」は踵を返す。
 「やれ、ダイ。全弾使って構わない」
 「待ってましたぜ!」
 「ダイ」は一発ずつ、先ほどと同じ要領で木製トマホークを投げ放ってくる。ただし今度は合計……8発。弾道は満冴さん狙いではなく、一つ残らず俺狙い。
 1発目。さっきと同じ「弾道反らし」を狙って掴みにかかる。が、そこを狙って2発目・3発目・4発目。1発目を盾にして。無理だ。耐久力にでも賭けるしかない。
 次の瞬間、目の前が真っ白になった。
 光の洪水。熱の拡散。『見えない腕』のおかげで相当程度防げるとはいえ、体制が崩され、満冴さんの目の前まで吹き飛ぶ。
 「大丈夫ですか?!」
 満冴さんの声はギリギリ聞こえる。聴覚は有効。立ち上がろうとしたものの、痛みに耐えかね、伏せた満冴さんに覆い被さるように倒れ伏す。視覚への影響はまだ大きいか。おそらく左右のブロック塀が一部崩壊、前進は極めて困難。
 「まぁ、なんとか……うぐっ……」
 「ハッ、見苦しいな。力あるがゆえに苦しみ、何も守れないまま膝を折るだけか。ヒーロー気取りも大概にしたまえ」
 その一言が、どうしようもなくむかっ腹にキた。痛みも感じなくなるほどの怒り。ヒーローを気取れるほど強いつもりもないし、そもそもそんな正道のヒーローができるほどの人間性があった覚えもない。けれど。
 「このヒトシ!力を持ちながら逃げるほど!」
 自分でも驚くほどの声が出た。怒りに囚われるなんて「ヒーロー失格」だけど、それも今ならありだ。さっきkazariでブレードを「生やした」ときと同じ感覚が脳内に広がる。今欲しいのは「目の前のクソ野郎を殴り倒せるだけの力」、それしかない!
 「腰抜けに生まれた覚えも……ねぇんだよ!」
 大きく『右腕』だけを振り上げる。その手には長柄の大槌が生じていた。ちょっとオーバーキル気味だが、正直これでいい。
 「ごちゃごちゃうるせぇぞ!」
 「ダイ」が5発目・6発目を投げてくる。上等だ。
 大槌を両手で握り、大きく振りかぶって、叩きつける。バッセンのような気分だ。玉が危険物であることを除けば。ガシィンと鈍い音を伴って、見事芯に当てた。進行方向を強引に塗り替えられたミサイルの先には……6発目と更に7発目。
 「なぁっ!?」
 「まずい、伏せろダイ!」
 「満冴さん、伏せろ!」
 命中。炸裂。爆風がもう一度襲い来る。
 咄嗟に俺は大槌を風車のごとく回転させ、飛来する礫を弾く。自分の体ではやったこともないしできそうもない挙動が、スムーズにできてしまう。これが『スタンド』の力か。
 もうもうとした土煙が次第に晴れる。さすがに強盗コンビにもトマホークによるカウンターは想定外だったか、二人とも膝を付き『兄貴』に至っては片腕がだらりと下がっている。やりすぎたか。
 退路はなし。流石にこの騒ぎでそろそろ警察も来る、はずだ。少々泥臭いけど、コレでおしまい……
 「なかなか洒落た真似をしてくれるなおぁ、少年ン!」
 『兄貴』のスタンドが、まだ使われていない木製トマホークミサイルをもう一度殴りつける。
 「遠距離でそう来るなら、スタンド・アンド・ファイトと行こうじゃないか!」
 ダイの腕にトマホークから変質した木製のブレーサーとグローブが生じる。スパイクまでついた凶悪な一品だ。
 「ぶちかますぞテメェ!」
 一気に距離を詰めてくる。あと大股で10歩のレンジ。お互い木製トマホークミサイルの爆破を受けたが、やはり向こうのほうがスタミナは上。だが、負けてやるわけにもいかない。守るべきものが背中にあるのだから。
 だが、この状況で何ができる?あの『見えない腕』を纏うことでもできれば話は別かもしれない。あと8歩。
 そう考えた瞬間、『見えない腕』がこちらに寄ってきて、そのままガキリ、ピシリという音を立てつつ俺の腕を覆った。
「その腕……!」
満冴さんの声が聞こえる。俺の腕を鎧ったことで腕が実体化したというのか。
俺は振り向かず、うなずいて返す。
「やるってのかあぁん!?」
「ああそうさ!さっきみたいにまた『立てなくしてやる』よ!」
両腕だけなら誰にも負けない、そんな気にすらなる。
この腕ならばやれる。いや、やらなくてはならない―――!
俺とダイは互いに距離を詰める。
6歩。3歩。2歩。……今!
「セイヤァァァッ!」「ウルァァァッ!」
たった一発きりの衝突。永遠に等しい数瞬。空気がたわむ。鎧った腕越しでも衝撃が通る。
ダイが放ったのは実体化した腕の鎧片腕分のガードすら突き破る渾身のボディブロー。
リーチの差は非情。俺の放った、いや放とうとしたフックより早くダイのボディブローが俺を襲った。
「ガッハ……!」
胃液も血も混じった液が、口から溢れる。
一介の高校生が受けるには、少々重すぎる傷か。
全身が軽くスタンする。
「もう一発!」
だらりとガードの下がった胴に、もう一度ボディブローが刺さる。
「ゥオ゛ッ!?ッハア゛ッ……!」
こらえるだけの力さえ残っていない。俺の体は、そのまま己がぶちまけた小間物屋に吸い込まれるように倒れ伏した。
視界が暗転する。音が遠くなる。腕に何かが巻き付く感覚が、ほんの少し伝わる。
「ゲームは、まだ終わらんぞ?」
『兄貴』の勝ち誇ったような、蔑むような声を最後に、俺の意識は途切れた。
【続く】

次回予告

(((つまりこれは、夢か)))
「ごっ、ごめんなさい!こ、この、それは……」
「これ、最後まで聞いたらこの街から消されるやつですか」
(((諦めるな。命はある。人手は……あると言い難いが、ありがたいことに『見えない腕』がある)))

Photo by Amelie & Niklas Ohlrogge on Unsplash

第3話 

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