イヴの葬送
2/13
あんたがもし警官で、夜に女の右腕を抱えて歩く男を見たらどう思う?
齢は30手前、コートは血塗れ、左手に持つは女の白い右腕。
5徹目みたいな顔した、職務質問にぴったりの社会不適合者。
それが今夜の俺だ。
もちろんこれには理由がある。
女の右腕が今夜の俺の「成果物」には変わらないし、これを得るために少々酷いこともした。
この腕を義手として使っていた女は、今頃東京湾の新しいお家だ。
そうまでしてこの腕がほしかった。
正確に言えば、この女の全身がほしい。
全身揃えば試算不能とも称される、世界最高峰の女。
あるいは、「先生」が死に際に残した最低最悪のパズル。
裏通りの裏通り、一瞬表に戻ってまた裏へ。
背後に視線を感じつつ、右腕を抱え運ぶ。
生きているかのような肌触りと、見た目に釣り合わぬ質量にぞっとする。
十と三つに形見分けされた、先生の最愛の女の骸の一部。そして、
「あんた、それ『イヴの骸』」だろ?
今や東京中のアウトローが追う、現代の聖遺骸。
「だったらどうした」
「俺に譲ってくれねぇかなぁ!?」
刺客の頭がぐぱりと裂け、触腕が飛ぶ。
「無理な相談だ!」
俺は思い切って女の右腕を高く放り投げた。
プラズマ短刀を抜く。
鍬形じみた触腕の先端と短刀が、鍔迫り合いを2度3度。
一気に伸びた機を狙い、右に逸す。
触腕の戻りに踏み込み、得物を触腕の先端に捩じ込む。
壁にそのまま刺し、押すは柄頭。決まれ。
放電。痙攣。
刺客の足元に水溜り。
「アガギッ」
死のダンスを踊る刺客に、止めの一発。
降ってくる女の右腕を寸分誤差なく掴む。
付け根側を向け、女の右手と俺の右手で握手。
刺客野郎の最後の光景は、空気中の水分さえ消し飛ばす一面の光だったろう。
巷を騒がす「イヴ」の正体は、全身揃えばこの星の現行全兵力を単独で制圧しうる人型超兵器。
俺の姉の骸から作られ、十三に裂かれたファム・ファタール。
俺の願いは唯一つ。
姉さんを、五体満足に葬りたい。
【0/13に続く】