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生保3課の山田さん

【求む、パイロマンサー 給料応相談】
事務所の色あせた張り紙を貼り直す。
描き直すか少し悩んだが、自分の達筆さと絵の上手さを考慮してヤメにした。
本局からの通信をBGMに、まず出場前検装。
ポーチ内に携帯焼夷弾6発。センサー地雷20セット。ガス缶5本。ガス式トーチロッド。タンク内の燃料は今朝満タンにした。
そして俺の相棒、ガス灯油併式火炎放射器。
戦前のエコロジスト共が憤死しそうな完全装備が俺の「正装」だ。

今日の現場は隣町の廃商店街。本局のオペレーターと情報共有に入る。
「目標想定はポインセチア級東西約150m。草者の目撃情報もあります」
「花屋でもやるつもりか。営業停止にしてやろう」
「いつものことですが、根絶確認は抜かりなくお願いします」
「もちろ……んッ!」
直感で急ブレーキ。営業車の悲鳴。
「どうしました!?」
「花屋のビラまきだ!」
草者が3体、一体は開花兆候あり。廃商店街から飛び出して斥候気取りか。
距離50。付近には住宅街。ここで断たねば草の海。
「生存圏保護3課中嶋、応戦する!」
まずは定石の携帯焼夷弾から。蔦に絡め取られないギリギリの下投げで攻める。
「第1球だ!」
信管起動、中央と左の草者が炎上。右は躱される。やはり開花兆候まで来ると頭が違う。
飛んでくる蔦が5、いや6本か。更に棘付きときた。
「ぐっ!?」
左手左脚拘束、棘もたっぷりもらう。トーチロッドを構えた右腕には更に時間差の一本。
速度に対応できていない。これでは兆候どころか開花宣言か……
「どーんっ!」
眼前の道路が、溶けた。
間抜けな声と不釣り合いな大火力が、草者はおろか道路も街灯も焼尽していく。
顔を上げると、そこには左脚が燃えたジャージ姿の学生。胸には「山田(猛)」。
「君は……君がやったのか?」
「はい!山田インフェルノといいます!」
「イン?」
「猛火と書いてインフェルノ!あたし、パイロマンサーです!」

【実地採用規定 に続く】

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