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神戸ラブストーリー

200X年、神戸市某所にて。
ふたりは出会った。
その出会いは正に、

「あの日、あの時、あの場所で」

だった。

そして、東京ラブストーリーエピソード1のように

「出会いと再会」

当時は、スマホもSNSもない時代。

6月28日、運命の日。

【Aのストーリー】

出会いから遡る3年前、5年の関係を断ち切って大阪から神戸へ引っ越した。
はじめて神戸に住んだ。
仰ぎ見る六甲山、流れる住吉川も含め、何もかも新鮮だった。

しがらみから解放され、ひたすら自由を満喫した。
最初の1年は借金の返済に集中して節約した。
車も手放して、手切れ金の一部とした。

関東の会社仲間とも連れ立ってアメリカに2回行った。
ラスベガスでカジノをやり、スロットで7の色違いも揃えた。
ケネディ宇宙センター、ディズニーワールド、キーウェストにも行った。

もう結婚はいいや、と思っていた。
自由が一番。
バンドも組んで、梅田で初ライブもやった。

上司の勧めでゴルフも始めた。
三ノ宮のゴルフスクールにこまめに通い、御影の打ちっぱなしにもよく行った。
酒もよく飲んで、会社のタクシー券で深夜帰宅三昧だった。

出会う2ヶ月前、某プロジェクトが炎上して支援に入った。
そこからほぼ休みなし状態。
姫路から普通電車を乗り継いで、深夜1時頃に帰宅したこともあった。

そうして炎上はひと段落したが、仕事は続く。
出会う前日は、神戸駅近くのビルでほぼ徹夜。
始発で帰宅して1時間仮眠し、朝8時の三ノ宮での打ち合わせに参加。

その日は新大阪に移動して飲み会。
一次会が早く終わり、めずらしく梅田には行かずにひとり帰宅。
自宅駅に着いたのは夜の9時半前。

【Tのストーリー】

出会いから1年前、肺がんで余命宣告を受けた母を亡くした。
一度寛解したが再発となり、余命半年の宣告から約1年が経過した時だった。
共依存だったからか、母を失ってから周囲がモノクロームと化したという。

それからどう過ごしたか記憶があまりないとのこと。
その冬、神戸ではめずらしく降り積もった雪で雪だるまを作ったという。
それ以外に記憶に残る出来事がないらしい。

出会いの日。
彼女も知り合いと飲み会だったという。
飲み足りずに、帰宅の途にある小さな路地の交差点でひとり立ち止まる。

その信号のない小さな交差点は、Aのマンションの近くだった。

【Aのストーリーの続き】

夜の9時半。
この日は水曜日。
金曜日ならもっとハメを外していただろう。

コンビニで酒でも買って部屋で飲む選択肢もあった。
選んだのは、マンション近くの地元スナック店。
前年に会社の後輩と初めて訪れ、ボトルは入れていた。

出会いの数ヶ月前にひとり入った時、すごく混んでいて相手にされずいい気がしなかった。
ボトルは置いていたが、足が遠のいていた。
しかし、その日はなぜかその店に足を運ばせていた。

入店した。
水曜日だからか人が少ない。
ママのパトロンがいる程度だった(と後から聞いた)。

ひとりしとやかな年配の女性が先にいたような記憶。
カラオケで「El Cóndor Pasa(コンドルが飛んでいく)」を歌っていたのを鮮明に記憶している。
Aはアリスの「狂った果実」を歌った。

生まれてきたことを
悔やんでないけれど
幸福に暮らすには時代は冷たすぎた
中途半端でなけりゃ 生きられない
それが今
(「狂った果実」より)

その後、Tが入ってきた。
出会い、いや、再会だった。

【Tのストーリーの続き】

運命の交差点。
どうしようか、数分間立ち止まったという。
帰宅するか、お店に行くか。

結果、お店に向かった。
実は前年までバイトしていた店。
ママも常連客もよく知っていた。

バイトをやめたのは、母が亡くなった年末。
その年末、Aが会社の同僚とその店に入ったが、深夜0時を過ぎていたのでTが断った。
Aは覚えていなかった。

そして…

ここからはプライベート性が高いので有料とさせていただきます。
興味がある方にのみ共有します。

【A&Tのストーリー】

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