まさかの人生(2)
(結婚は突然に…一緒に暮らそう)
ジェイと付き合い始めてから、2週間が経った頃、日本人のフラットメイトの帰国日が決まった。
かなり大きい家の前半分に、大家さんが住んでいて、壁で完全に分かれた後半分が、フラットとして貸し出されていて、そこに住んでいるのが、私たち。ベッドルーム2つ、バスルーム(トイレ付)、キッチン、ガレージ、超大きいダイニング兼リビングルーム。キッチンで料理をしていると、遠くにオークランドのダウンタウンがちらちら見える。
1人で住むには大きすぎるし高すぎる。次のフラットメイトを探さねば。探すとなると、知り合いに声を掛けたり、地域新聞や日系の情報誌に、’フラットメイト募集’などを出さなくてはならない。もし見つかったとしても、その人との相性が悪かったら、また見つけ直しである。それも仕事をしながら、これらの事をする…(?)考えただけで、疲れるし面倒臭い。なんか良い考えはないかぁ???
そこで思いついたのが、ジェイくん!たかが2週間のお付き合いなのだが、なんだか一緒にいて心地が良い。こう言う人と、ずーーっと一緒にいられたら、きっと楽なんだろうなぁ。なんか自分が、好きな自分でいられそう。などなど、まぁいろいろ思い始めていた。かと言って、私の場合、この感情が結婚に直結しない。純粋に一緒にいたいだけである。でも、これは訊いてみる価値がある。一番手っ取り早いかもしれない。(とにかく面倒臭がり屋である)という事で訊いてみた。
「ねぇ、フラットメイトが日本に帰るの。引っ越してくる?」
「良いねぇ。引っ越すよ。」二つ返事である。
「ただ条件があるの。私生活は静かに暮らしたいの。仕事場でいつも、人に囲まれて、人と常に関わり合ってるから。私生活に、情熱的なものは、望まないでほしい。」
「了解。それで良い。」なんと私の自分勝手を、受け入れてくれた。よし、決まり!
付き合いだしてから4週間をちょっと過ぎた頃、日本人のフラットメイトと入れ替わりに、ジェイは、自動車、バイク、コンピューター一式と共に、私のフラットへ越してきた。メインベッドルームを2人の寝室として使い、小さいベッドルームは彼のコンピュータールーム兼お客様用寝室に。
ジェイにとって、この引っ越しはかなり良い条件。とにかく仕事場までの距離と所要時間が、ぐっと縮まった。奥さんが出て行ってからの2年間、親の家に厄介になっていた。一山超えた西海岸に住んでいた。ここは、仕事場のあるダウンタウンが見える位置。ハーバーブリッジを渡るだけである。
私のシフトが朝番の時は、バイクの後ろに座り、一緒に出勤そして帰宅。バイクの後ろで眠くなってしまうと言うのが、私の悪い癖。フルフェイスのヘルメットをかぶっている。眠くなると、当然頭は前へ倒れる。私の頭で、彼の頭も前へ。顔を上げて前方を見なくてはならないのに、私の頭が邪魔をする。さすがに、″寝るな″と言われる。大変失礼いたしました。遅番の時は、夕食を作ってから通勤。私は、夕食の半分をお弁当で持って行く。ハーバーブリッジを挟んであっちとこっちで、同じ夕食。と言っても、別にジェイの顔を浮かべて、食べているわけではない。
私の生活も、少々変わった。PCである。コンピューターが家にある。ジェイに促されるがまま、使い始める。家で一人使っている時に、何か不都合があると、ジェイに電話。
「なんかおかしいんだけど…」
「後ろを叩けば、治るよ。」むかしのPC はこんな調子だった。
火曜日-土曜日のシフトの私。土曜日はシフトに関係なく、ジェイは自動車で送ってくれる。便利である。ありがたい。ある土曜日、私を送った後、やる事がないので、オフィスで働いていたジョイ。仕事に飽きたようで、ショッピングセンターへ行って、スピードくじを買ってみた。スクラッチ。なんとこれが、$1000ゲット。換金前に、ニコニコしながら、お店で働いている私の所へやってきた。そっとウィニング・チケットを見せびらかす。びっくり!その後もっとびっくりしたのが、$1000を$20札だけでもらってきた。大きな額が当たったことがないジェイ、私の事を’幸運の女神’と呼んだ。(ハハハ、こっぱずかしい)
ちなみに私は、小さい頃から’くじ運’が良い。母も、「タン、貴女引いてちょうだい。」と言うので、スピードくじを引くと、それなりの物を貰える。ただポケットティッシュ以外は、それなりに重量があったり、かさばったりして、持ち帰るのに苦労する。
この時初めて、お店で働いている人達に、私達が付き合っていることが、あからさまになる。チャイニーズのサムが、私の所へ来て…
「タン、お似合いだよ。あいつは良いやつだ。良いのを見つけた。」このサムさん、チラッチラッと、ポロッと何かを言ったりするときがある。それが結構、的をついてる。
一緒に暮らし始めて、1か月ほど経った頃、ジェイのご両親から、ランチの招待を受ける。(うっそ~ただ一緒に住んでるだけじゃん。親に関係ないし。)この時点で、来年ヴィザが切れたら、待望のスペインへ移動しようと、漠然とした思いがある。親に会うなんて、とんでもない行為である。と言いつつも、むげに断る事も出来ず、その日が来てしまった。確か土曜日だった。
ご両親の家(ジェイが私と会うまでの2年間過ごした家)。到着して、びっくり!!!はめられた…なんと、ご両親2人に加え、長男夫婦、次男夫婦、ホリデーで滞在中のお姉さんまで、好意的な微笑を浮かべながら待っていた。(ジェイは5人きょうだいの末っ子)これは、ジェイのメインの家族の8割には会ってしまった状態。抜けているのは、三男夫婦とお姉さんの旦那さん。信じられない。
胸の内でモヤモヤ、イライラしながらも、お互い自己紹介をし合い、ランチのセッティングが始まる。とりあえず、私も少々お手伝い。9人がテーブルに着き、ランチが始まる。ハムやローストチキンがメインで、コールスロー、地中海風サラダ、ローストベジタブル。デザートにパブロバと暖かいペイストリーにアイスクリーム。そのあと、山盛りのフルーツが、剝かれることなくそのまま大きなお皿で出てくる。
大人数でのランチ、お食事は美味しい、会話も弾む。大人数過ぎて、誰と何を話したかなんて、覚えちゃいない。あちらは7人、こちらは1人。(ジェイは数に入らない)きっと色々聞かれたのだろう。私の出生、家族の事、何が趣味だとか、ほぼ面接状態。無事、食事と会話(面接)をこなす。
そして、皆んなお腹がいっぱい。腹ごなしに、自動車で家から見える海岸へ散歩に出かける。ライオンロックと言うちょっとした岩山があり、その左右に延々と続く浜辺。それぞれのペースで、飽きるまで歩いて行き、適当なところで折り返す。
家に戻り、アフタヌーンティー。残りのケーキを食べたい人はそれを食べ、それぞれ紅茶やコーヒーを飲む。デッキに出て、散歩をした海岸を眺めながら、ゆ~~っくり。高台にあるこの家からの景色は、絶景、最高。(シチュエーションが違ったら、もっと楽しめる)このランチ会食後、この家へ何度も足を運ぶこと、たびたび。
ジェイとの生活は、平和でのんびり、ほのぼの楽チン。これが落とし穴。知らず知らずに、体重が~~~ふえた。(不覚)そう、ユニフォームのスカートが、きつくなってきたような。ジムを頑張らねば!30分歩いてジムへ。遠い。でも、ウォーミングアップだと思って、頑張ろう。30分かけて帰宅。歩き始めたら、一歩一歩家に近づく。大丈夫、出来る。何が大丈夫だ。帰宅した頃は、上から下まで疲れ切っている。全く脂肪が付くのは速いが、落とすとなるとまぁ大変。そういう時も、よく気が付くのがチャイニーズのサム。
「幸せ太りだね。タンちゃん。」
背は低いが、胸板が厚く、鍛えているサムさん。他人の身体の変化にも敏感のようだ。(ありがとさんよ…十分承知)
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